それから土方は病院を勝手に抜け出した‥‥ということを看護士やら医者やらにこっぴどく説教され、ナースステーション
  の前の病室に監視のために移動させられる事になった。
  とにかく、傷が完治するまで最低1週間。
  外との接触を全面的に禁止された。

  ということで見舞いに行くことも出来ず、ちょっとだけ不安な日々を送ることになった。

  そうこうしている内に‥‥新学期が始まった。
  彼がいないままで。



  「さん、明日からの三連休どうされるんですか?」
  「そうだなぁ‥‥」
  どうしようかとは首を捻る。
  新学期始まってそうそう、三連休‥‥というのは若干気持ち的に休みボケから抜けられそうになくて困るものだ。
  別にこれといった課題は出されていないけれど、一月以上もサボった事を教師陣が心配していたからなぁ。
  授業自体には追いついているけれど、一ヶ月もサボったという事実は大きいかも知れない。
  とりあえずは家で過去問でもひたすら解こうと思っていたのだが。

  「その、さんさえ良ければ‥‥家に遊びに来ませんか?」
  泊まりがけで、と千鶴が提案をする。
  「薫も‥‥もちろんお父さんもお母さんもさんが来てくれるのを楽しみにしてますし。」
  「そういや、おじさんやおばさんと会うのは久しぶりかも。」
  両親が亡くなってから、千鶴の家で一緒に育てられたのだが、高校に入ると同時に一人暮らしを始めた。
  ずっと一緒にいてもいいと言ってくれたが、あまり迷惑は掛けたくなかった。
  一人暮らしをしてから時々顔を見せには行ったけど、二年になると忙しくなってめっきり行く機会も減ってしまった。
  かれこれ半年くらい顔を見ていない。
  「‥‥そうだなぁ‥‥」
  久しぶりに顔を見に行くのも有りかな。
  「ええ、それじゃあ僕、一人になっちゃうじゃない。」
  そう言えば、隣にいた沖田が不満げな声を上げた。
  「一人‥‥って、おまえ、お姉さんがいるだろ?」
  沖田も両親を早くに亡くしていて、年の離れた姉が一家を支えているのだという。
  何度か会ったことはあるが、とても気さくで、そしてパワフルなお姉さんだ。
  その姉と一緒に休みを過ごすんじゃないのかと聞けば、沖田はひょいと肩を竦めた。
  「姉さんは彼氏と旅行、だってさ。
  優雅なもんだよね。」
  「‥‥え?じゃあおまえも一人なの?」
  「そういうこと。」
  沖田はだから、とを見て、
  「も巻き込んで梅でも見に行こうかなぁと思ったんだけど‥‥」
  そんな事を言う。
  「も」
  って事は、
  「‥‥千鶴ちゃんも?」
  「ビンゴ。」
  ぱちぱちと拍手をされて、は溜息を吐いた。
  まったくこいつは‥‥

  「あのね、たまには千鶴ちゃんも家族と一緒に過ごさせてあげようとかそういう遠慮はできんのか、おまえは。」
  「えー、だって一人なんて寂しいし。」

  僕にあの広い家で一人でいろっていうの?
  と非難されては知るかと呟く。

  「じゃあ、私が付き合ってやるよ。
  花見でもなんでも‥‥」
  それなら文句がないだろうと言うと、今度は千鶴の方から「え」という戸惑いの声が上がった。
  「さんと‥‥ふたり、で?」
  二人きりで?
  と言われて、はこれは失念、と自分の頭を叩く。
  「いや、疚しい想いはこれっぽっちも微塵も、ミジンコほどもないから。」
  大丈夫、万が一にも沖田とは何もならない。
  それは断言できるとは言った。
  申し訳ないが沖田を異性として見られない。
  「ちょっと?」
  そこまで言うかと沖田は顔を顰めているが、無視だ。
  「疚しい気持ちはないけど、千鶴ちゃんが嫌っていうなら私行かないから。」
  安心して?とは笑う。
  友達だと分かっていても、自分の彼氏と女の子が二人で会っている‥‥というのはあまり気分のいいものじゃないよな。
  言葉にしてしまってからすいませんと恐縮する彼女には「いやいや」と手を振った。
  「それならやっぱり私、千鶴ちゃんの所に行く方がいいかな‥‥」
  「、僕は?」
  「千鶴ちゃんが空いてる時に遊んでやるから、我慢しろ。」
  「ちぇー」
  沖田は渋々という風に納得した。

  「それじゃ、遠慮なくお邪魔しますっておばさんに伝えておいて。」

  その約束をして、三人は別れた。