もう怖くはなかった。
  無かった事にするつもりもない。

  欲しかったのだ。

  今まで何故望まなかったのかが不思議でたまらないくらい。

  彼が欲しくて欲しくて堪らなかった。

  は家に帰ると、意を決したようにそれに手を伸ばした。

  包みに包まれ、クローゼットの中に押し込まれていたそれは、漸く日の目を見る事となる。



  ぴんぽーん。
  控えめなチャイムの音には鼓動が跳ねる。

  きた

  時計を見ると、10時を回っている。
  待っている間が気が遠くなるほど長かった。
  ははやる気持ちを抑え、ぱたぱたと玄関へと駆けていき‥‥

  きぃ、

  「いらっしゃい‥‥」

  戸を開けて、そこに佇むその人を認めて表情を緩めた。
  同様に土方も表情を緩めて微笑んだ。
  「ばか、開ける前にちゃんと確認しろ。」
  不審者だったらどうするんだとのっけからムードのないことを言われ、はふっと噴き出す。
  「次から気を付けます。」
  どうぞ、と戸を大きく開いて彼を迎え入れる。
  邪魔するぞと背後で言って、土方は玄関を上がり、促されるままにリビングへと向かった。

  「ええと‥‥」

  リビングにたどり着いたものの、どうしたらいいのか分からずはリビングの入り口に立ちつくしている。
  そんな彼女に土方は苦笑を漏らした。

  「そんなに固くなるな。
  なんか俺が悪い事してるみたいな気分になるだろ?」
  「って‥‥言われても‥‥」

  どうすればと視線を彷徨わせると、コートを脱いだ男がソファにそれを置いて、
  「ふぅ」
  どさ、とその場に腰を下ろしてしまう。
  そして、
  「ほら、突っ立ってねえで、おまえも座れよ。」
  とんとんと彼は自分の横を叩いてくる。
  てっきりこのまま雪崩れ込むのかと思っていたは一瞬ぽかんとしてしまい、
  「は、はぁ‥‥」
  なんとも変な返事をして、とりあえず言われるまま彼の隣に腰を下ろした。
  緊張した面もちの彼女にそうだと、土方は思いだしたように呟く。
  「今日の小テスト‥‥おまえ、90だった。」
  「は?」
  またまた素っ頓狂な声を上げてしまう。
  どうしてここで小テストの話なのだろう?
  不思議そうな顔をしている彼女に土方は意地悪く顔を歪め、
  「ケアレスミス。
  また同じ所で引っかかりやがって‥‥」
  と言った。
  同じ所でひっかか‥‥
  「あ!」
  は声を上げた。
  思い当たる節があったのだ。
  「嘘、ほんとに?」
  「だれが嘘吐くかよ。」
  「うわ‥‥信じられない‥‥私、今回は絶対100点だと思ってたのに。」
  自信あったのにと悔しげに言う彼女に、土方はざんねんだったなと笑った。
  「ああ、あとそれから。」
  「なんですか‥‥」
  「おまえ、太った?」
  「はぁ!?」
  その言葉には流石のも声を荒げる。

  女子に太った、は禁句である。
  あと、妙齢の女性に年齢を聞くのも、だ。

  は標準よりも痩せており、おまけに体重云々は気にしないタイプだったが、やはり土方という恋人が出来たせいで少し
  ばかり気にするようになった。

  「なんでそんな事分かるんですか。」
  ジト目で睨み付けると、彼はほら、今日、と口を開く。
  「おまえ、抱き上げたときにさ‥‥ちょっと肉付き良くなったんじゃねえかなと‥‥」
  「そんなこと考えてたんですか?あの時。」
  「ああ、そういや食欲の秋っていうから、おまえはそっちの‥‥」
  「そう言う事は言わなくていいです!」
  デリカシーのない、とはクッションを掴み上げて彼を攻撃しようとする。

  その手をぐいと掴まれた。

  「はな‥‥んっ‥‥」

  そのまま引き寄せられ、唇を奪われる。
  触れるだけのそれじゃなく‥‥深く、奪うようなそれで、はじんっと甘い痺れが脳天から身体のあちこちに散らばって
  いくのを感じた。
  舌を何度も何度も強く吸い上げられ、すぐに頭がぼんやりしてきた。
  手首を掴んでいた手は頬へと伸ばされ、もう一方は腰に。
  手からぱさりとクッションが落ち、その手は縋るように男の首へと回される。
  「ぁっ‥‥ん‥‥」
  くちゅと濡れた余韻を残し、ゆっくりと唇が離れた。

  「すこしは、緊張ほぐれただろ?」
  濡れた瞳をまっすぐに見つめ、土方は笑う。
  言われ、は確かにと呟き、だが、唇を尖らせこう反論した。
  「解れたけど‥‥ちょっと傷つきました。」
  体重は気にしてないけど、太ったなんて好きな男に言われるのはちょっとショックだ。
  そう言うと土方はくつくつと笑って、
  「そいつは冗談。」
  太ってなんかいないと言う。
  くそ、またしてやられたとは内心で呟いた。
  「つか、おまえは少し太った方がいいぞ。」
  「って言われても別に、ダイエットとかしてるつもりじゃ‥‥」
  普通に食べて、コレなのだ。
  元々太りにくい体質なのだろう。
  「その科白、世の女子が聞いたら怒るだろうな‥‥」
  低く笑い、土方は頬にキスを落とし、ふわりと香ったいい香りに誘われるように唇を滑らせる。

  「‥‥っあ」

  こめかみへと滑り、ちぅとそこを一度吸われる。
  「風呂‥‥入ったのか?」
  指摘に胸がどきりと震えた。
  時間的に風呂に入っていてもおかしくはないけれど、それがただ単に一日の汗を流すために行為ではない。
  はごめんなさいと謝った。
  「やっぱり‥‥女の子がこういうことするの、みっともない?」
  抱かれる事を期待して、準備をするのはみっともないのだろうかと言えば、土方は爽やかなシャンプーの香りを吸い込み
  ながら笑った。
  「可愛い事してくれるじゃねえか。」
  嬉しいよと囁くような言葉に、胸がきゅうと締め付けられた。

  やがて土方はを一度離し、

  「わっ!?」

  彼女を抱き上げた。
  不安げに見上げると彼は何故か慣れた足取りでリビングから続く隣室‥‥の寝室へと向かっていく。
  人を抱き上げたまま器用にドアを開け、レースのカーテンから差し込む月光を頼りにベッドへと近付いていった。
  とさりと彼女をその上に下ろし、自分もその上に覆い被さる。
  かちりとベッドサイドのライトを灯すと、ぼんやりと枕元が明るくなった。
  「‥‥いいんだよな?」
  土方は最後にもう一度だけ聞いた。
  どこまでも優しくて意地悪な男だとは思う。
  にいつだって逃げ道を与えてくれるんだから。
  でも、
  「くどい」
  と言って今度は自分からキスをする。
  触れるだけのキスで自分の覚悟を示せば、土方は困ったような顔で笑い、
  「わかった。」
  じゃあ、と彼は言い、ネクタイをぐいと一気に引き抜き、ベッドサイドに放り投げた。

  「もう、遠慮はしねえ。」

  おまえを抱く‥‥と宣言した恋人の目に、見た事のない獰猛で凶暴な色が灯り、

  「んっ」

  噛みつくようなキスが、降ってくる。

  隙間なく唇を合わせ、唾液も声も、吐息も全部奪いながら男は服の上から豊かな胸を揉んだ。
  掌に収まりきらないそれは‥‥思ったよりも大きい。
  下着に包まれたそれは少し揺らすだけてたぷんと音を立てて震える。
  かぶりつけばさぞ甘美な味がするのだろうと、はやる気持ちのままに土方は唇を離した。
  「腕を、上げろ。」
  「‥‥ぇ‥‥わっ!」
  命令をしながら、なかば強引に腕を掴んで服を脱がせた。
  その動作で再び震える胸は‥‥

  「それ‥‥」

  見覚えのあるものに包まれていた。

  は凝視され、恥ずかしそうに胸を手で隠して答える。

  「総司が‥‥くれた、やつ‥‥」

  彼が好きだと言った白い清楚な下着。

  自分以外が贈ったものを彼女が身につけている、というのは少しばかり複雑だが‥‥あまりに似合いすぎている様をみる
  となんとも言えない気分になる。

  白い布地を、美しく精巧なレースが覆い、胸の中心に控えめにリボンがあしらわれている。
  そしてそれが包むのは豊かな胸だ。
  白いブラに包まれる胸の谷間から芳しい香りでもしてきそうで、なんだか目眩がする。
  桃のようなそれは囓ったら本当に甘い果汁でも出てきそうだ。
  「‥‥」
  ごくりと生唾を飲み込み、
  土方は彼女の下も同じように脱がせた。
  勿論彼女の大事な部分を包んでいるのも、ブラとセットの白いショーツだ。
  清楚な印象を受けるかと思えば、こちらは少しばかり大胆な作りになっていたらしい。
  腰骨から後ろへと伸びる部分は二本の紐で繋がって細い腰骨がそこから見える作りになっており生地はほんの一部分しか
  使われておらず、他はレースのみで構成されて、際どいラインぎりぎりまで眼下に晒されていた。

  「‥‥こんなに煽られたんじゃ、手加減してやれる自信はねえぞ。」

  掠れた言葉がその唇から漏れた。
  同時に、熱が下肢へと集まってくるのが分かる。
  我ながら余裕がないなと苦笑し、土方はそっと背中へと手を差し込んで、ブラのホックを外した。

  「あ」
  ぷつという音と共に、胸の拘束がなくなる。
  壊れ物を扱うように肩ひもを腕から引き抜いて、最後にゆっくりとそれを取り払うと、ふわんと胸がこぼれ落ちた。
  今青白い光で照らされるそれは、陽の下では抜けるような白さを見せてくれるのだろう。
  この肌がゆっくりと色づいていく様はさぞ美しいに違いない。
  今更ながら明るい場所ではないことが悔やまれた。
  それでもは恥ずかしいらしく、胸を手で隠してしまった。

  「こーら」

  そんな彼女に土方は隠すなと笑い、手を引きはがす。

  「だ、だって‥‥」
  恥ずかしいですと目元を薄闇の中でも分かるほど真っ赤に染めて恥じらう彼女に、たまらなく興奮させられる。
  「でもっ」
  「どうしても隠すっていうなら‥‥縛るぞ。」
  と半分本気の脅し文句を口にすると、は僅かに青ざめた。
  「そ‥‥それはちょっと‥‥」
  「じゃあ大人しくしてろ。」
  ちぅと額に一つキスを落とし、シーツに両手を縫い止めて男は唇を下へと滑らせていく。
  首筋を舐るとくすぐったいのか喉を晒して身を捩った。
  甘い香りのするそこへきつく、吸い付き、痕を残すと、じりりと痛みがの肌を焦がした。
  「ゃ‥‥」
  「うごくな」
  肩を掴まれ、鎖骨から肩口までを舌が辿る。
  濡れたなんとも言えない感触に肌がぞわぞわして落ち着かない。
  「‥‥っあ」
  などと思っていると、肩を掴んでいた手が滑り、たわわに実る胸をゆったりと包み込んだ。
  男の手を知らない胸は芯に固さを残している。
  解すようにゆったりと円を描いて揉みながら、徐々に徐々に指先に力を込めていく。
  「ぁ‥‥っん‥‥」
  男の手に弄ばれた果実の先端が、段々と反応を示し、彼の掌に存在を誇示するように膨れあがって、触れる。
  それに気付いた土方はにやりと口を歪めて、
  「乳首‥‥立ってる。」
  とあえて彼女が恥ずかしがるだろう言葉を選んで突きつけた。
  案の定はカッと頬を染め、言うなと食らい付くかと思いきや‥‥
  「いわ‥‥ないで‥‥」
  恥じ入るように瞳を細め、視線を逸らし、その口元を己の手で隠してしまう。
  その色っぽい仕草にまた、男の本能は煽られた。
  「おまえ‥‥本当に俺を煽るのが上手いのな‥‥」
  「なに、い‥‥んぁっ」
  何の事かと問い返す事も出来ず、弄んでいた片手が外され、立ち上がった先端に男の唇が迷うことなく食らい付いた。
  かぷ、と乳首を中心にして肌を噛まれ、は当たる固い歯の感触にびくっと背を撓らせる。
  ゆるゆると歯を立て、びくびくと撓る様を楽しげに見遣り、そうして、ちゅと強く吸われる。
  まるで母乳でも搾り取るように、きつく吸い上げられ、また肌に歯を立てられる。
  もう片方を手で弄くられた。
  立ち上がった乳首を押し込むように触れ、指先でくるくると回して、あるいは親指と人差し指できゅっと抓る。

  「ぁあっ!」

  じんっと甘い痺れが腰骨のあたりの生まれ、の口から甘ったるい声が漏れる。
  それは明らかに感じた声だった。

  「乳首、感じるか?」
  「ち‥‥がっ‥‥」

  指摘には首を振った。
  認めるのが恥ずかしかったけれど、実際、乳首を抓られたり吸われるとものすごく気持ちが良かった。
  気持ちがいいけれど、同時に疼いて仕方がない。

  「よく、ねえのか?」
  「や‥‥しゃべ、んな‥‥」

  乳首に歯を立てたままで言葉を紡がれるとたまらない。
  じりじりと生まれた疼きが身体のあちこちを巡り、最後には身体の中心に集まってくる。
  もどかしさに内腿を摺り合わせていると、男が苦笑を漏らして、顔を上げた。

  「触って欲しいのは‥‥こっちか‥‥」
  「っ」

  下着の上から男の手が触れる。
  誰にも、多分自分さえもまともに触れた事のない場所に、彼が触れている‥‥というのがたまらなく恥ずかしい。

  「‥‥や、やだっ」

  視線を逸らし、は顔を背ける。
  そんな彼女に薄い笑みを向けながら、指先に少し力を入れてみた。

  「あ」

  男の指が布越しに割れ目に触れた瞬間、じゅ、と溢れたそれが布に染みこまれいくのが分かった。
  湿った感覚が指先に伝わってきて、土方はぺろりと舌なめずりをしてみせる。

  「濡れてる。」
  「い、いわなっ‥‥」

  じゅく、

  「んん!」

  先ほどより強く指が食い込み、柔らかな入り口に布が食い込む。
  強い痺れが生まれ、はびくりと身体を震わせた。
  何度かぐちぐちと指先を動かしながら、男は臍まで舌を滑らせ、濡れた軌跡を残す。
  開いている手で細腰をなぞり、やがて下着の紐の隙間から見える腰骨に噛みつくと、

  「ぁんっ‥‥」

  また強く女は身体を震わせ、指にじわりと熱いそれを感じた。

  「ここも弱いんだな、おまえ。」
  「も、言わないでっ‥‥」
  押しのけるようには紐と一緒くたに腰に噛みつく男を押しのけようとする。
  ただ、弱い部分を弄られているせいであまり力が入らない。
  そのうち、噎せ返るような甘い女の香りが内側からあふれ出してきて、頃合いかと男は上体を起こし、

  するりと、

  「っ」

  下着を取り去った。

  散々弄られたせいで、濡れそぼったそこと、下着とを銀色の糸が伝う。
  それがぷつんと切れる様まで土方はしかと目に焼き付けながら、初めて見る女の秘めた部分を食い入るように見つめた。

  「‥‥」

  とろりと蜜を溢れさせているの入り口。
  男を知らないそこは、赤い柔肉をひくつかせ、彼を誘う。

  ごく、

  と男は息を飲んだ。

  股間のそれはもうぱんぱんに腫れ上がり、早く女の中に入りたいと叫んでいる。

  衝動のままに突き立て滅茶苦茶にしてやりたい気分を男は強靱な理性で押さえつけ、人差し指と中指とをべろりと舐めて
  震えるそこへ宛った。

  「あ、あのっ」
  触れられびくんっとは不安げな表情を浮かべる。
  そんな表情に加虐心が一層煽られ、男は低く笑った。
  「力、抜いてろ。」
  痛くはしない、と自分自身に言い聞かせるみたいに前置きして、まずは人差し指を一本、

  ぬちゅ、

  「あぅっ」

  女の体内へと押し込んだ。

  やばい‥‥

  と男は目を細め、唇を噛む。

  男を知らないそこはひどく狭かったが‥‥彼女の中は驚くほど熱く、柔らかかった。

  まるで意志を持っているかのように脈動する内部の動きは、咥えた指を強く扱くかのようだった。

  この中に自身を突き入れたら射精を堪える自信は、ない。
  入れた途端に達ってしまう、など、そんな醜態を晒すわけにはいかない。

  土方は唇を噛みしめ、とにかく狭い内部を解すようにゆっくりと指を動かした。
  ぐちゅと、濡れた音が空気を震わせ、は自分のものではない他者のものが体内をかき回す慣れない感覚に唇を噛んで耐
  えた。
  気持ち悪い‥‥とは違う。
  ただひどく違和感があった。

  「んっ‥‥ふっ‥‥」

  抜き差しの度にの口から声が漏れる。
  「痛いか?」
  気遣うように訊ねられ、は首を振る。
  「‥‥ただ、ちょっと‥‥」
  変な感じだと言われ、土方は苦笑した。
  「最初はそんなもんだ。」
  そのうち慣れると彼は言い、もう一本の指を差し入れた。
  「んんっ」
  圧迫が更に増し、の眉間に皺が刻まれた。

  差し込んでゆっくりと押し広げる。
  くぷりと空気を孕み、音を弾けさせ、二本の指をばらばらと中で動かす。

  「っ」

  違和感はどうにでもやり過ごせるが‥‥はそれよりも音の方が気になって仕方がなかった。
  指が動くたびにぐじゅぐじゅと濡れた水音が響くのだ。
  それが自分の体内から出てきたもの‥‥というのはよく分かっている。
  かき回されるたびにその音が大きくなり、恥ずかしさが更に募る。

  「ね‥‥もう‥‥」
  はもういいと言うが、土方は首を振る。
  「馬鹿、入るわけねえだろ。
  このまま入れたら切れるに決まってる。」
  「で、でもっ‥‥」
  「もうちょっと我慢しろ。」
  「んっ」
  反論は許さないとキスをされて、は言葉を飲み込む。
  唇を合わせ、また深く舌を絡めながら土方は内部を穿つ手を止めない。
  ぐちゃぐちゃとかき回し、二本の指でぐいと何度も壁を押し広げる。
  蜜を掻き出され、シーツには小さな染みが出来る。
  違和感も徐々に慣れていき、なんだかじんわりと身体の奥が暖かくなった頃‥‥

  「っ」

  彼が触れているとある一部。
  そこがひどく疼く事に気付いた。
  大体場所で言うならば恥骨の裏だ。
  筋張った土方の指がそこに当たるたびに、ちりっと言いしれぬ何かがそこから広がっていく気がした。
  痛み、
  とは違う。
  これはなんだろう?
  分からないけれど、そこをもっと触って欲しい気がする。

  「‥‥ぁ‥‥」

  そうこうしていると指が引き抜かれた。
  思わず口から不満げな声が漏れ、土方はおやと目を意地悪く細めて口を開いた。

  「なんだ?もっと触っててほしいのか?」
  「ち、ちがいます!」

  露骨な言葉に思わず反論が口をついて出る。
  実際、中途半端に煽られたらしい身体はもっと触って欲しかった。
  特に‥‥が違和感を覚えた場所を。

  しかしそれを口には出来ず、はそっぽを向いた。
  土方は苦笑で彼女を見下ろしながら、自分も服を脱いで、ばさりと放り投げる。
  薄闇に浮かび上がる男の、しっかりとした体躯が現れた。
  顔に似合わずほどよく筋肉のついた身体に、どこかしら男の色気を感じた。

  が彼の上半身に釘付けになっている間に、男は避妊具を自身に装着し、再びの上にどさりと覆い被さってきた。

  「あっ」

  濡れた場所に何かが押し当てられている。
  それが分からないほど、は子供ではない。
  彼の、男の部分だ。

  指よりも、大きいのは分かる。
  それを確かめる勇気はなく、ただ強ばった顔で男を見上げた。

  「力、抜いてろよ?」
  「は、はい。」
  努めて優しく言い、土方はの立てた脚を撫でながら、ゆっくりと自身の先端を押し込む。

  「いっ」

  散々慣らした‥‥とはいっても、やはり処女。
  男の切っ先を飲み込んだだけで激しい痛みに襲われ、顔が痛みに歪んだ。
  だがすぐにそれを消し去り、大丈夫と強がってみせる。
  土方が心配そうな顔でこちらを見たから。

  「無理はすんな。」
  「無理じゃ、ないです。」
  続けてとは無理矢理笑った。
  それがなんとも痛ましく思いながら、退けない自分に内心で苦笑する。
  傷つけたくはないけれど‥‥今は彼女を抱きたい気持ちの方が、大きい。
  「悪い。」
  一言謝り、土方は再度腰を進める。

  「っ」

  まるで引き裂かれるかのような痛みが、そこから広がっていく。
  は悲鳴を飲み込み、代わりに枕の下に差し込んだ手できつくシーツを握りしめた。

  「、息を‥‥」
  息を吐けと土方の苦しげな声が聞こえる。
  どうにか口を開くものの上手く息が吐けない。
  「ごめ‥‥なっさ‥‥」
  出来ないと彼女は涙ながらに謝罪をした。
  「馬鹿、謝るな。」
  悪いのはこちらだ、彼女が謝る事は何一つない。

  かといって土方にも余裕はない。
  きつい締め付けは、快楽よりも苦痛を男にもたらした。
  汗が頬を伝い落ちる。
  痛みはこちらも味わってはいるけれど、の比ではない。
  彼女は身体を引き裂かれる痛みを味わっているに違いないのだから。

  「‥‥‥‥」

  は、と息を吐き、土方は優しく声を掛けた。
  それと共に枕の下に差し込んだ手を引き抜き、シーツの上で甘く、絡める。

  「ひじ‥‥かたさ‥‥」

  痛み故に浮かんだ涙で、彼女の瞳は濡れていた。
  罪悪感に顔を歪める彼女に、土方は笑い掛け、そっと身を屈めて額に口づける。
  ちぅと、わざと音を立てて離し、
  近い場所でその澄んだ琥珀を覗き込んで、口を開いた。

  「我慢は‥‥しなくていい。」
  痛いならば痛いと言えばいい。
  やめてほしいならやめてと言ってくれて良い。

  優しい言葉にの顔がまた歪んだ。

  「でもっ」
  これは自分が望んだ事だ。
  痛いからって今更やめてと言えるわけがない。

  とそう言うけれど、

  「ん」

  反論の言葉を土方の唇が塞いだ。
  セックスの最中だというのに、触れるだけの‥‥可愛らしいキスが言葉を止め、もう一度、土方はを真っ直ぐに見て
  言った。

  「俺は、おまえを傷つけたくない。」

  傷つけたくない。
  泣かせたくない。

  確かに欲しいけれど。
  でも。
  それでも。

  「‥‥俺は、おまえに苦しい思いをさせたくない。」

  大事だからこそ。
  愛しているからこそ。
  苦しませたくない、と。

  静かな、そして優しい言葉に、は、と吐息が漏れた。
  その瞬間、は自分でも不思議なくらい、するりと身体から力が抜けていくのが分かった。
  そうすると先ほどまで感じていた痛みが、少しずつ引いて‥‥かわりに胸の奥から痛みとも、切なさともつかない感情が
  こみ上げてくる。

  ああ、やっぱり、と彼女は思った。

  相変わらず土方という男は、不器用で、
  真面目で、時々意地悪で、
  でも、
  とっても優しい、
  自慢の恋人なのだと。

  そして、間違いなく自分は彼の事が大好きで‥‥
  だからこそ、
  彼に全てをあげたくて、
  同時に、

  「‥‥」
  ふ、とは口元に笑みを浮かべた。
  絡め取られていた手をふりほどき、今度は、
  「?」
  の方が土方に触れる。
  両手で、愛しい人の頬を包んだ。

  「いいから、して?」

  甘く、強請るような言葉に男はどうしようもなく情欲をかき立てられる。
  ダメだと自分を叱咤し、首を振ろうとすれば、はこう続けた。

  「私を想うなら‥‥最後までしてください。」

  苦しめたくないと、そう労ってくれる気持ちはとても嬉しい。
  確かに苦しく、痛い。
  やめてほしいと思うくらいに痛い。
  これのどこが愛情の最終表現なのかと疑いたくなるほどに、だ。

  でも、
  それでも、

  「私‥‥欲しいの。」

  「え?」

  「私、土方さんの全部が欲しいんです。」

  彼の視線も。
  想いも。
  温もりも。
  キスも。
  吐息も。

  彼を作り上げる全てを見せて欲しくて、そして、その全てを自分に与えて欲しい。

  痛みも、苦しみも、快楽も、全部。

  はふわりと笑った。

  「あなたがくれるなら‥‥私は何でも耐えられる。」
  土方歳三という男が与えてくれるものならば‥‥は全てを甘んじて受け入れようと思う。
  それが、

  ――彼の愛の形なのだと、知っているから。

  「‥‥」
  らしくもなく驚愕に目を見開いた男は、やがて、くしゃと苦笑にそれを変え、ついでに溜息を吐いた。
  「負けた、よ。」
  おまえにゃ‥‥
  苦笑を漏らした後、土方はの頬を大きな手で包んだ。

  どうやら覚悟が決まっていなかったのは自分の方らしい。

  本当に‥‥良くできた彼女だと土方は内心で呟き、同時に自分の不甲斐なさを嘲笑った。

  笑いを消し、真剣に‥‥切望する眼差しをに向けて告げる。
  「‥‥じゃあ、最後まで続けるからな。」
  「はい。」
  「やめろって言ってももうやめねえぞ。」
  泣き喚いてももう止められない。
  が最後の、自分を繋ぎ止める糸を切ってしまった。
  きっと最後まで、自分が満足するまで彼女を愛さなければ止められない。
  そう言えばはにこりと笑った。
  「望むところ。」
  「勇ましいことだな。」
  土方は最後に笑い、唇を合わせて、やがて、

  「ぁっ」

  ぐと、腰を強引に押しつけた。
  の顔が途端歪む。
  中が引き締まり、雄をぎゅうぎゅうと締め付けた。
  だが土方は止めない。
  宣言した通りに、最奥まで突き立てると、休む間もなく引き抜いた。
  ずるりと内壁を引きずり出すかのような動きにはまた小さく呻く。
  そしてまた中に。

  「痛い、か?」
  ぐじゅぐじゅっとリズムをつけて中を穿つせいで、男の声は揺れる。
  は首を振った。
  その瞬間、浮かんだ涙が弾け、きらりと煌めいて落ちる。

  痛くはない。

  不思議な事に痛みは無かった。
  ただ、
  多少の圧迫感を感じるばかり。

  「ぁっ‥‥っは‥‥」

  ぐじゅと濡れた音を立て、雄は何度もの中を行き来する。
  最初狭く、他者を排除するかのような動きだった中は、段々慣れていき、逆に雄を更に更に奥へと誘うような動きへと変
  わっていく。
  脈動する内部は程良く締め付け、男に強すぎる快楽を与え始める。
  くそ、と土方は呟いた。
  搾り取るような内部の動きに本当に耐えられそうにない。
  早々に果てる‥‥などという無様な真似は出来ない。
  いや、それよりもそんな簡単に彼女との甘い一時を終わらせるのは勿体ない気がする。

  もう少し待てよと自身に言い聞かせ、土方は中にねじ込んだまま今度は深い所でゆるりと円を描くように腰を揺らした。

  「ぁっ、それ、はぁっ‥‥」
  きゅんと、の入り口がきつく締まった。
  蕩けるような甘ったるい声を漏らし、きつく目を閉じた少女は喉を晒した。
  痛みを感じている様子ではない‥‥
  それは、
  感じている証拠。

  なるほど、と土方はにやりと口元に笑みを浮かべた。

  奥が感じるのか‥‥それとも今の動きで感じる場所に触れたのか。
  とにかく、苦痛とは違うものを彼女に与えられる事が出来そうだ。

  「ひじっ‥‥んんぁっ」

  膝裏を掴み、軽く腰が浮くほどに脚を抱え上げまた更に土方は腰を回す。
  そうする事で少し出っ張った雁の部分がの感じる場所を抉るのだ。

  「っん、あっあっ‥‥」
  「ここ、か‥‥」

  どうやら感じる場所を探し当てたらしい土方が少し腰を引き、亀頭でぐりぐりとが反応を示した場所を突いてみせる。
  すると、

  「だ、めぇっ」

  きゅうっと今までで一番強く締め付けられると同時に、愉悦に歪む愛しい女の顔を見て、男の限界は一気にやってきた。

  「くっそ‥‥」

  我慢できねえと低く呻く声がの耳に届く。
  ぐいと抱え上げた脚を胸に押しつけられ、今度は今までよりも一番乱暴に抜き差しが繰り返された。

  「あっ、ぁあっ」

  じくん、

  と乱暴な動きに身体の奥で何かが目覚める。
  じわじわと奥から広がる疼きとも痛みともつかないそれは、やがて身体全体へ広がり、を高みへと追いつめていく。
  びりりと身体が震えた。
  目の前が真っ白になっていき、何も見えない。
  どこまでもどこまでも高みに追いつめられ、何が何だか分からなくなってしまう。
  は味わった事のないその感覚にまるで助けを求めるかのように手を伸ばす。
  彷徨った手はが縋るよりも前に優しく絡め取られた。

  「ひじ‥‥か‥‥」

  涙で歪む視界に愛しい男が映り込む。
  どこか苦しげな顔で彼は見つめ、言った。

  「怖かったら、しがみついてろ。」

  その手を己の背へと導かれ、は縋るようにそこに爪を立てた。
  そして土方は細い背をしかと抱きしめ、自身も高みへと上り詰める。

  「ひじかた‥‥さっ」

  あ、と空気を震わせる声が耳元で聞こえる。
  甘えるような声に、この上ない幸せを感じながら男は同じように、
  「
  と求めるように呼ぶ。


  互いに上り詰めるのは同時だったが、初めてのそれを味わった瞬間、の意識はぷつり、と途切れて、落ちた。


                            


その手にちて



初エロ話。
思ったよりも土方さんがエロちっくになりました。
‥‥きっと‥‥続きます←