「左之さん助けて!!」
「うぉっ!?」
突然そんな声を上げて飛び込んできたの姿に、部屋でのんびりくつろいでいたらしい男は驚きの声と表情で迎える。
「な、なんだいきなり?」
「いいからとにかく匿って!」
理由は後で説明するからと必死の形相で言う彼女に原田は分かったと頷く。
「それじゃここに入ってろ。」
さっと押入を開けてを促した。
迷うことなく頷くとひょいとその身体を狭い空間へと滑らせ‥‥
「左之。」
ほどなくして襖の向こうから声が聞こえた。
斎藤だった。
もう復活したらしい。
ぎくりと身体を強ばらせながら襖の中で息を殺すことに専念すると、原田が向こうでおうと声を上げるのが聞こえた。
「どうした?なにかあったのか?」
さっきから喧しいみたいだが‥‥と言われ、斎藤はなんでもないと首を振った。
「‥‥を見なかったか?」
「?」
原田はひょいと眉を跳ね上げた。
そういえば‥‥とは思い出す。
原田はあまり嘘が得意ではなかった気がする。
というかど下手だ。
元々根が正直という事で彼は嘘を吐くと必ず露見してしまう。
やばい、まずい、このままでは見つかる。
は押入の中でだらだらと汗を流しながらとにかく上手く誤魔化せますようにと祈るばかりだ。
「‥‥あいつに何かあったのか?」
原田は問いかけには答えず、逆に訊ねた。
訊ねられ、斎藤は口ごもる。
まさか、
――無理矢理犯そうとして逃げられた‥‥などと言うわけにはいかない。
「‥‥少し、聞きたいことがあったのだが‥‥」
知らぬのならいい、と斎藤はあっさりを身を退いてくれた。
追求されて困るのは彼の方だったから、かもしれない。
「邪魔をしたな。」
短くそれだけを言うと、すっと襖を閉めてすたすたとどこぞへと歩いていってしまった。
「‥‥た‥‥助かった。」
はほっと溜息を零し、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
ややあって、すっと襖が開かれる。
「大丈夫か?」
「おかげさまで‥‥」
心配そうに原田に問いかけられ、は苦笑を零しながらのそのそと押入から這い出た。
「助かった‥‥」
これで万事解決だ。
と額の汗を拭う彼女に原田は苦笑で訊ねる。
「一体なんの騒ぎだ?
さっきからやけに騒がしかったが‥‥まさかおまえ斎藤に追いかけられてたのか?」
何をしたんだと悪戯っぽく言われ、はそれはこっちが聞きたいと唇を尖らせた。
「私は何もしてませんよ。
あの二人が突然おかしくなっただけで‥‥」
「あの二人‥‥ってことは、斎藤以外にも追われてんのか?」
「総司に、ね。」
疲れた様子では頷いた。
「おいおい、おまえ一体何をしたんだ?」
新選組きっての使い手であるあの二人に追いかけられたとはそりゃ大変だっただろう。
よく逃げ切ってこられたなと感心すれば、だから、とは疲れたように口を開いた。
「私は何もしてないってば‥‥」
「じゃあなんで追いかけられてんだ?」
「‥‥あの二人が突然、私に「子供を産んでくれ」なんて言うからですよ。」
その言葉にぴくっと原田の形のいい眉が跳ね上がった。
なんだと?
と言いたげな表情で。
「ったく意味が分かんない。
なんで子供なわけ?っていうかなんで私なわけ?」
がしがしとは頭を掻きながら文句を垂れる。
子供が欲しければどこぞでいい人でも見つけてくればいいだろうに。
別に妻を娶ってはいけないなどという決まりはないはずなのだから。
「人の意志も確認せずにいきなり襲いかかってきて‥‥
あいつらは盛りのついた猫かっていうんですよ。」
ああそうか、もしかしたら発情期なのか。
だとしたら色町にたたき出してやるというのに。
「‥‥おまえ‥‥何かされたのか?」
まさか誰かに肌を許したのかと問われてとんでもないとは首を振った。
「一も総司も、一発食らわせて逃げてきました。」
誰が大人しく子を宿してやるもんか。
なんの説明もなしに‥‥いや、あったところで子供なんか産んでやらないけど‥‥
「よかった‥‥」
ほっと安堵したような声が聞こえた。
だけど、
「じゃあ‥‥俺の可能性が一番高いって事だな。」
次いで聞こえた一言に、一気に不安が押し寄せた。
「え?」
一体なんの話?
ゆっくりと顔を上げればなんだか妖しげに微笑む男の顔が映りこんで――
ま ず い。
本能的に察知するのと、男の手が伸びるのが同時。
「ぁっ!」
いや、男の手の方が早かった。
大きな手が両手を絡め取ったかと思うと、畳の上に押しつけられた。
「ちょ、さ、左之さん!?」
男の身体が完全に自分の上に乗って、動きを封じている。
見下ろすその表情には見覚えがあった。
沖田や、斎藤と、同じ‥‥それ。
「う‥‥嘘‥‥」
はざぁっと青ざめた。
嘘だそんなはずがない。
彼がそんなことをするはずが‥‥ない。
だというのにこの体勢はどういう事だろう?
に、と男は妖しげに笑みを湛えた。
「悪いな‥‥俺も男って事だ。」
その言葉が、とどめ――
「うわぁあああん、左之さんだけは違うと思ってたのにー!」
あの馬鹿二人とは絶対に違うと信じていたのに。
だからここに来たのに。
疑うことなくここに来たのに。
なのに、彼も彼らと同じようにに手を掛けるというのか‥‥
「わ、や、ちょっと!?」
両手を頭上に縫い止めた男はぐいっと袷を乱した。
そうしてサラシに包まれた胸をとんとんと上から優しくなぞるように叩くと、
「まあ、観念して俺の子供を産んでくれ。」
なんてあの二人と同じような事を言ってのける。
冗談じゃない――
は思いきり首を振った。
「な、なんで!?私左之さんの妹じゃないの!?」
自分も兄同然だと思っていたのにどうしてこんな真似をするんだと喚く。
そうすると彼はひょいと困ったように両の眉を寄せ、
「俺は‥‥妹なんて思った事はねえよ。」
なんて切なそうな眼差しで見つめてくるのだ。
妹ではない、
一人の女として見ていた。
と。
そんな‥‥とは口をあんぐり開いた。
その間に男の手はサラシの端を解いて、するすると器用に片手で緩めていく。
「うわわわわ!ちょっと!人が少なからず落ち込んでるってのに勝手に進めないでくださいよ!」
「勝手に思いこんでたおまえが悪い‥‥」
「私のせいじゃないでしょ!
っていうか、勝手に解くな!この助平!!」
「男は助平な生き物ってことだ――」
そうこうしている内に、
「あっ――!」
しゅるとサラシを解かれ、抜き去られた。
放り投げたサラシがはらり、と床に落ちるのをは呆然と見つめつつ嘘だともう一度呟いた。
「‥‥やっぱり思ったよりもおまえいい身体してるんだな。」
現れたふくよかで柔らかな胸を見て原田はくつりと喉を震わせて笑った。
サラシで隠しているのが勿体ないくらい‥‥綺麗な形をしていた。
「うわ、ちょっ!」
我に返り慌てて隠そうとするけれど、生憎と両手は塞がっている。
身を捩ろうとしても身体を押さえつけられて出来ず、動けば動くだけ、ふるんとその柔らかいそれが揺れて、男の欲を
煽った。
「肌も白ぇし‥‥ここの色も桃色で‥‥なんだか美味そうだ。」
「わ、私は食べ物じゃありません!」
「馬鹿‥‥食い物よりもずっと‥‥」
空いている片手がそっと伸ばされた。
「や、やめっ‥‥」
それは迷うことなくふくよかな丸みに伸ばされ、
むにゅ――
「っ!!」
大きな手が絡みつく。
些か乱暴なそれには痛みさえ覚えてびくんっと身体を震わせた。
「ああ悪い、痛かったか?」
そうだよな、女はもっと優しく扱ってやらないとなと原田は言いながらその手を緩め、
たぷたぷと揺れる様を楽しむように胸を揺らす。
「ゃ‥‥左之‥‥さっ‥‥」
「柔らけえ‥‥」
なんだよこれ、と指を埋めて彼は恍惚とした様子で呟いた。
「吸い付いて‥‥離れねえ‥‥」
むにゅと指が沈むそれは、まるで彼の指に吸い付くかのような感触だった。
それが気持ちよくて堪らなくて‥‥
「んんっ!」
原田は掌全部で包み込んで、揉みしだく。
ぐにゃ、と男の手によって形が自在に変えられた。
痛い。
と内心で思ったのに、身体を襲うのは別の感覚だった。
じわ、
とは身体の奥からにじみ出す何かに気付いてきつく唇を噛みしめる。
このとんでもない状況‥‥だというのに自分がそうなっているのは分かっていた。
生娘ではない。
その感覚は知っていた。
そう、
感じるという感覚は。
でも認めたくなかった。
こんな無理矢理されて感じるだなんてそんなの‥‥
「‥‥なんだ、こっちがどうかしたのか?」
身体の奥から溢れる疼きをどうにかしようと、無意識に内腿を擦り合わせていたらしい。
それに気付かれ、ははっとした。
「ち、違う!」
これはその‥‥と言い訳を口にしようとしたが、原田とて女を相手にするのは初めてではない。
彼女が何故そんな事をしているかなど容易に分かった。
「そうだよな。
こっちを触ってやらねえと‥‥」
するものもできねえよなと熱っぽく囁き、彼は穿き物に手を掛けた。
「い、いい!しなくていいから!」
だから脱がす必要なんかないと首を必死に振ったけれど男は笑みで応えるだけで‥‥
「よ‥‥」
するんと指先を引っかけて、これまた片手で器用にずり下ろしてしまった。
「ぎゃぁっ!」
色気のない声が上がってしまったが勘弁して欲しい。
腿まで下ろされれば後は簡単だった。
するん、と爪先から抜かれて、ぽい、と投げ捨てられれば腰巻一つ巻いていない女の下肢を守るものは何もない。
「暴れるなよ?」
と前置きをして、片手で人の脚を抱え上げたかと思うとひょいと大きくそこを開こうとした。
もう、終わりだ――
は羞恥にぎゅうと目を閉じ、誰でも良いから、この状況を救い出してくれと珍しくも神仏に祈った。

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