別行動をしていた土方が合流し、旧幕府軍は北上を続ける。

市川を出た一同は日光を経由し、会津を目指している最中だった。

 

「‥‥」

 

そんな最中、は突き刺さる恐怖と好奇の視線に、居心地の悪さを覚えため息を零した。

此度合流した幕兵たちは基本的に育ちの良い旗本の子弟がほとんどだった。

それゆえに、京で人斬り集団と呼ばれていた新選組は、旧幕府軍でも異質の存在のようだ。

 

「‥‥なあ、あいつらが人斬り新選組か?」

「ああ。気に入らなきゃ仲間さえ斬り捨てる狂犬の集団ってうわさだ。」

「目を合わせない方がいいぜ。どんな難癖をつけられるかわかったもんじゃねえ。」

 

ひそひそとあちこちから聞こえてくるのは、どこか馬鹿にしたような響きを持っていた。

 

「口さがない連中ですね‥‥

少し黙らせて来ましょうか?」

それを聞いていた島田が険しい顔で告げる。

そんな彼を土方は頭を振って止めた。

「言いたい奴には言わせときゃいい。」

どうでも良さそうに言い捨て、土方は視線を空へと向ける。

晴れ渡った空から、容赦なく陽の光が降ってくる。

羅刹である彼には忌々しい事この上ないだろう。

先ほどから、顔色が随分と悪い。

「‥‥土方さん。」

少し休みますか?とが問いかけようとしたとき、背後で声が響いた。

「あっと、そこ、通してくれる?」

よっと、と後ろを行軍していた人物が、他の旧幕兵を押しのけながらこちらへとやって来る。

 

「初めまして、あなたが土方さんですか?」

 

誰だ?

 

は目を眇めてその人物を見つめた。

 

「あなた方新選組の名前は、僕たちの間でもずいぶん鳴り響いているよ。」

呼ばれた土方は振り返ったものの、ひときわ不機嫌な口調で訊ねた。

「何だ、あんたは‥‥」

その態度はどうだとは内心ため息を吐いたが、相手は気を悪くした風では無い。

ただにこにこと愛嬌のある顔に笑みを浮かべると、

「僕は歩兵奉行の大鳥圭介。

伝習隊の指揮を任されている。」

そう名乗った。

「新選組の皆さんには今後、色々とお世話になると思う。

いろいろよろしく頼む。」

そうして、人なつっこい笑みを浮かべながら、右手を差し出した。

 

はそんな彼を見ながら、武士というよりは豪商のご子息というのがしっくり来ると思った。

失礼だが‥‥血なまぐさい戦場には似合わないし、彼が武器を取って戦えるとは思えなかった。

それくらいに彼には似合わなかったのだ。

 

「‥‥」

 

そんな彼を前に、土方は冷ややかな眼差しのまま差し出された手を見つめている。

その視線に、

「あっ、と‥‥

手袋を外すのを忘れていたなぁ。」

大鳥は右の手袋を外して、再度手を差し出した。

その手の意味は、分からない。

「‥‥なんだ?

金でも恵んでくれってのか?」

「んなわけあるか。」

ぼそっとが突っ込みを入れるが、土方の表情は変わらず冷たいまま。

そうすると大鳥は、

「シェイクハンドだよ。

欧州での挨拶のようなものだよ。」

やはり気を悪くした風はなく、愛想笑いを浮かべた。

それを聞いて土方は興味がなさそうに視線を外してしまう。

大鳥はしばらく右手を差し出していたが、やがて無言で手袋をはめ直した。

「大鳥さん、何か、土方さんに用事があったのでは?」

なんだか土方の機嫌がこのままでは悪くなる一方な気がして、は早々に退散願おうと用件を訊ねる。

そうだと思い出したように声を上げた彼は、にこりと笑顔で口を開いた。

「是非、新選組の副長から直々に‥‥京での、とくに鳥羽伏見の話を聞かせてもらいたいと思ってね。」

「俺から聞くより、尾ひれのついたうわさでも追っかけた方が楽しいんじゃねえか?」

その言葉が聞こえたようで、彼は厳しい顔で皮肉を口にする。

「いやぁ、これは申し訳ない。

軍備は整えたんだが、軍紀の方はまだ末端の兵にまで行き届いて無くて。」

大鳥は笑って、本題を切り出した。

「とりあえず、この軍の編成について説明しよう。」

 

この軍は旧幕府軍脱走隊約三千人で成り立ち、それぞれ先鋒・中軍・後軍に別れている。

その総督を彼、大鳥が任されているという。

総督‥‥つまりは総大将。

近藤の代わりにしてはあまりに頼りないとうんざりした様子の土方に、大鳥は予想していたようで笑って流す。

先鋒は桑名藩、会津藩を主体とした部隊。

そして中軍を大鳥率いる伝習隊を主とし、後軍を幕府回天隊が中心となっている。

 

「僕は、この先鋒軍の参謀に土方君を推薦しようと思っている。」

軍の編成をあらかた説明し終えた後、そう大鳥は訊ねた。

その問いに土方は怪訝そうに眉を寄せた。

「どうして俺なんだ?」

「僕には実戦経験があまりないから、優れた先達に従おうと思ってね。」

それに、と彼は悪びれなく言ってのけた。

「新選組の土方君の名前は敵にも味方にも知らない者はない。

先鋒軍にはうってつけの指揮官だ。」

そう愛想笑いを浮かべる彼を、土方は煙たくて仕方がないらしい。

どうにもそりが合わないのだろう。

終始不機嫌な顔をしていた彼に、大鳥は笑顔で、それじゃまた改めて話し合おうと言って、背を向けた。

どうにも会話は噛み合っていない気がしたが、とりあえず、はほっとため息を漏らした。

 

 

そして、その夜、野営の準備をしている最中、

 

「おい、、島田。話がある。

こっちへ来い。」

土方に呼ばれ、二人は揃って腰を上げた。

新選組の本隊と羅刹隊は斎藤が率いて会津へと向かっているので、この場にいるのは平隊士が十人ほどと、彼らだけだ。

呼ばれてそちらへと赴けば、土方は隊士達が見えなくなるまで離れて、そっと、声の調子を落とした。

「おまえたち‥‥さっきあの歩兵奉行さんとやらが言ってた事を覚えてるか?」

問いかけに、島田が復唱する。

「土方さんが、先鋒軍の指揮を執るということですよね?」

そうだ、と土方は頷いた。

「で、おまえたちの身の振り方だが‥‥」

言って、土方はちらりと二人の顔を見て、こう告げた。

 

「おまえたちは先鋒軍に入れねえ。

中軍、後軍に編入させるつもりだ。」

 

その言葉に、二人は怪訝な表情を浮かべた。

言っている意味が、分からなかったのだ。

「それは‥‥どういうことですか?」

島田の問いには続けて口を開く。

「土方さんが指揮するのは、先鋒軍ですよね?」

だとしたら彼の元に入るのが普通ではないのだろうか?

そう言えば、土方は島田をまっすぐに見てこう言う。

「おまえは鳥羽伏見の戦を経験してるんだ。

実戦経験のねえ部隊を指揮するにゃもってこいの人選だろ。」

向こうには理論はあるが、実戦経験はない。

一方こちらには実戦経験はあるが、技術理論はない。

「お互いに足りてねえもんを補い合える、ちょうどいい組み合わせじゃねえか。」

「しかし‥‥」

言いたいことはよく分かる。

だが、正直なところ島田は土方と共に戦いのだろう。

そして土方はそんな気持ちがわかないほど鈍感な男ではない‥‥はずだ。

それでも土方は彼を後の部隊を頼むと命を下した。

島田はしばらく考え込んだ後、

「わかりました。

副長の命令であれば、従います。」

強く、頷きを返した。

その反応に土方は満足げに頷くが、ですが、と島田はその表情を僅かに険しいものにして口を開く。

「ひとつ確認させてください。

新選組がなくなってしまうわけではありませんよね?」

「‥‥」

「俺は、新選組の島田魁として、この戦に参加するつもりです。」

そして彼は『誠』の隊旗を掲げるつもりだと言った。

それで構わないかと。

 

迷いのない瞳でそう訊ねれば、土方は気まずそうに目をそらしながらため息を交えて答えた。

 

「‥‥好きにしろ。」

彼の言葉はひどく投げやりめいて聞こえた。

 

そして、島田が行ってしまうと、土方は肩を落とし、もう一度ため息を零した。

だいぶ疲れが溜まっているように見え、は大丈夫かと訊ねようとして、代わりの言葉を口にした。

「どうして、あんな指示を?」

問いかけに、土方は答えなかった。

ぶっきらぼうに視線を投げ、夜空に浮かぶ星々を眺めている。

その沈黙に‥‥なんだか彼の深い悩みを感じ、はそれ以上の言及をやめた。

そうすると今度は土方が口を開いた。

「近藤さんがいつ戻ってくるのかさえわかりゃ、死ぬ気で戦いもするさ。」

だが、今度ばかりはどうなるかわからないと彼は言う。

「新選組は‥‥俺と近藤さん二人のもんだったんだ。」

疲れたように彼は呟きを零した。

「俺一人で支えきれるわけねえだろ。」

無気力な口調に、の心がざわりとざわめいた。

反論に口を開けば、遮るように土方が言葉を吐き出す。

「新八の言うとおりだったよな。」

「なにが‥‥ですか?」

唐突な言葉に勢いをそがれ、は突っ慳貪な言葉になってしまう。

なんのことかと訊ねると、彼はこちらを見もせずに続きを口にした。

「甲府城に行くって決まったとき、あいつと原田が言ってたろ?」

勝安房守が、軍資金や大砲を気前よく出してくれるはずがない。きっと何が裏があるのではないかと。

確か、二人が言った。

勝安房守は戦嫌いで有名だと永倉が教えてくれた。

そんな彼が戦いのための武器を用意してくれるのはおかしい‥‥と。

「その通りだったよ。」

ため息混じりに土方は言う。

「新政府軍に江戸城を明け渡すって決めたのは、その勝安房守さんだったらしい。」

「‥‥」

言葉にはなるほど、と心の中で呟いた。

「無血開城の為に、新選組は‥‥」

ああ、と土方は頷く。

「新政府と穏便に話を進めてえのに、俺たちみてえなのがいちゃ邪魔だから、体よく追っ払われたってことだろ。」

甲府での戦いは、そのためだけに起きた。

そして‥‥人が死んだ。

文字通り、

無駄死にだった。

彼らは最初から新政府軍に勝つつもりは無かったのだ。

 

「‥‥ああ、くそっ!

どうして気づかなかったんだよ。」

土方は足下の石を蹴り飛ばしながら、くそ、と吐き捨てた。

「いつもの俺なら、絶対におかしいって勘付いてたはずじゃねえか。」

がりがりと頭を掻き、彼は呻くように呟く。

「近藤さんに戦の指揮を執らせてやりてえ、戦場に立たせてやりてえって気持ちに目がくらんじまった。」

それが‥‥

「負け戦になっちまって、近藤さんのやる気をなくさせちゃ、何の意味もねえじゃねえかよ。」

最後には、悲しげな呟きに変わってしまった。

「‥‥」

は何も言わず、ただ、その姿をじっと見つめていた。

 

彼らの目指した夢は。

心血注いで血反吐を吐いて、やっと実現させたはずの夢は。

味方だったはずの幕府に否定された。

さらにそのせいで、近藤まで失った。

 

「おまけに、必死こいて剣術の稽古して‥‥ようやく刀差せるようになったってのに、百姓や町人に銃持たせただけ

の長州の軍勢に歯がたたねえときた。」

忌々しげに彼は吐き捨てる。

「武士ってのは戦いが専門じゃねえのか?

俺たちがずっと信じて追いかけてきたものって一体何だったんだ?」

何だっただろう?

彼らが追い求めたものは一体。

「その先に何かがあるって信じてたからこそ、きつい思いして、みっともなく歯食いしばって坂を登ってきたんだぜ?」

彼は一気に言って、それから気が抜けたように力を失った。

「登った先に何もねえってわかっちまったら、これからどうすりゃいいんだよ。」

俺は、

「何を信じて生きていきゃいいんだ?」

寂しげな呟きが、耳を打った。

 

彼がどれほどに傷つき、疲れているのかが分かった。

味方だった幕府に、変わっていく世界の流れに翻弄され、裏切られ、

信じていた夢さえも‥‥正しいのか分からなくなって、

道を、

見失っていた。

自分を、

見失っていた。

 

だけど――

 

「私はあなたを信じてます。」

 

口から零れた言葉に、土方が振り返る。

なんだ?と問うような視線に、はええとと口ごもる。

その言葉は咄嗟に出た言葉だった。

言葉を切り、改めて自分の中で言葉を整理してから、再び口を開いた。

 

「今、新選組がいる理由とか、土方さんが信じるべきものとか‥‥それがなんなのかは明確な答えはないけど。」

難しい事は分からない。

多分彼が納得できる答えをは導いてはあげられない。

 

でも、これだけははっきりしていることがある。

「私がここで戦っているのは‥‥あなたを信じているから。」

近藤を失い、仲間を失い、居場所を無くし掛けているが立ち止まらず、投げ出さずにここにいられるのは、

彼がいて、

彼を信じているからだ。

彼の目指すものを、共に見たいと思うから。

彼が信じる世界で、一緒に生きていたいと思うから。

 

「‥‥」

土方はこちらをじっと凝視していた。

真意を探るような瞳をしていた。

「私だけじゃないと思います。」

は真っ直ぐにその目を見て、続ける。

「皆だってそう。」

島田やここにいる隊士達。

別働隊の斎藤や、藤堂、山南だって、

それから、きっと、沖田だって。

 

「皆がここで、戦っていられるのは土方さんを信じているからだと思う。」

 

彼と一緒の世界を目指したいと思っているから、彼らはここで戦っていられるのだ。

 

だから、

自分を信じて――

 

そう言おうとしてから、

 

彼が、

今まで信じていたものに裏切られ道を見失ってしまっている‥‥という事実を思いだし、言葉を無くした。

 

彼を励まそうと思って出た言葉は、結局彼を追いつめるだけに過ぎないと分かった。

でも、伝えたかったのだ。

自分は彼を信じていると。

彼が道を見失っても、自分は信じていると。

ううん、他の人間だって信じていると。

 

だから‥‥

 

「そう、だよなぁ。」

 

しばらく黙り込んでいた土方は、やがて瞳に優しい色を湛えて呟いた。

「見失っちまったものってのは、てめえでもう一度見つけなきゃどうしようもねえよな。」

「‥‥」

我ながら気の利いた言葉が出なくて申し訳ないと思う。

俯いている彼女に苦笑を向け、

「今はでかい戦が控えてる。

あれこれ悩むくらいなら、勝つことを考えねえとな。」

少しは前向きになったその様子に、は安堵した。

そうですねとが同意を示した後、会話が途切れてしまった。

平和そうな虫の音が聞こえ、は僅かに目を細めてしばしその音に聞き入る。

はその背中を見つめながら、何度思ったか分からない事を思う。

 

自分が、

彼と変わってあげられたらいいのにと。

 

彼が受ける傷を、自分が受ければいいのに。

そうして、彼をあらゆる傷から守ってあげられれば‥‥

 

「‥‥なあ」

虫の音を邪魔しないように、静かな声で土方は訊ねた。

「おまえを中軍の指揮官にすると言ったら――

「いやです。」

は最後まで告げさせず首を振った。

彼を傷つけたくないと思うけれど、口から出たのはかわいげのない否定の言葉。

彼が望んでも誰がその通りにしてやるもんかとは言った。

「てめえ、副長の命令に対して嫌とはなんだ、嫌とは‥‥」

顰め面になり振り返る彼に、は嫌なものは嫌と首を振った。

「江戸では勝手させたんですから、今度は譲ってあげませんよ。」

はきっぱりと言った。

「私は先鋒隊であなたの指揮下で戦います。」

いつものように迷いのない眼差しで告げる彼女に、土方は一瞬だけ呆気に取られ、

「勝手にしろ」

やがて諦めたように溜息を零した。

 

ええ、勿論勝手にさせてもらいます。

 

がやはり可愛げのない言葉を口にしようとした瞬間だった。

 

「ぐぅっ!?」

 

唐突に、彼は声を上げ、身体を折り曲げた。

 

「土方さん!?」

苦痛の声には慌てて彼に駆け寄る。

頽れそうになるのを、手を伸ばして支えると、見る見るうちにその髪の色が白く色を無くしていくのが分かった。

そしてその瞳に餓えた、赤を浮かばせるのが。

「羅刹‥‥」

は呟き、即座にあたりを見回し、彼を引き寄せた。

「こっちへ‥‥」

ここでは誰に見咎められるか分からない。

 

林の中に入り、あたりに人気がないのを確認すると太い幹の元に彼を座らせた。

そして即座に彼女は自分の襟元を緩める。

「土方さん‥‥」

「くそが」

迷わず自分の血を捧げようとする彼女に、土方は一つ舌打ちを零す。

誰が飲むかと思っても、差し出された白い肌に、頭は麻痺した。

その肌の下に流れる甘美な味を知ってしまった今では、もうはね除ける事は出来なかった。

嗚呼本当に狂っている。

土方は心の中で己を嗤い、脇差しに手を伸ばした。

 

白い肌を、そっと確かめる。

やがて、冷たい刃が肌に押し当てられ、

じりりと痛みが走った。

 

肌を裂いた瞬間、ふっくらと深紅のそれが盛り上がり、独特な血のにおいが男を惑わせる。

 

「ん‥‥」

 

誘われるままに顔を寄せれば、舌先に熱い血が触れた。

それを一口嚥下するだけで、身体が歓喜に震えた。

「っ」

それを振り払うように目をきつく閉じ、ただひたすらに血を舐った。

狂気を押さえつけるために‥‥血を、吸った。

 

――くそ、

は奥歯を噛みしめた。

血を啜るのに必死な男には見えないけれど、彼女は、苦しげな顔をしていた。

決して痛いわけではない。

だけど苦しかった。

 

血液が逆流し、身体のあちこちが敏感になっている気がする。

彼の吐息が首筋を触れるたびに。

そして、

彼の唇の温度、

舌の熱さに、

 

目眩がして、

同時に、

全身を掻きむしりたくなるほどの焦燥感が生まれる。

 

それが、

ひどく、

を苦しめた。

 

 

「‥‥は‥‥っ‥‥」

 

やがて土方は吐息を漏らして顔を離した。

はどっと疲れた気がして、深い溜息を、感づかれないように細々と零す。

 

そうして呼吸を落ち着かせてからは振り返り、

「大丈夫ですか?」

訊ねる。

土方は問いかけに答えず、難しい顔で口を開いた。

 

「おまえは‥‥いつまでこんな馬鹿げた事をゆるすつもりだ?」

 

不安げな問いかけに、は即答した。

 

「あなたが必要としてくれる限り。」

 

いつまでも。

迷わないその一言に、土方はより一層落ち込んだ表情になり、

 

「馬鹿な女だな。

てめえの進むべき道も見えてねえ、先のねえ男なのに。

それなのに自分を傷つけてまで血を捧げるなんて‥‥」

 

何を考えてやがるんだ?

と彼は視線を伏せて呟いた。

そんな彼が口にした、女、という言葉に、はどきりと胸が高鳴り、切なくなった。

 

「いいんです。」

それでも、とは笑う。

 

「土方さんが必要としてくれるならそれで――

 

それが、自分の生き甲斐だと言ったら、この人は笑うだろうか?