保健室に来るように言ってあるから先に行っておいて、と沖田に送り出された。
どうして保健室‥‥と思ったが、まあそこを指定されているというのならば赴くことにしよう。
保険医の山南の了承は得たというのだろうか。
「‥‥あれ?いない?」
珍しく人がいない。
しかし鍵は開けっぱなしだ。
「‥‥まさか総司が山南先生を買収?」
いやそんな山南が彼に弱みを握られるとは思えない。
「じゃあまさか、山南先生が紹介したい相手?」
んな馬鹿な。
はないないと可能性を振り払い、とにもかくにも保健室へと入ることにした。
ふわり、とやっぱり消毒液の香りがした。
久しぶりに来るなと思いながら、主のいない保健室をきょろきょろと見回した。
整頓された机の上には、ノートが一冊。
保健室にやってきた生徒の様子を記した、問診票だ。
その向こうには薬品棚があって、きちんと施錠されている。
そういえばこの部屋はいつも綺麗だなあなんて思いながら見回していると、ふいに、
かつん、
と物音が聞こえた。
廊下に響くその音は、どうやらこちらに近付いてきているらしい。
――きた――
はなんだか緊張してきた。
別に今日は顔を合わせるだけで、会ったらすぐに付き合うという話ではない。
沖田曰く、
「紹介して欲しいって言われたけど、嫌なら嫌ってきっぱり言ってくれていいからね?」
というものだった。
かつん、
音は段々近付いてくる。
どきどきと胸は高鳴る癖に、その奥でちくりと僅かな痛みが生まれる。
まるで新しい恋をする自分を苛むように。
ううん、これでいいんだ。
はそっと目を閉じた。
これでいい。
新しい恋をしよう。
今までとは違った新しい恋。
もしかしたら‥‥何かが始まるかもしれない。
始まる前から決めつけるのは良くない。
踏み出すと決めたんだから。
「きっと見つかる‥‥」
自分だけの幸せがきっと、
見つかる。
そうしたらきっと、
笑ってあの人を送り出す事ができる。
そう、
今日は、
その第一歩。
「今日から‥‥」
きぃ――
はじめよう。
ドアが静かに開いた。
「‥‥え?」
かつん、とその人は固い床を叩く。
ぱちくりと‥‥一つ、瞬き。
そうしても、目の前の景色は変わっていなくて。
「‥‥なん、で‥‥?」
は訊ねていた。
どうして、なんで?
人生でこんなに動揺した事はないというくらい、は動揺していた。
目の前の出来事は夢なんじゃないか。
そんな事さえ考えるほどに、動揺している。
だって、あり得ない。
あるはずがない。
「初めまして‥‥って言うべきか?」
見慣れた意地の悪い笑みを浮かべるその人は、
今更という言葉を口にする。
あるはずがない。
彼は今頃病院のベッドの上で眠っているはずだ。
まだ傷も塞がっていないから動き回ることも出来ないはずだ。
あるはずが、ない。
「土方さん‥‥」
彼が、
自分の目の前に、現れるなんて――

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