「総司、誰か男の人紹介してくんない?」

  冬休みが明けたある日の事。
  の言葉に、千鶴はあんぐりと口を大きく開いた。
  何を言っているのか信じられないと言った顔だ。
  しかし何故か沖田は予期してと言う顔で、

  「‥‥構わないけど‥‥いいの?」

  本当に、と聞かれ、は迷わず頷いていた。

  「もう、いいよ。」

  逆に無理ではない笑顔に‥‥心が痛んだ。



  千鶴は不満で仕方がなかった。
  だって、お互いに本当に好きだというのはあの時分かった。
  は土方を本気で愛していて、土方もを本気で愛していると。
  じゃないと、身を挺してでも庇おうなんて思わない。
  それだけじゃない。
  土方は何度も迷っていた気がするのだ。
  を傷つけるのを。
  迷って‥‥でも、仕方なく傷つけていたような気が。

  それは君の気のせいだと言われるかもしれないけれど‥‥これは真実だと思う。

  二人の想いは‥‥本物だったから。
  それを近くで見ていて、知ったから。

  だが、はもういいと言った。
  自棄になっていないかと訊ねたらそんなことないよと『嘘ではない笑顔』で言われた。

  「私、あの人だけしか見てなかった気がするんだ。」

  彼だけいればいいと、それ以外は見ていなかった気がすると。

  確かにまだ彼のことを諦めきれてはいないけど、もしかしたら他の人で見つかるかも知れないと、彼女は言った。
  彼くらい、愛せる人が、見つかるかもしれないと。

  ――だから――

  自棄なんかじゃないよとは笑った。

  千鶴には納得できなかった。

  自分のしようとしている事はの新しい恋を邪魔しようとしているのは分かっていたけれど‥‥納得できなかった。

  「‥‥」

  ふんふんと隣から鼻歌が聞こえてくる。
  歌いながら新しい携帯を弄っているのは沖田だ。

  千鶴はちろっと彼を睨み付けるように見て、

  「‥‥本当に‥‥紹介するんですか?」

  咎めるように訊ねた。

  問われた男は、
  「うん、するよ。」
  とあっさりと言ってのける。
  千鶴はなんでと非難をしたい気持ちでいっぱいだ。
  彼だって、二人の気持ちを知ってるのになんでそんなことをするのだろうか。
  土方が嫌いだからだろうか?
  だからってそんな‥‥

  「だって、が選んだ事だもん。」
  僕たちには邪魔する権利ないよ。
  とこれまたあっさりと正論を言ってのける。

  そうだけど‥‥

  千鶴はやっぱり納得できない。
  納得できないと言えばまだあった。

  「‥‥」

  話しかけてしまってから、ふいっと千鶴はそっぽを向く。
  まるで私怒ってるんですよと言いたげに背中が強ばる。

  「‥‥もしかしてまだ怒ってるの?」
  あの時のこと、と沖田は苦笑で訊ねてくる。

  「別に怒ってません!」
  いや、千鶴はまだ怒っていた。
  怒っていた‥‥というより、納得できていなかった。
  何故、あの時、

  「私を止めたんですか‥‥」

  一橋を叩こうとした千鶴を‥‥止めたのか。

  だって彼だって殴りたいと思っていたに違いない。
  大切な友達をあれほど傷つけられたというのに‥‥
  どうして。

  「まさか理事長先生を殴るわけにはいかないでしょ?」

  それは彼らしくない発言だ。
  なんだか彼女に彼まで懐柔されてしまったかのようでむかつく。

  それに、
  と沖田は意地悪く笑った。

  「あそこで殴ったら、僕の計画が狂っちゃうんだもん。」
  「‥‥なんですかそれ。」
  「それは見てからのお楽しみー」

  沖田は言って、さてとと腰を浮かした。

  「どこに行くんですか?」
  「うん、ちょっと‥‥」

  と携帯をぷらぷらと振りながら、

  「に紹介する男の選定。」

  などと答える彼に、千鶴は本当に怒鳴りつけてやりたい気分だ。