全体を包み込んで、円を描くように動かし、
  しっとりと掌に馴染んだ所で少し強く指を埋める。
  どこまでも沈んでしまいそうなくらい、そいつの胸は柔らかい。
  ぐにゃぐにゃと形を歪めているうちに指の間で鮮やかなピンクの乳首がここにも触れてというみたいに勃ちあがった。
  それを指と指の間に挟んで擦りあわせると、は目を見開いて甲高い声を上げる。
  そうしてすぐに切なげに目を細めて俺を見上げてくる。
  咎める‥‥というよりは強請られている気がして、俺は顔を近づけた。

  汗ばんだ肌を味わいながら、わざと焦らすように乳首の周りをくるくると舐る。

  「や、もっ‥‥」

  意地悪、という声が俺を詰った。
  甘く掠れるそれに俺は悪いと内心で謝りながら、が望むように赤いの果実に唇を落とす。

  「ふ‥‥ぁああ‥‥」

  唇で挟んで、吸い上げると‥‥蕩けそうな甘さが口の中に広がる。
  俺は飴でも舐めるようにそれを口の中でころころと転がす。
  そうしながらもう片方の乳首をきゅっと摘んでやるとは甘ったるい声を上げて、腰を浮かせた。
  下腹にのそこが押しつけられる。
  まるで、早く入れて欲しいと強請られてるみたいで‥‥堪らなかった。

  俺だって早くナカに入りてえ‥‥

  それを伝えるみたいに、俺は自分の熱くなった股間を彼女のそこに押しつけた。

  「っ」

  熱さと固さに‥‥は目を見開いて俺を見る。
  俺はそのまま前後に擦りつけるみたいに腰を動かした。
  布越しに、ぬるりと濡れた感触が伝わった。

  のそこは、もう、濡れていた。

  「我慢‥‥できそうにねえな‥‥」

  は、と溜息を漏らし、俺は前後に擦りつけながら段々と大きくなっていく自身に気付く。
  一月ぶりだ。
  まだろくに慣らしもせずに入れたら‥‥絶対を傷つける。
  分かってるのに、男の欲望ってのは収まらない。
  まったくどうしようもない。

  くつ、と喉を震わせて笑うと、ふと下半身の締め付けが緩くなっている事に気付いた。

  「え、あ、おい?」

  だった。
  彼女は俺のベルトを緩めて、ファスナーを下ろすと俺の肩を少し押して、上体を起こす。
  何をするのかと見守っているとは一瞬だけ躊躇った後に下着の中に手を差し込んできた。

  「っ!?」

  これには俺も思わず声が上がる。
  いつもはされるばかりで、触れと言っても首を横に振っていたのに‥‥今日は随分と大胆だ。
  しなやかな長い指が俺のものを掴み、ずるりと引きずり出す。
  我ながらグロテスクな光景だと思う。
  女からすりゃ‥‥泣き出したくもなるだろう。

  「‥‥っ」

  は一瞬青ざめた顔でそれを見つめた。
  多分、こうして目の当たりにするのは初めてだろう。

  こいつには男の兄弟もいないからな。

  「‥‥」

  自分が見てもエグい‥‥とは思うが‥‥好きな女にエグいと言われるのは、正直辛い。
  目を逸らされて見なかった事にされるかと思いきや、は突然決意したように唇を引き結んで、
  「っ」
  俺の脚の間に顔を埋めようとする。

  躊躇いがちに、俺のそれに唇を寄せた。
  クチでするつもり‥‥だ。

  「待て!」

  俺は細い肩を掴んで阻んだ。

  「駄目‥‥だ。」

  そんなこと、するなと俺は言っていた。
  そうするとは琥珀の瞳を悲しそうに細めて、

  「‥‥私がするのは、いや?」

  って訊ねてくる。
  その顔は‥‥反則だ。
  うっかり「いいよ」って言いたくなるじゃねえか‥‥

  「嫌じゃねえよ。」
  嫌、なんてあるはずがない。
  確かには素人だから勝手も分からないだろうけど‥‥好きな女にクチでしてもらうのは、正直嬉しいし、滅茶苦茶興奮する。
  多少下手でもしてもらってるって事実だけでイケそうだけど、

  「今日は、駄目だ。」

  俺は首を振った。

  今日は‥‥という言葉には怪訝そうな顔をする。
  いや、だから‥‥
  俺は決まり悪そうに視線を背けて、ぼそっと呟いた。
  「‥‥多分、すげぇ濃いのが出ると思う。」
  「え?濃い?」
  その意味が分からないらしい。
  そういや、コイツお勉強は出来るけど、その手の話はてんでオコチャマだったっけな。
  俺ははぁ、と溜息を零した。
  だから、と情けないが実態を暴露する。
  「‥‥一月以上‥‥抜いてねえんだ‥‥」
  この一月、俺は一切性欲処理をしていない状態だ。
  つまりは、一月分の溜まったもんが出るって事で‥‥
  「濃くて、苦いのが出ると思う。」
  多分、まずい。
  絶対‥‥

  「‥‥‥」

  そう告白するとは何故か驚いたように目を丸くしていた。
  なんだよ‥‥

  「俺が毎日抜いてると思ってたのかよ‥‥」

  そこまで盛ってねえぞ‥‥いやまあ確かに今はがっついちゃいるけど‥‥俺だってそれなりに大人で性欲のセーブくらい
  出来る‥‥

  「そう‥‥じゃなくて‥‥」

  はまだ信じられないと言う目で俺を見てくる。
  じゃあなんだ?

  俺はじっとその目を覗き込んだ。
  すると、は恐る恐ると言う風に唇を開いて‥‥

  「一月も何もなかったって事は‥‥理事長とは‥‥」

  何もなかったんですか?

  その問いかけに俺はなんだそんな事かと肩を竦めた。

  「ああ、してねえよ。」

  あっさりと肯定するとは呆気に取られた顔のまま、固まってしまった。
  その顔は「信じられない」と言いたげな顔だ。

  「なんだおまえ‥‥俺は誘われたら誰とだってやる節操無しだとでも思ってんのか?」

  そいつはひどい。
  別れた後も毎日おまえの事だけ考えてたってのに俺はそんなに薄情な男だと思われてるんだろうか?

  「だ、だって!」

  咎めるように言うとはだってと顔を歪めて反論した。

  「あの人‥‥私に、土方さんが情熱的に愛してくれるとか‥‥なんとか言ってたし‥‥」
  それに、と思い出して悲しげに眉を寄せる。
  「キスマークだって‥‥ついてた。」
  「キスマーク‥‥って‥‥」
  そんな覚えはと言いかけて、思い当たった。
  あの日の事か。
  俺は少しだけ顔を顰めた。

  「確かに‥‥キスはした。」

  悪い、と謝るとはしゅんと俯いてしまう。

  キスもしたしされたし、肌にも触れられたし、触れた。
  お互いの裸も見たし見られたし、キスマークだってつけられた。
  でも、

  「最後までしてねえ。」

  ――最後まではしてない。

  女のナカに入るどころか、女のナカにさえ触れてない。

  「‥‥」

  は視線だけでどうしてと問いかける。
  残酷な話をしてるってのにどうして彼女はこうも真っ直ぐなんだろう。
  傷つかないはずはないのに、どうして真実を知りたがるんだろう。
  知った上で、
  俺を許してくれるんだろう?

  俺は苦笑した。
  普段なら情けないと思う話だが、この時だけは誇れる思いだった。

  「‥‥勃たなかった。」

  その気になれなかった。

  例えば激しいキスをされても、色っぽく名前を呼ばれても、触れられても、何をされても、

  「――俺は反応しなかった。」

  そう。
  何も感じなかった。

  今日はその気になれないと言ってベッドから出て‥‥それから二度と肌を合わせることはなかった。
  もしと元通りにならなかったとして‥‥あの女とずっと一生居続けたとしても、

  「俺は‥‥あの女じゃできないって分かった。」

  だって何も感じないから。

  好きでもない女を抱いた事は何度だってある。
  快楽が得られればそれで良かったから。
  でも、
  と出会ってから‥‥
  変わった。

  気持ちがないと、もう、出来ない。

  どれだけ魅力的な女が相手でも、どれだけ相手にテクがあっても‥‥

  「俺、多分おまえじゃないと無理だ。」

  俺をじっと見つめてくるその頬に、触れる。
  滑らかな手触りをしっかりと刻みつけるみたいに触れて、滑らせる。

  「ぁ‥‥」

  戸惑いの声と共に、瞳に甘い色が再び浮かんだ。

  「土方さん‥‥」

  輪郭をなぞり、脚の付け根に手を伸ばすと泣き出しそうな声で俺を呼ぶ。
  そろりと布の上から触れれば指先に返ってくるのは確かに濡れた音と、柔らかな肉の感触。

  瞳が切なげに細められ、求めるような色を浮かべる。

  それだけで‥‥俺は、こんなにも高ぶって仕方がない。

  その瞳が、声が、吐息が、温もりが、
  彼女を構成する全てが、
  俺を狂わせ‥‥酔わせる。

  欲しいのはもう、ただ、一人――

  「もう、おまえ以外何もいらねえ。」

  誓うように指先に口づけると、は泣きそうな顔で‥‥頷いた。