ざらりとして男の指が、柔らかな肌を滑る。
迷わずに胸の膨らみへと手を伸ばすと、その顔が驚愕に見開かれた。
「左之さん、待ってっ!」
慌てて引きはがそうとするが、男と女の力の差は歴然だ。
いかにが凄腕の剣士とはいえ、武器もなければ大柄な原田を押しのける事なんて出来ない。
「やめっ‥‥」
身を捩れば乱した着物の間から豊かな胸がこぼれ落ちる。
柔らかそうなそれに、男の欲は更に煽られ、引きちぎる勢いで着物を開かれた。
そして露わになった胸に躊躇うことなく触れると、
「ここを‥‥こんな風に触らせたんじゃねえのか?」
きゅ、と勃ちあがった乳首を指先で摘まれは背を撓らせる。
「し、してなっ‥‥ぁあっっ」
反論など許さない‥‥とでも言う風に、原田の指が今度は痛いくらいに頂を抓った。
その瞬間悲鳴が上がり、は痛みに涙を浮かべた。
きつく抓った乳首は赤くなり、原田を誘う。
「‥‥ん‥‥」
流石、男を魅了する妓女だ。
誘われるままに舌先を突き出し、べろりと頂を舐めると、
「ん、ぅぁっ‥‥」
彼女の口から悲鳴とは違う声が漏れる。
ざらざらした舌に嬲られ、緩く歯を立てられると気持ちが良くて、頭がぼうっとした。
「さの、さっ‥‥や、ぁっ」
甘い聞いた事のない嬌声が、原田の脳を蕩かせる。
残酷な感情はいつの間にか消え失せ、代わりに抑えきれない欲が姿を現す。
「っ‥‥」
もっと、
もっと啼かせてみたい。
原田は胸を舐りながら空いている方の手で身体をまさぐった。
脇腹を撫で、臍の周りを悪戯に擽り、暴れて乱れた裾から覗く白い脚に手を這わせる。
「はっ‥‥ぁっ」
大きな手が膝頭からゆっくりと上へと滑る。
太股を何度もさすったかと思うと、内股へ、そうして、
「だ、だめっ!そこはっ‥‥」
身体の中心に、男の手が触れた。
慌てて身体を引き起こそうとすれば、強く、胸の頂を吸われて自由を奪われた。
そこは――わずかに濡れていた。
原田の指が濡れていたわけではない。
が己の中から溢れさせた蜜で、濡れていた。
その理由は‥‥一つ。
彼の愛撫で、感じたのだ。
「なんだ‥‥濡らすほど気持ちよかったのか?」
くっと喉を震わせて男が嬉しそうに笑った。
「ち、ちがっ‥‥」
羞恥に顔を染め、は抵抗を試みる。
しかし、それをものともせず、原田は溢れた蜜を指先で掬い上げ、その滑りにまかせて女の中へと一本、指を滑り込ませた。
「あぅ!」
ぐじゅと、指に絡むのは柔らかく熱い肉の壁。
女とまぐわった事は何度もあった。
しかし、それほど熱く、柔らかいのは初めてな気がした。
「‥‥や、めて‥‥ひっ」
制止に耳を傾けず、指は粘膜を擦りながらゆっくりと奥へと差し込まれる。
身体に力が入るたびにきゅっと引き絞ってしまい、その度にその指をまざまざと感じてしまう。
指の関節や、下手をするとその指紋までも感じる気がした。
「いった‥‥んんぅっ」
中は酷く狭かった。
その様子に、彼女はそこだけは許したわけではないのだとほっと安堵の溜息をつく。
安堵の溜息はついたものの、一度暴れ出した欲を止められるはずもなかった。
熱く、絡みつく内壁を指で感じ‥‥この中に自身を埋めてみたいと‥‥
男のその欲は膨らみ、暴走させる。
しかし、
「ん、ぅぁっ‥‥」
潜り込んだ指が、その瞬間から少しだけ、穏やかな動きになった。
それこそ中を引っ掻いてぐちゃぐちゃにしようとしていた動きは止まり、代わりに泣きたくなるような優しい動きで中を広げられる。
あちこちを指先で押して、彼女の反応を見るように。
「ぁ、や、だ‥‥」
そのうち、身体の奥からじわりとアツイものがこみ上げ、は本能的な恐れを覚えた。
じわじわと滲むものはやがて熱と疼きを伴い身体を支配する。
的確な指に、快楽を引き出され、高みへと追いつめられる。
婀娜たる容姿はしていても、まだまだ未熟な女は引き出された快楽に素直になれずにいた。
それが‥‥自分を更に追いつめるというのに。
ぐじゅ、と指に絡む蜜が増え、原田は頃合いを見計らい、指を増やしてみる。
「んっ」
じゅぶ。
濡れた音を立て、やはり指はすんなりと飲み込まれた。
二本の指で男は道を作り出すようにして、押し広げ‥‥また先ほどと同じようにあちこちの壁を探るように撫でる。
「あ、ああっ」
びりびりっと背中を走る痺れには声を漏らして啼いた。
今まででいっとう、甘い、善い声だ。
感じているのだと原田は分かった。
「ここ‥‥か?」
訊ねながら、彼女が反応をしめした場所をゆったりと撫でてやる。
そうするときゅうと中が切なげに締まり、とろりと蜜が溢れてくるのが分かった。
「あ――んっ――」
背は撓り、むき出しの胸が押しつけられる。
無意識の行動とはいえ、汗ばんだ肌が原田の胸に押しつけられ、それにまた一層男の欲は煽られた。
「‥‥ぁ、ああっ」
とろんと蕩けた表情で、は甘く喘いだ。
唇を戦慄かせ、堪えるように眉を寄せるその表情は‥‥思ったよりも妖艶で。
「っ――」
どくんと血液が逆流した。
もうこれ以上は限界だと原田は察し、中から勢いよく指を引き抜くと、手早く己の前をくつろげた。
「っん」
中途半端に煽られた身体は疼いて仕方がない。
は少しばかり不満げな声を漏らし、しかし次の瞬間、覆い被さってきた男が‥‥
濡れたそこに何かを押しつけてきたときにはぎょっとした。
火傷しそうな熱を持った、
男の、欲だ。
押し当てられた大きさと、熱に、はこれから何をされるのか気づき、顔を歪ませた。
「だ‥‥め‥‥」
さて、いざ侵入という風に細腰を掴み、熱を穿とうとしていた男の耳に、か弱い声が届く。
それは今までで一番弱い声だったのに、原田の耳には何故かやけにはっきりと聞こえた。
その声に思わず顔を上げ、の顔を改めて見る。
瞬間、
その白い肌を涙が伝った。
今更ながら、罪悪感に思わず手が止まった。
「駄目」
ひくりと喉を震わせ、は言う。
美しい涙は白い肌を落ち、やがて緋色の褥に吸い込まれる。
こちらを見つめる瞳は真剣だった。
しかし、
「‥‥っ」
彼女が息を飲んだ瞬間、呼応するように入り口が収縮し、
まるで、
口づけるように雄の先端に触れた。
柔らかな肉に食まれ、衝動が身体を突き動かす。
僅かに腰をつくと、難なく亀頭が飲み込まれた。
迎え入れる体内の熱さと柔らかさに、男はすぐにでも貫いて揺さぶってやりたい衝動に駆られる。
しかし、
「お願いっ!」
今度は強い声に、原田は縫い止められた。
の瞳からまた一筋、涙が零れ、彼女は悲しげな顔で懇願した。
やめてと。
出来るわけがない。
ここで止められるわけがない。
原田は心の中で叫ぶ。
もうお互いに引き返せない所まで来てしまっているのだ。
あとはもう、本能のまま雪崩れ落ちるしかない。
例え彼女に嫌われる事となっても。
いや、もう十分に嫌われてしまっているはずだ。
きっと‥‥彼女は自分を許してはくれない。
二度と触れる事も、言葉を交わす事も出来ない。
それならばいっそ、
今奪って‥‥
「これ以上は、お願いっ」
「無理だ――」
原田は言って、下腹に力を入れた。
無理矢理にでも押し込む気配に、は首を振った。
「こんな風に繋がるのは、いや‥‥ですっ」
「どんな風も糞もねぇ‥‥俺はっ」
俺は‥‥
続ける言葉を、が攫った。
「好きな人と、こんな風に繋がるなんて――」
そんなの嫌だ――
悲痛な叫びを上げ、ぼろぼろと、の頬を幾筋もの涙がこぼれ落ちた。
「‥‥‥え‥」
原田は間抜けな声を上げ、を見ている。
今、なんて?
今、
『好きな人と、こんな風に繋がるなんていやだ』
と彼女は言っただろうか?
まだ混乱している頭でしっかりと言葉の意味を考える。
それは馬鹿でも分かる言葉だった。
それは、つまり、
「、おまえ‥‥」
原田は掠れた声を上げる。
おまえ。
「俺の‥‥事を?」
ひくっと喉を震わせた彼女は、唇を噛みしめて今度こそ告白した。
「好き、です‥‥」
涙に濡れた瞳を細め、苦しげに、彼女は想いを伝えた。
自分がどう、彼を想っているのか。
それを隠さずに告げた。
仲間としての好きではなく。
身内としての好きではなく。
ただ、
一人の男として、
「好きなんです‥‥」
は原田を好きだと。
「だから‥‥」
だからこそ、こんな繋がり方はいやだった。
確かに、彼に抱かれたいと思った。
彼に愛して欲しいと願わなかったわけじゃない。
でも、酒の勢いや、苛立ちや寂しさを紛らわすために、じゃない。
彼にも自分を好きで、抱いて欲しかった。
だから。
「やめて」
とは告げる。
その言葉に、原田はひどく自分を恥じた。
なんと愚かな事をしたのだろう。
怒りにまかせて、なんという酷い仕打ちを。
彼女は妓女などではなかった。
快楽を求めて男に肌を許す女ではなかった。
彼女は、
彼女は‥‥
原田にとってたった一人の、
愛しい女。
「‥‥左之、さ‥‥」
「悪い‥‥」
呻くような声で原田は謝罪し、掴んでいた手から力が抜ける。
その瞬間、はほっと安堵の溜息をついた。
これで過ちを犯す事はないと。
しかし、それが間違いだった。
息を抜いた瞬間、力が抜けたのを見計らって、
「っ――」
「いァ――!?」
ずぶりと、男の楔が最奥まで打ち込まれた。
肉をかき分け、体内に自分のものではないものが入ってくる。
その感覚は、まるで身体を串刺しにされるかのようだ。
苦しさに喉を反らせて、は目を見開く。
痛みに、の意に反して絶頂へと上り詰めてしまった。
びりびりと強い痺れが身体のあちこちを襲う。
目の前が一瞬白くなり‥‥
「っは‥‥」
知らず詰めていた息を吐き出したらどくんと内部に男の熱を感じた。
とうとう貫かれてしまった。
好きな男に、無理矢理。
「ひ‥‥どいっ」
はひくと喉を鳴らして、ひどいと詰った。
こんな終わり方はないだろうに。
二人の関係ががらがらと崩れる予感に絶望し、はひどいともう一度詰ろうと口を開き、
「ひ、んっ‥‥んんっ!?」
開いた唇は、下から掬い上げるようにして塞がれる。
唇に触れるのは男の、濡れた唇だ。
驚きに目を見開くと、目を閉じた‥‥整った男の顔が間近にある。
これは‥‥何?
は、先ほどの行為とは違って奪うような荒っぽいものではない、優しく、愛おしむような口づけに戸惑った。
泣きたくなるほど優しいそれは‥‥そう、例えるならば恋人同士がする口づけのようなそれで。
「左之‥‥さん‥‥」
甘い口づけを受け、呆然とした表情では訊ねる。
すると、男は顔を僅かに歪ませ、決まり悪そうな顔で呟いた。
「怒りにまかせてじゃ‥‥ねえぞ。」
確かに、最初は怒りにまかせてだった。
怒りに身を任せ、衝動のままに彼女を貪った。
まるで獣みたいに。
彼女を食おうとした。
でも、
貫いたのは決して怒りに任せてではない。
彼女と一つになろうとしたのは、
「おまえが‥‥好きだからだ。」
目を眇め、切なげな表情で男は想いを口にする。
「おまえを‥‥一人の女として、好きだから。」
だから、
こうして今、腕に抱きしめているのだと。
好き。
という言葉はどこか現実味がなかった。
は「嘘」と知らず呟いていた。
だって‥‥
彼女は信じていたからだ。
原田が、自分を女として見ているのではなく。
妹のような存在として見ているのだと。
大事に‥‥守られていたのは、
自分が小さな子供のままだからだと。
そう思いこみ、彼女は想いをそっと閉じこめていた。
なのに。
なのに‥‥
「私‥‥妹じゃ‥‥ないんですか?」
彼にとって、
「私‥‥」
震える言葉の先を、原田は笑顔で奪う。
「一人の女として」
おまえが好きだと――
「‥‥‥」
まさに、は固まっていた。
普段どんな事をしても動揺を見せる事のない彼女であったが、今回のはよほど衝撃的だったらしい。
目をまん丸く見開いたまま、呼吸さえも忘れて固まっている。
そんな彼女に、原田は内心で溜息を漏らす。
こんな情況下で固まられると‥‥彼としては拷問だ。
なんせ、深く繋がったままなのだから。
こちらとしては早く安心して貰って‥‥
思う存分、彼女を甘やかして、気持ちよくなりたいのだが。
「‥‥」
はまだ戻ってこない。
そんなに衝撃的な事を言った覚えはない。
ただ、
好きだと言っただけだ。
まあ確かに半ば強引に奪って「好きだ」と言われたのではにわかに信じがたいかもしれないが。
そんなに自分は分かりにくかっただろうか?
原田は自分の行動を省みた。
確かに一時は妹のように思っていた事もあったが、それはまだ彼女が幼い時の事で‥‥
そもそも「妹」だと豪語した事もないのに。
猫っ可愛がりをしていたのは確かだが。
‥‥まあ‥‥いつ妹から好きな女へと代わったのかも原田自身は分からない。
気がついたら、彼女を女として見ていた。
そしてそれからも‥‥を守った。
多分、
妹として見ていた時よりもずっと過保護になったと思う。
なぜならば、
奪われたくなかったから。
同時に自分が、
――奪いたかった。
「‥‥」
もういいだろと原田は溜息混じりに呟き、呼びかけに応えない彼女に焦れて腰を揺らす。
瞬間、
「ふぁ、んっ!?」
の口から甘ったるい嬌声がもれた。
同時に意識が引き戻されるが、代わりに理性が吹き飛びそうになる。
「ま、まって‥‥左之さんっ」
まだ頭の中で納得してない。
もう少し考える時間を‥‥と彼女は言うが、原田は首を振って、余裕のない笑みを浮かべた。
「納得なんてしなくて‥‥いい。」
ずると楔が引き抜かれ、ぎりぎりでまた押し込まれる。
臓物を引き上げられる感覚に、は呻いた。
苦しいかと聞かれたら‥‥それだけではなかった。
じわりと痛みの向こうから、知らない感覚がせり上がってくる。
「あ、だめっ、さ‥‥のさっ‥‥」
「頭で考える必要なんて、ねぇよ」
身体で、感じればいい――
原田は言って、褥を握りしめる手を取り、隙間なく五指を絡める。
涙で濡れる瞳を向ければ、こちらをしっかりと見つめる熱っぽい瞳とぶつかる。
ぶつかった瞬間、また、唇を塞がれ、奥まで吸い付かれた。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が、上と、下から同時に響く。
穿たれるその熱さに、火傷してしまいそうだとは思った。
「さの‥‥さ‥‥」
舌足らずに彼を呼べば、応えるように絡んだ指が強くその手を握った。
「好きだ」
吐息混じりの愛の言葉に、は涙をぼろりと零した。
「わ、たしもっ」
律動に言葉が跳ねる。
それでもはしっかりと答えを返した。
「愛してる」
「さのさっ‥‥」
「愛、してる」
苦しげな声と共に、楔が最奥までねじ込まれ、
その瞬間、
の世界は弾けた。
もそもそと、互いに背を向けて居住まいを正す。
僅かに開いた襖から差し込むのは、明るい光だ。
気がつくと、もう、夜が明けていた。
あたりはシンと静まりかえり、室内には衣擦れの音だけが聞こえる。
まだ熱を持った身体に着物を羽織り、乱れた髪を一度解いて、纏めながらを盗み見た。
こちらは原田よりも幾分と緩慢な動きで、のろのろと身支度を整えていた。
白い肌には男のつけた情事の名残がいくつもあり、滑らかな肩に飴色の髪が張り付く様までもが艶めかしく、思わずまた収まったはずの欲が頭を擡げるのに気付いた。
ガキか俺は。
と内心で苦笑を浮かべる。
結局、そんな艶めかしい姿に欲が抑えられず、想いを告げあったその後も何度か‥‥彼女を抱いてしまった。
無茶をしてはいないつもりだが、それでも何度も熱を穿たれ、揺さぶられては身体に負担が掛かっただろう。
想いが通じて舞い上がっていたのは確かに認めるが‥‥自分は本当に自制心のない男だと気付かされてしまった。
自分はよりも年上だというのに。
しゅるという音と共に、が立ち上がる気配がした。
「‥‥っ」
立ち上がった瞬間、息を詰める音が聞こえた。
振り返るとが何やら微妙な顔をしている。
どうしたんだろうと思って原田は彼女の様子をしばし見ていると、緋襦袢から覗く足下につ‥‥と何かが流れ落ちてくるのを見てしまった。
それに‥‥思い当たるものがあって、
「悪い‥‥」
「っ!」
思わず謝る彼には、カッと頬を染めた。
どうやら力を入れた瞬間、中から溢れて出たらしい。
原田が何度となく注いだ、精が。
一応後始末として拭ったとはいえ、まだ残っていたようだ。
どろりと溢れ太股に流れてくるなんとも言えない感触に、は思わず動きを止めたらしい。
「‥‥あ、謝らないでくださいよ」
余計に恥ずかしくなると、は視線を逸らし、取りだした手拭いで見えないように自分の脚を拭った。
その姿を原田は無言で見つめていたが、やがて、すっくと立ち上がる。
ずかずかと近付かれ、ははっと振り返り、慌てた。
「も、もう駄目ですよ!
朝になったし私、風呂に入って用意をしないとっ‥‥」
これ以上抱かれたら今夜は足腰が立たなくなりそうで‥‥ついそんな事を言ってしまうと、近付いた原田に噴き出されてしまった。
「もうしねえよ。」
そこまで鬼じゃない。
と彼は苦笑で答える。
「あ‥‥っそ‥‥」
恥ずかしい勘違いに、は思わず俯き、
すぐに、
「うわっ!?」
否応なく顔を上げさせられた。
というより、
「ええ!?」
抱え上げられてしまった。
原田の逞しい腕に。
「ちょ、ちょっと左之さん!?」
横抱きに軽々と抱えられ、は仰天する。
何をしでかすつもりかと声を上げれば、原田はしーと口を閉ざすようにと彼女に示し、
「ここを抜け出すんだよ。」
片目をばちりと瞑って、これまた突拍子もない事を言ってのけた。
「ぬ、抜け出すって‥‥そんな!」
出来るわけがないとは小声になりながら反論する。
確かに彼女は情報を探るためにここにいるが‥‥それでも今はこの店の妓女だ。
誰かに見つかっては連れ戻され、折檻を受けることになる。
それに脱出するなら自分1人の方が成功の確率は高い。
反論しながらふわりと自分を包む、原田の濃く感じる体温とにおいにどきりと胸が鳴る。
ああもう、何をいちいち反応しているんだと自分をしかりとばしながら、
「見つかったら‥‥」
「見つかったら?」
の不安げな言葉に、男はにやりと口の端に笑みを浮かべて、
「逃げ切ってやるに決まってるだろ――」
ぐ、と抱えたを強く、抱く。
その力強さには一瞬にして、彼に恋をしたその日を思い出し‥‥
呆れたように、
「新選組の幹部が妓女を誘拐なんて知れたら、あの人がどんな顔するか。」
知りませんよと笑って、その逞しい首へと手を回した。

想いのまま
優しいお兄ちゃんから脱却したかった(笑)
たまには荒々しい左之さんを。
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