茂みの向こうから二つの気配を感じていた。

一つはまったく隙がない武人のもの。

だけどもう一つは隙だらけの素人のもの。

 

敵か味方か、それとも全く関係のない土地の人間か‥‥それを見極めるために一歩踏みだした瞬間、足下の枯れ葉を踏

んでしまったらしい。

かさり、

という小さな物音に気付いて一つの気配が咄嗟に動いた瞬間‥‥出来る相手だと分かった。

茂みに隠れて相手の出方をうかがっているとぴりりと空気が重たくなるほどの殺気を感じた。

負けじと返した。

ちりちりと首の後ろが痒くなるような‥‥そんな気。

 

だけど、不思議な事にそれに思い当たるものがあって‥‥

 

もしかしてと思っていると声が掛けられた。

 

「そこにいるのは分かってるよ。」

 

挑発するような声は、彼女がよく知っているものだった。

 

 

さん!!」

 

ぱぁっと表情を明るくした千鶴が駆けてくる。

そうして、

 

「おっと?」

 

思い切り飛びつかれた。

小さな華奢なそれを受け止め、背中をよしよしと撫でる。

昔‥‥よくそうしていたのを思い出した。

 

「千鶴ちゃん、元気そうで何よりだよ。」

さんもっ‥‥」

 

千鶴は思いきり抱きついた後、顔を上げてくしゃっと泣き出す寸前みたいな顔になった。

再会に喜ぶのと同時に、今まで抱えていた不安があふれ出したのだろう。

だけど泣き出す事はせずに千鶴は唇を噛みしめて、笑顔を浮かべる。

強くなったなとは、優しく小さな頭を撫でた。

 

「久しぶり。」

 

軽く手を挙げ、声を掛けてきたのは沖田だ。

彼は微苦笑を浮かべている。

 

「相変わらず腕は落ちてないみたいだね。」

危うく本気で斬り殺すところだったよと軽口で言われ、はにっと口元を歪める。

「そっちこそ‥‥相変わらず物騒だな。」

出会い頭に斬りつけるなんてどんな挨拶だよと笑った。

それからかなり様変わりした彼を上から下まで見て、

「結構似合うじゃん。」

と告げる。

こざっぱりしたなぁと言いながら、短いツンツンと立った髪に手を伸ばす。

沖田は振り払うことなく苦笑を浮かべながら、そういうだってと口を開いた。

も、随分変わったね‥‥」

「そう?」

彼女は大して変わっていない気がするけどと自分の格好を見て首を捻る。

姿形‥‥というよりは、雰囲気だろうか?

「ちょっと柔らかくなった?」

それは年を取ったという事だろうか?

が複雑そうな顔で口を噤んだ瞬間、

 

「おい

そこに誰かいるのか?」

 

これまた聞き慣れた声が茂みの向こうから聞こえてきた。

飛び出した彼女が戻ってこない事を不審に思ったのか‥‥追いかけてきたのだ。

 

「土方さん!?」

 

がさりと茂みを分けてやってきた男は、そこに立っていた二人の姿に目を丸くする。

 

「総司‥‥千鶴‥‥?」

 

確かめるように二人の名を呼ぶ。

その声は幻でも見ているかのように信じられないと言った響きを持っていた。

 

「おまえら‥‥こんな所まで来てたのか‥‥」

 

やがてそれが現実なのだと実感した彼は苦笑を浮かべて、目元を細める。

瞳に微かに浮かぶのは安堵と‥‥優しい色だった。

 

「無事で良かった。」

心底安心したような声で呟く彼に、も優しく頷いた。

「ほんと‥‥心配してたんだよ?

二人ともなかなか追いかけてこないから‥‥」

変わりはない?

と聞かれて、千鶴は一瞬口ごもった。

まさか、自分も羅刹になった‥‥とは言えなかった。

その一瞬の沈黙に何かを感じた二人は顔を見合わせる。

 

「なにか‥‥」

――土方さん――

 

の声を遮り、固い声が彼を呼ぶ。

 

沖田である。

 

瞬間、彼の纏う空気が強ばっていくのに千鶴は気付いて小さく声を上げた。

不安げに彼を見上げたが‥‥止める事は出来なかった。

それが、彼の望んだ事だったから。

 

沖田はじっと土方を見据えて、唇を開いた。

 

「近藤さんを、どうしたんですか?」

 

単刀直入な問いかけだった。

 

穏やかな空気が一瞬にして張り付いた。

 

「近藤さんを、どうしたんですか?」

 

その口から近藤の名が出た瞬間、

 

「っ」

 

土方の瞳が一瞬、揺れる。

だがそれはすぐに、冷淡な鬼副長の仮面の下に消えた。

 

きつく、拳を握りしめるのをは確かに見ていた。

 

「近藤さんは‥‥

斬首に処された。」

 

淡々と友の最期を語る彼の姿に――はそっと悲しげに目を伏せた。

 

「そんなっ‥‥」

 

千鶴と沖田は驚きに目を見開いた。

一瞬、二人は信じられないと言った様子で凍り付いて、

 

「何を‥‥何をやってたんですか!」

激昂した沖田は土方の胸ぐらを掴み、そのまま勢いついて背後に立っていた大木へと押しつけた。

ダンと背中を強かに打ち付ける。

突然の事に声さえ出せない千鶴と、それを静かに見守るがいた。

沖田はうめき声一つあげない土方を幹に押しつけてなお、力で押しつぶすように力を込めた。

 

「あんたがついていながら、なんで近藤さんが投降したんですか!」

 

それはずっと抱えていた疑問だった。

 

何故、

彼がついていながらこんな状況になったのか。

 

「どうして助けなかったんです!?

あんたなら‥‥土方さんなら出来たはずだ!」

 

沖田は信じていた。

彼ならば絶望的な状況であっても、なんとかしてくれる。

今まで切り抜けてきたように‥‥何とかしてくれる。

どこか彼に対しては絶対の信頼を寄せていた所があったのだろう。

 

なのに、

 

――出来なかったんだよ!!」

 

土方は悔しそうな声で怒鳴り返した。

 

「っ!?」

 

ひどく苦しそうで、悲しい叫び声で‥‥沖田は驚きに瞳を見開いた。

見開いたそれに映り込むのは、深い悔恨の念が刻まれている‥‥紫紺の瞳だった。

 

「俺は‥‥助けたかった‥‥」

 

声を荒げてから彼は、自らの気持ちを無理矢理抑えつけるように奥歯を噛みしめる。

だが、一度吐き出してしまったそれは止まらない。

 

「助けようとしたんだ‥‥」

 

こんなの言い訳にしかならない。

出来るならば自分が身代わりになってでも彼を助けたかった。

彼をあの場で置き去りになんて‥‥見捨てたりなんかしたくなかった。

 

「俺は‥‥」

 

でも、自分は結局見捨てたんじゃないか。

彼の命を犠牲にして‥‥ここまで生きてきたんじゃないか。

 

「‥‥俺はっ‥‥」

 

男の声が震えた。

ひゅとか細い音が喉を震わせた。

まるで、泣き出す前の嗚咽のようで‥‥は苦しくて堪らなかった。

 

「あの人を死なせたくなんか‥‥なかった‥‥」

 

ほとんど泣き出しそうな声のくせに、

その瞳から涙がこぼれ落ちることがなかった。

 

――

 

沖田はぐしゃと顔を歪める。

彼もまた、泣きそうな顔で土方を見つめて‥‥言葉を失くした。

 

――分かっていた事だった。

 

最初から、分かっていた事だった。

土方が近藤をどれだけ慕っているか‥‥分かっていた。

自分と同じくらい、いや、それよりも‥‥彼が近藤を慕っているのは分かっていた。

彼だって辛かったはずだ。

苦しかったはずだ。

悩んで、足掻いて、それでも止まることが出来なくて‥‥彼は自分よりももっともっと重たいものを背負ってここまで

やってきた。

分かっていた。

彼が‥‥どれだけ必死で近藤を助けようとしたかなんて。

彼が‥‥近藤を喪って、どれだけ悲しんでいるかなんて。

 

でも、

それでも、

 

「それでも‥‥近藤さんは死んだじゃないか‥‥」

 

それは変えようのない事実だ。

 

ぽつりと沖田は泣きそうな声で呟く。

 

「‥‥」

 

胸ぐらを掴んでいた手がだらりと力なく垂れ下がる。

 

どうしようもない事だと分かっていた。

土方が悪くないことくらい。

近藤が自ら投降したことくらい。

分かっていた。

でも、

 

「っ――!」

 

それをあっさりと認めることは出来なかった。

だって、

沖田は近藤が大好きだったから。

喪いたくなかったから――

 

気がついたら、振り上げた手を固く握りしめていた。

怒りと悲しみがない交ぜになったその瞳が自分を見つめている。

来る――と分かっていた。

でも、土方は避けなかった。

まるで、拳に込められた彼の怒りを、悲しみを、全て受け止めるみたいにじっとしていた。

それに気付いて一瞬だけ、沖田のそれに迷いが生まれ、勢いが殺がれる。

ほんの少し緩んだものの拳は止まらない。

 

――がつん――と頬にぶち当たった。

 

拳に触れたのは思ったよりも柔らかい感触で、

 

「っ!」

 

小さな身体が男の拳を受けて、軽く吹き飛ばされた。

 

「なっ――!?」

 

殴った沖田も、見守っていた千鶴も、それから、

 

殴られるはずだった土方も驚いて――彼女を見た。

 

どさりと砂埃を上げて、地面に倒れ込んだその人を。

 

!?」

 

「い、たた‥‥」

 

地面に尻餅をついたままのは今し方殴られた頬を押さえ、呻く。

くわんと一瞬世界が回ったのは彼が自分と違う男の力だったから。

これで手加減された‥‥というのだから男女の差を悔しいと思うべきか‥‥

 

「さすが‥‥腐っても一番組組長‥‥」

 

いい一撃だったよと茶化しながら言うと、はっと我に返った土方が険しい顔で叫んだ。

 

――おまえ、何考えてんだ!」

 

沖田を押しのけて、の傍に駆け寄り傷を隠すその手を掴んで退かせる。

殴られた頬は赤く腫れ上がっていた。

きっと口の中を切っているのだろう。

ふわりと香った血のにおいに神経がざわつくのを感じながら、土方は顔を顰める。

 

「馬鹿野郎‥‥

女が‥‥顔に傷なんか作ってんじゃねえよ‥‥」

 

どきっと一瞬は自分の鼓動が跳ねたのが分かり、更に苦笑を深くした。

そこに意味などないのにどうしてこうも簡単に反応してしまうのか‥‥不思議で堪らない。

 

「私‥‥鬼ですから。」

 

笑みで誤魔化しながらそう茶化すと、土方はもう一度馬鹿野郎と痛々しい顔で呟いた。

 

「俺は、殴られても良かったんだ‥‥」

それが、当然だと‥‥土方は思っていた。

沖田の怒りを、悲しみを、自分こそが受け止めるべきだと思っていたから。

その責任が自分にあると。

 

でも、は『違う』と思う。

 

「‥‥総司。」

は立ち上がりもせずに沖田を見た。

彼は痛々しく赤くなった頬を見て顔を僅かに歪める。

喋るたびに口の中が、頬が、ぴりりと痛んだ。

口の中にいやな錆の味が広がる。

酷くやられたなと思ったが、は構わなかった。

それよりも、沖田に伝えたかった。

 

「土方さんは‥‥もう、十分傷ついたよ。」

 

静かな言葉に、沖田は唇を噛んだ。

 

傍で見ていて‥‥は嫌と言うほど知った。

土方がどれほど傷ついたか。

近藤を失い、味方に裏切られ、どれほど傷つき、苦しんだか。

沖田が感じた痛みと同じ、いや、それよりももっともっと‥‥深い傷を彼は負った。

それでも彼は走り続けた。

傷を、痛みを抱えて、ただただひたすらに走り抜いた。

近藤の想いを抱えて‥‥亡くした仲間の夢を抱えて。

まだこの先もずっと走り続ける。

まだこの先もずっと‥‥苦しみ続けるのだ。

 

「‥‥もう、十分だと思うんだ。」

 

は言った。

土方はそっと視線を落とす。

余計なことを言うなと言わんばかりに顔を顰めたけれど、は止めなかった。

 

「もう――許してあげて。」

 

それは沖田に願うようであり、

――同時に沖田を‥‥許すようでもあった。

 

もう、過ぎた過去を悔やむことはないのだと。

もう、誰かを憎む必要などないのだと。

もう、自由になっても‥‥いいのだと。

 

そう‥‥自分に教えてくれる優しい琥珀色を見た瞬間、

 

「‥‥」

 

沖田は諦めたような溜息を漏らした。

 

分かっていた。

全て分かっていて‥‥納得できなかったのだ。

近藤をみすみす投降させた土方への怒りが。

近藤の最期の瞬間、傍にいられなかった自分に対しての怒りが。

どうしようもない‥‥悲しい事実が。

受け止められなかった。

 

「やっぱり‥‥には敵わないなぁ‥‥」

 

彼は今ようやく‥‥全てを受け入れることが出来た。

 

きっと、

誰かに許してもらいたかったのだ。

 

憎むことも、悲しむことも。

それから‥‥

 

――諦めることも――

 

 

 

静かな流れの川があった。

さらさらと優しい流れの川の水は、とても澄んでいた。

傍らに腰を下ろすと川の水を掬う。

嫌なにおいはしない。

冒されてはいないようである。

一口含んでみた。

甘い水の味がした‥‥が、ひんやりと冷たい水が傷口を容赦なく痛めつけた。

顔を顰めながら軽く水で濯いで、べっと吐き出す。

砂と一緒に赤が吐き出された。

 

「うわぁ‥‥」

 

は一人顔を顰めて呻き、更にもう一度水を含む。

その横に沖田が膝を着いた。

自分の手拭いを濡らすと、ほら、とを促す。

「こっち向いて。」

「大袈裟な。」

は笑ったが、友は聞く耳を持たない。

「いいから。」

と不機嫌そうな顔で強めに言われてしまう。

どうやらご機嫌斜めのようである。

はやれやれと肩を竦めて、殴られた方の頬を差し出した。

いかな鬼と言えども、切り傷はすぐに治せても打撲傷はすぐには消せないらしい。

腫れ上がった頬に手拭いをそっと押し当てた。

 

「馬鹿じゃないの?」

沖田は呟いた。

傷口を冷やそうと言った土方からわざわざ奪ってまで強引に連れてきたから、何か話があるのだろうと思っていたが‥‥

文句を言われるとは。

「殴りかかる男の前に飛び出すなんてさ‥‥下手したら骨まで砕かれてるよ。」

「そんなに柔じゃない。」

「何言ってんのさ、女の子のくせに。」

まさか彼に女扱いされるとは思わなかった。

いやまあ、身体の作り云々を言われると何とも言えないが、でも、とは言う。

「総司が手加減したのは見てたから。」

「‥‥嘘吐き、それよりも先に飛び出してたくせに。」

そう。

手加減しようがしまいが、

骨を砕かれようが砕かれまいが、は沖田の拳を自分が受けたのだろう。

ただ、

――土方を守るために。

 

「‥‥昔はそんなことしなかったのに。」

「総司だって、土方さん殴ったりしなかったじゃん。」

 

違う、と沖田は言った。

そんなこと‥‥というのは、彼を庇う行為そのもののことだ。

昔のならきっと、手を出さなかった。

沖田が土方を殺さないのは分かっていたなら絶対に手を出さなかった。

そして土方が甘んじて受けるつもりならなおさら‥‥

 

「お節介になったね。」

「言うに事欠いてそれ?」

 

は苦笑を浮かべた。

 

沖田は思う。

はお節介になった。

土方に対してひどくお節介になった。

どこか臆病なくらいにお節介になったと。

 

「千鶴ちゃんのがうつった?」

「それはおまえも同じ。」

 

苦笑で返しながらひょいと手拭いを奪い、それを自らの頬に押し当てる。

 

「おまえも十分お節介になったよ。」

 

そうなのだろうか?

自分では全く気付かないけれど、もしかしたら、あのお節介で心優しい彼女に毒されたのだろうか?

 

そんなことを考えているとにや、とは悪戯っぽく笑ってこう言った。

 

「昔のおまえなら確実に手加減しなかった。」

「確かにっ‥‥」

 

ふは、と沖田はつい笑いを漏らしてしまった。

きっとここぞとばかりに思い切り振りかぶっていただろうなと思うと、ひどくおかしかった。

「おまえ、笑いすぎだろー」

「いや、だって‥‥なんかおかしくて。」

何故だろう?

沖田は笑いが止まらなかった。

そんなにおかしいことでもないのに、笑いが止まらなかった。

「でも‥‥なんかおかし‥‥っ‥‥」

そのうち、も笑い声に釣られたのだろうか、くつくつと喉を震わせ、最後には大口をあけて笑い始めた。

 

静かなせせらぎに、二人の笑い声が重なった。

その一瞬ひどく‥‥幸せだった。

多分、二人はその瞬間に感じ取っていたのだろう。

 

――別れが――近いことに。

 

 

 

「‥‥そういえば‥‥さ‥‥」

 

ふいに、笑いを止めた沖田がぽつんと呟いた。

は笑いすぎて眦に浮かんだ涙を拭いながら、なに?と訊ねる。

沖田はごめんと内心で謝りながらその優しい雰囲気を壊すような言葉を口にする。

 

「一君や、平助や‥‥山南さんは?」

 

土方と合流してからだいぶ経つけれど、その間に見知った顔を見たのは一人きりだった。

ずっと一緒にいたはずの彼らの姿がなかった。

 

斎藤が藤堂、そして山南の姿。

 

「‥‥」

 

問いかけにが一瞬息を飲む。

瞳が僅かに翳り、それだけで沖田は答えを手に入れた。

 

いや‥‥最初から分かっていたことだった。

 

「みんな、行っちゃったんだね。」

そうか、と彼は寂しげに呟いた。

 

彼は追求しなかった。

彼らがどうやって‥‥果てたのか。

聞かなかった。

彼にとって理由などどうでもよかったのかもしれないし、もしかしたら知っていたのかもしれない。

 

「山崎君も‥‥」

沖田の呟きに、は双眸を悲しげに細めただけだった。

皆まで言わなくても分かった。

 

彼は追いつくと言った。

でも、あの傷では無理だと沖田は分かっていた。

彼は、助からないと分かっていた。

 

「‥‥みんな、みんな‥‥」

 

行ってしまった。

自分たちを遺して。

 

それから沖田は黙り込んでしまった。

口を噤んだまま、彼は川の流れを見つめていた。

その瞳は‥‥

 

「‥‥」

 

こつん、とはその大きな肩にもたれ掛かる。

さらりと柔らかい髪が服の上を滑って、沖田の頬を微かに擽った。

 

「どうしたの?」

「‥‥うん‥‥なんとなく。」

 

なんとなく‥‥沖田が寂しがっている気がした。

は心の中で呟く。

彼は‥‥自分と似ている所がある。

 

他人に対して興味がなく、子供で、天の邪鬼だけど、本当は寂しがり屋な男だ。

戦いだから仕方がない‥‥と言いながらも沖田もも、生きてきた半分以上の時間を彼ら仲間と過ごしてきた。

実際には家族と言えるのは彼らだけ。

そんな彼らが死んで‥‥寂しくないわけがなかった。

 

でも、沖田ももそれを口にはしない。

出来ないのだ。

 

意地っ張りだからと皆は言うだろう。

でも違う、

寂しいというその感情を表現するのが下手くそなのだ。

 

「‥‥にはなんでもばれちゃうから面倒くさいね。」

ふふっと沖田は笑って、もたれ掛かるその小さな頭をくしゃくしゃと撫でる。

がどうしてそんなことをしたのか‥‥分かったらしい。

自分たちは、似ているから。

「本当は分かって貰えて嬉しいくせにー」

「まあそう言うことにしておいてあげるよ。」

茶化すような言葉に沖田はくすくすと笑った。

それから、ふっとその瞳に真剣なものが混じる。

 

ごめんと、もう一度心の中で謝った。

聞かなければいけない事がもう一つ‥‥ある。

 

「ねえ、。」

 

顔を上げれば翡翠の瞳がじっとこちらを見つめていた。

逸らすことを許さない強い眼差しで、彼は見つめて、口を開いた。

 

って‥‥鬼だったの?」

 

飾らない、真っ直ぐな問いかけは‥‥やはり彼らしいと思った。