げほ。
  とは噎せ返る。
  さっきどうにかこうにか採った栄養剤を全部吐き出してしまった。
  何度も嘔吐したせいで、喉が胃液にでもやられたのだろうか‥‥ひどく、痛む。

  立っているのが苦しくて、その場にずるずると崩れ落ちた。

  千鶴じゃないけれど‥‥このままは流石にまずい。
  まとに食事が取れなくなって、もう、二十日以上が経っている。

  これはそろそろ病院に行かないと‥‥

  「‥‥やばい‥‥よねぇ‥‥」

  あははとは笑った。
  何故か笑いがこみ上げてきた。
  だが笑った後、強烈な怒りがこみ上げてきて、

  ――だんっ!!

  と思いっきり壁を叩いた。

  だん、だん、と二度、三度と叩いて、痛くもないのが不思議で‥‥

  かちゃん、

  「っ!?」

  叩いた衝撃だろう。
  洗面台に置いてあったそれが落ちて、床で粉々になって‥‥割れた。

  「‥‥あ‥‥」

  サンタの形をした‥‥ガラスの置物だ。
  可哀想に、落ちた衝撃で胴体部分が割れてしまった。
  サンタの頭部だけが残り‥‥こちらを暢気そうな眼差しで見つめている。

  そういえば‥‥

  「明日、クリスマスイブ‥‥」

  十二月だったんだと今更ながらに思い出した。


  『クリスマスイブには‥‥どこに行きたい?』

  こんな時に、どうして思い出すんだろう。

  『出来たら俺は、どっか泊まりがけで旅行にでも行こうと思ったんだけど‥‥』

  泊まりがけ‥‥っていったら、なんで途端に嬉しそうな顔をするんだこのエロオヤジめ。

  『いや、そういうつもりは‥‥ないとは言わないが‥‥どうせなんだから遠出して、二人きりになりたいだろ?』

  そうだよ、そうしたかったよ。

  『二人きりで‥‥おまえが我慢してた分、めいっぱい甘えさせてやる。』

  嘘吐き‥‥出来ないじゃん‥‥もう。

  ゆら、と視界が歪んだ。
  ああ、目まで霞むようになった。
  本当に‥‥病院に行かないと。

  『で‥‥待ち合わせは‥‥いつもの場所に、九時‥‥な。』

  クリスマスになったらイルミネーションが綺麗だから‥‥


  いつもの場所に。
  九時。



  「‥‥行かないと‥‥」

  もう待ってる人は‥‥いないのに?