きぃっ。
  門から飛び出すと目の前に黒い車が止められる。
  思わず轢かれそうになり、二人は慌てて立ち止まった。
  しかし、轢かれそうになった以上に驚いたのは、
  「千鶴っ!?」
  彼女がハンドルを持っていた事だろうか。
  免許を持っていないはずの彼女は何故かその運転席に座っていてハンドルを握っていた。
  「何してやがるんだ!」
  危ねえだろ、と怒鳴りつけると彼女は「ひゃ」と小さく怯えたように縮こまりながら口を開く。
  「だ、だって、離れた所に止めて置いたらすぐに逃げられないと思ってっ‥‥」
  いや、まさにその通りである。
  すぐに逃げるためには有り難いと言えば有り難い。
  だが、無免許運転というのは少々、いや、かなり問題があるだろう。
  千鶴は他の好奇心旺盛な男子たちとは違って、車を運転するのは初めてだろう。ハンドルも握った事はないんじゃないだ
  ろうか。
  そんな彼女がよく車を動かす事が出来たというものだ。
  「とりあえず、代われ。俺が運転する。」
  「は、はい!」
  「待て、その前にサイドブレーキを‥‥」
  慌てて立ち上がろうとする千鶴に土方は言うけれど、
  「あ、大丈夫ですよ。」
  いつの間にか助手席に回った沖田がこちらは問題ない、と手をひらりと揺らして答えた。
  「さん‥‥」
  千鶴は運転席から飛び出すとの顔を見て、一瞬険しい顔になった。
  彼女は言いたい事があった。
  謝りたかった、感謝の言葉を口にしたかった、それと同時に少し彼女を詰りたくもあった。
  どうして一人だけ辛い想いをしようとしたか。
  どうして自分を頼ってくれなかったのか。
  彼女の想いは嬉しかった。でも、それ以上に苦しかったと。
  その気持ちを分かって欲しかった。
  でも、それよりも、
  「無事で、良かった、ですっ」
  今は、彼女が無事で良かったと思う。
  彼女が無事で、また、こうして会う事ができて、良かったと。
  「‥‥千鶴ちゃん‥‥」
  じわりと涙を浮かべ、唇を噛みしめて泣くまいとする彼女に、は自分の愚かさを今更のように思い知った。
  自分一人が犠牲になればいいと思っていたのは、ただの独りよがりな行為だ。
  彼女の為と思ってやった事は、結局彼女に重たい罪の意識を持たせてしまったのと同じ事。
  申し訳なくて、も思わず瞳に涙が浮かんだ。
  「ほら、二人とも。見つめ合ってないで早く車に乗りなよ。」
  そんな二人にやはり水を差したのは沖田だ。
  振り返れば屋敷の方から大勢の追っ手がやってくるのが見える。
  千鶴は慌てて目元を手の甲で拭うと後部座席に滑り込んだ。
  「ま、待ちなさいっ!!」
  ばたばたと慌ただしい足音が迫ってきた。

  その時突然、

  ぎぃ――ウィイイイイン――

  という耳障りな音を立てて重厚な門扉が閉ざされていくではないか。
  これには慌てた。
  「誰だ!?誰が操作してるんだ!」
  「守衛室に連絡しろ!早く門を開けさせろっ!」
  ガシャンと閉ざされ外界と遮断された中で慌てふためく声が聞こえる。
  「な、なに!?制御が出来ない!?」
  「外部から操作されてるだと、一体どういうことだ!」


  遠く離れた所から大元のコンピューターを優雅に操作しながら、彼はのんびりとこう口にした。
  「持つべきものは、頼もしい友人‥‥ですよね。」
  モニターに映る取り乱す男たちの姿に、山南は眼鏡の奥の双眸をそうっと細めて、笑った。