予想通りの一面銀世界だ。
これは相当降ったなと外の景色を見て思う。
雪はもう止んでいた。
空には眩しい太陽。
風は冷たいけれど‥‥日差しは暖かそうだ。
「‥‥」
その強い光に後押しされた気分になって、はよしと頬を叩いた。
「‥‥はれ‥‥さんっ!?」
ベッドの中から寝ぼけた声が聞こえたかと思うとがばりと千鶴が跳ね起きた。
そうしてあたりを必死の様子で探し、
「あ‥‥」
窓際に立つを見て、呆気に取られる。
「おはよう。千鶴ちゃん。」
気持ちのいい朝だよとは笑った。
琥珀の瞳に、輝きが、戻っていた。
「おはよう総司。」
「おはよう。」
がちゃっと扉を開けると、もう既に起床していた沖田は携帯を弄りながら挨拶を返してくれる。
ちらっと、携帯の画面から一度視線を上げると、
「もう大丈夫みたいだね。」
彼女の様子を見て、小さく呟く。
はお陰様でな、と答えて、颯爽とキッチンに消えていった。
その後をパタパタと千鶴が慌てて駆けてくる。
「やあ、おはよう千鶴ちゃん。」
「お、おはようございます沖田さん。」
挨拶をしながら沖田はちょっと不思議そうな顔をして、くすっと笑いを漏らした。
なんだろう?
千鶴は首を捻った。
ほどなくしてかちゃかちゃとキッチンから音が聞こえてくる。
朝食の用意をしているらしい。
「あ、さん、私もお手伝いします!」
キッチンに千鶴が飛び込んできたが、はいいよと笑顔で制した。
それよりも、
「頭‥‥どうにかした方が良い。」
「え?頭?」
なに、と彼女は自分の頭に手を当てて、
「寝癖‥‥すごいよ。」
「っきゃぁあああ!?」
自分の髪の乱れっぷりに‥‥朝から絶叫。
すぐにリビングからくすくすと笑い声が聞こえた。
「さて今日の予定だけどどうする?」
朝食を食べ終えるや否や、沖田が訊ねてきた。
は迷わず、
「土方さんと話をしてくる。」
と答えた。
「話して‥‥ちゃんと聞いてくる。」
一体何があって、そんなことになったのか。
彼が何を隠しているのか。
彼が、
「私をどう思っているか‥‥」
ちゃんと、聞く。
覚悟は決めたはずだった。
でも、気がつくと拳を握りしめていた。
身体は微かに震えている。
「怖い?」
沖田は問いかけた。
「‥‥」
は一瞬だけ答えに迷った後、でもしっかりと、
「怖い。」
と答える。
恐怖を取り除けたわけではない。
怖い。
まだ、彼の気持ちをはっきりと聞くのが。
でも、
「このまま何もしないであの人に持って行かれるのは‥‥嫌だ。」
それが今の気持ちだ。
そう告げれば、沖田は満足そうに笑って、それならと携帯画面をぱちりと指先で弾いた。
「こんな雪の日だっていうのに図書館でお勉強してる熱心な一君からの情報。」
それは馬鹿にしてるのか。
は内申で突っ込みながら言葉の先を待つ。
「土方さん‥‥学校に来てるって。」
休日返上で何やら仕事をしているらしいというメールが、斎藤から朝一で入った。
尊敬する教師の行動を逐一報告‥‥など、密告しているようで気が咎めただろうに、彼はの為をと思って知らせてくれた
のだ。
「とりあえず、帰らないように暫く引き留めておいて‥‥とは言ったけど、何時間もは無理だよ。」
どうする?
と訊ねるよりも前にが立ち上がった。
「行ってくる。」
「じゃあ私たちもっ」
千鶴が続いて立ち上がった。
「千鶴ちゃん‥‥」
「駄目、なんて言いませんよね?」
一人で行くから大丈夫なんて‥‥そんな事、言わないでと千鶴は懇願するような目で彼女を見た。
はふ、と空気が抜けたように笑って、
「勿論。」
一つ静かに頷いた。
「出来たら‥‥一緒に来て欲しい。」
踏み出す勇気を‥‥私にもう少しだけ、頂戴――

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