マンションから飛び出すと、目の前に一台の車が止まっているのに気付いた。
  真っ赤な四駆である。
  なんだこんな場所にと思って見ていると、運転席から長身の男が降りてきた。

  「お、やっぱり、出てきたな?」

  「は、原田先生!?」

  降りてきた彼の姿に、も千鶴や沖田も驚きに声を上げた。

  なんでここにと訊ねれば、彼は苦笑を浮かべて、

  「いや、どこかに行くなら足が必要だろ?
  今日はこの大雪で電車もバスも遅れが出てる‥‥って、ことで、自由な足を用意したってこった。」
  さあどうぞと後部座席のドアを開く。
  いや、確かにそれはありがたいけれど‥‥でもどうして彼が‥‥

  「山南さんから電話があってな‥‥」

  実は、と彼は言う。

  「この大雪じゃきっと明日は達が足に困るから、君の立派な足を貸してやってくれ、とこうだ。」

  朝の五時にたたき起こされたと苦笑する彼に、三人は揃って顔を見合わせて‥‥

  「ほら、急ぐんだろ?早くしろ。」

  どん、と逞しい鋼鉄の躯を叩かれ、揃ってはいと頷いた。



  行き先は学校だと告げても原田は余計な詮索は何一つしなかった。
  ただ、少し急ぐからしっかり捕まってろよと言って車を発進させる。
  都内だというのに何十センチと積もった雪のせいであちこちで事故が起きていた。
  原田はそんなこと想定済とばかりにハンドルを華麗に捌き‥‥目的地へとひたすら、走った。


  いつもよりも少しだけ時間が掛かった。
  とはいえ、原田が急いでくれなかったらまだたどり着けていない。
  ありがとうございましたと早口で言うと、は車から飛びだして、校舎へと走った。
  「今、職員用玄関から出たって‥‥」
  ち、思ったよりも早かったなと沖田はメールを見ながら呟いた。
  いや、まだ間に合う。
  彼が車にさえ乗っていなければまだ‥‥
  ううん、車に乗っていたって、止めればいいだけのこと。

  昨日まであんな弱気だったのはなんだったんだろう。

  は自分の事だというのに驚いたというような顔になり、すぐ、答えが見つかって笑った。

  一人じゃないから、だ。

  だから、強くなれた。


  職員玄関までたどり着く前に、緑色のジャージ姿の男が飛び出してくる。
  「永倉先生!?」
  彼はきょろきょろとあたりを見回し、達に気付くと、指を別の方へと向けて、
  「あっち!あっちに行った!」
  と大声で告げる。

  あっち、と指さされたのは校内の駐車スペースではなく、裏門から出た所にある一般来場の為の駐車場。

  どうしてそちらを指さされるのかと躊躇っていると永倉は更に大声で、

  「雪のせいで、中は停められねえんだ。
  だから外に‥‥」
  と教えてくれた。

  「ありがとうございます!」

  は言葉を微塵も疑わず、くるりと方向転換をするとそちらへと駆け出した。

  どうして彼が知っているのか‥‥とかそんなことはもうどうでもいい。

  ただ、
  彼女はみんなを信じて走るだけ。

  走って‥‥彼に‥‥追いつくだけ――