「がお昼を一緒に食べるなんて珍しいよね。」
賑やかな教室から離れ、沖田は静かな屋上へと向かう。
春先は日差しが暖かくて絶好の昼寝場所なのだが、十一月ともなると寒くてとてもじゃないが屋上には出られない。
その代わり、屋上に続く階段の‥‥人気のない所でお昼を食べるのが彼らの日課だった。
半年前まではも、千鶴や彼と同じようにそこで弁当を食べていたものだ。
半年前‥‥彼とつきあい始めるまでは。
「え?私邪魔?」
ねえ?邪魔?と聞いてくるに、千鶴が慌ててそんなことありません!と首を振った。
「ご一緒できて嬉しいです!」
「千鶴ちゃんはほんとにいい子だなー」
ありがとうと言いながらぎゅっと小さな身体を抱きしめる。
沖田はそんな二人を見つつ、羨ましいなと内心で呟いた。
「それより、いいの?」
「いいって‥‥なにが?」
「なにがって‥‥」
トントン、と屋上へと続く階段を昇りながら沖田は不満げに呟く。
「いや、ほら、いつも‥‥一緒に食べてるのに‥‥今日はこっちでいいの?って聞いてるの。」
別に彼が一人で食べてようが、知った事じゃない。
せいぜい寂しく一人昼食を取るがいいとさえ思うけれど、そんな事をが黙ってみていられるのか‥‥と言えば、
「‥‥あ、うん。」
平気。
とは笑った。
その笑顔と、妙にあっさりとした様子に違和感を覚えていると、彼女はそんな事より、と話題を無理矢理だがさりげなく
変えた。
「この間渡された入試問題やっててさ‥‥ちょっと一つ分からない所あったんだけど‥‥総司分かる?」
目的の場所に一番乗りしたはお弁当を広げる事もなく、数字があれこれと書き込まれているプリントを広げだした。
続いて腰を下ろしながら、どれ、と覗き込んだ沖田は、
「ああ、ここ‥‥僕もよく分からなかったんだよね。」
と答えて肩を竦めてみせる。
後ろから覗き込んだ千鶴にはちんぷんかんぷんだ。
「‥‥そっか‥‥総司にも分かんないか‥‥」
うむ、と唸りながらシャーペンを銜えては数字を書き込む。
昼食そっちのけ、で、ああでもないこうでもないとブツブツ一人呟き始める彼女に、
「それなら、先生に聞いた方が早くない?」
と沖田は勧めた。
「‥‥確かに、先生に聞いた方が早いんだけどさ‥‥
永倉先生‥‥今それどころじゃないだろ?」
「ああ‥‥競馬に夢中だからね。」
あの人は本当に教師なのだろうかと呟きながら、沖田は広げた弁当をぱくつき始めた。
それで漸く、隣の千鶴も弁当にありつける。
しかし、
「‥‥」
ぱくつきながら、ちらりと横目で彼女を見た。
心なしか‥‥ちょっと顔色が悪い気がした。
もしかして、その問題が解けなくて徹夜をしたというのだろうか。
それはないだろう。
確かに負けず嫌いだが、そこまで勉強熱心というわけでもない。
でも明らかに寝不足に見える。
それに、なんだか‥‥無理をして明るく振る舞っているようにも見えた。
「‥‥」
まさか、いや、そんなわけがない――
「‥‥ね、永倉先生が駄目なら、他の先生に聞くって言うのは?」
「んー?
でも、こんな難しいの答えてくれる人いるかなぁ‥‥」
は視線を上げずに、文字と睨めっこしている。
そんな彼女に沖田は言った。
「土方先生。」
腐っても、難しい大学受験を突破した教師の一人である。
専門は古文だが、試験には英語も、勿論数学もあったに違いない。
専門外とはいえ‥‥自分達よりもよく知っているのは確かだ。
彼に聞いてみるといい。
可愛い彼女のお願いだ。
きっと答えてくれるだろう。
そう、
男は内心で呟いたけれど、
「っ」
ぴり、
との空気が凍り付いた。
同時に、その瞳が一瞬、恐れの色を浮かべ‥‥揺れる。
「‥‥?」
揺れたのは一瞬で、次の瞬間、その瞳は何事もなかったかのように色を取り戻していた。
「それは無理かな。」
そうして彼女はけらけらと笑うと、呆気なくこう言った。
「だって‥‥私たち、別れたから。」

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