久しぶりに見る彼女の顔は‥‥以前に見たときよりも痩せていた。
  痩せた、というよりも、窶れたと言った方が正しいだろうか?
  瞳の色も前よりも元気が無くて‥‥どこか儚くさえ見える。

  ああ、これも全部自分のせいだなと思うと胸が痛んだ。
  自分が彼女をここまで苦しめたのだ。

  食事が喉を通らなくなるほど、
  何日も眠れなくなるほど、

  自分は彼女を苦しめた。

  ぎゅっと唇を噛みしめて、未だ衝撃から戻って来られない彼女へと一歩近づく。

  かつんと固い床を松葉杖が叩いた。
  ちり、と足と脇腹に鈍い痛みが走る。
  薬が切れるまで‥‥あと、もうちょっと。
  そうなったらまともに話も出来なくなるだろう。
  その前に‥‥

  伝えたい事があった――



  夢じゃなければ‥‥彼がここへ来たのはどうしてだろう。
  自分に会いに?
  いやまさか。
  はそんな淡い希望はすぐにうち捨てた。
  そんな希望を抱いて期待すればするほど、彼から離れられなくなると分かっていたから。
  それ以外の理由は‥‥ああそうか。
  この部屋に用があったのか。

  「‥‥山南先生なら‥‥いませんよ。」

  ふい、とは視線を逸らした。

  この部屋に用があった。
  つまりは、この部屋の主に。

  「どこに行ったのかは‥‥分かりませんけど‥‥」

  ここにはいません、とは視線を逸らしたまま告げた。

  土方はそうか、と静かに応えただけだ。

  彼がいなければここに用事はないはず。

  もうじきここに別の男が来るのだ。
  早く行って欲しい。
  出来れば、彼には見られたくなかった。
  何故か後ろめたい気分になった。

  「‥‥」

  でも彼は動かない。
  近づくことも離れることもせず、ただ、そこに立っている。

  そうなるとの方が逃げ出したくなった。

  「‥‥私‥‥良かったら山南先生を呼んできましょうか?」
  そう言ってみたが、彼は頭を振った。

  「用があるのはあの人にじゃねえ。」

  彼に用があってここに来たのではないと彼はきっぱりと言った。

  じゃあ、なに?

  どきん――

  と胸が一つ打った。

  その瞬間、不覚にも視線を上げてしまって、

  「‥‥あ‥‥」

  紫紺の瞳に捕らわれてしまった。
  まっすぐに自分を見つめるそれに。
  彼はひどく、優しい目をして自分を見ていたから。
  優しくて‥‥熱い、眼差しで。
  まるで――愛しい人を見つめるみたいな、目で。

  そんな‥‥はず、ない。

  そんな‥‥はず。

  土方は、その目をそらさずに、答えを教えてくれた。

  「紹介して貰ったからだよ。」

  紹介してもらったから。

  なにを――?

  もう自分が馬鹿になったような気がした。
  いちいち答えを聞かないと‥‥分からなかった。

  だけど、彼は気を悪くした様子もなく、

  「総司の野郎に頭下げて、おまえを紹介してもらったんだよ。」

  少し決まり悪そうな顔でそう答えた。

  どき、ん

  痛いくらいに、胸が、高鳴った。

  「なんの‥‥ため‥‥に?」

  期待はしたくなかった。
  でも――もしかしたらと思ってしまう自分は、弱いのだろうか。

  そんなの決まってると彼は言う。

  「おまえと‥‥また一からやり直すために――」

  これが夢だとしたら‥‥残酷すぎる。