腿がかたかたと震えていた。寒さでも堪えるみたいに小刻みに震えていた。
 寒いのかと聞かれれば寒いかも知れないと答えるだろう。彼女は履き物を奪われ半身を露わにしていたし、背中が露わになるほど着物も乱されていた。
 だが震えているのは寒さ故ではない。
 羞恥故、だ。
 そのようなあられもない恰好で腕を拘束され、男に尻を向けて膝で立っていろと命じられればどんな人間でも恥ずかしいと思うのは当然の事。
 しかもそんな彼女を後ろから見て、
「こいつは好い」
 などと感想を述べるのだから堪らない。
「縛り付けて痛めつける趣味はねえんだが、縛り付けられて恥じらう姿を見るのは悪くねえよな」
「あく、趣味っ」
「何言ってやがる。写真に残しておきてえぐらい、綺麗なんだぜ」
「もう、ゃ…ぁっ」
 するりと尻を撫でられ、は喉を曝す。撫でたのが彼の手ではなく、彼の陰茎だったのでするりというよりはぬるりと言うのが正しいだろう。濡れた感触が尻に残る。彼が先走りを零す程に興奮しているのだと分かると恥ずかしくて堪らなかった。
「このまま、震えるおまえをただじっと見てるのも楽しそうだと思わねえか?」
「そ、んなこと…ッ」
「恥辱に耐えられずに泣き出すのを見るのも、良いよなぁ。……想像しただけで、」
 堪らないと男が漏らした溜息が欲に色っぽく濡れる。ぞっとするほど甘ったるい吐息が項を嬲るように撫で下ろし、はきゅんっと膣奥が震えて思わず腰を男に押しつけるように引いてしまった。
「ん? なんだ、ケツに入れて欲しいってのか?」
 それが丁度尻のあわいに押しつける形となり、男はくつりと意地の悪い笑みを漏らしながら告げる。
 言葉と、窄まった入口を突く熱にぎょっとしては腰を引いたが、それよりも前に伸びた手に細腰を捕らえられてしまった。
「あ、やっ」
「尻孔を嬲られるのが好きなんざ……案外好き者だな」
「ち、ちがっ…い、嫌っ」
 嫌だと言う癖にきゅっと窄まった後孔は、亀頭にちゅと口付けるみたいに吸い付いてくる。
 土方は秘め事を囁くようにそっと耳打ちをした。
「副長助勤の腹ん中、熱くて柔らかくて……好い具合だったぜ」
「っ!!」
 卑猥な言葉に琥珀が見開かれ、肩越しに睨み付けられる。
 男を黙らせるにはあまりに威力のない眼光だ。むしろもっと苛めたくなるではないか。
「なんだよ、好かったって言ってんだぜ。怒る事じゃねえだろ」
「だから、そう言う事っ」
「恥ずかしいから言うなってのか?」
 今更だろ、と男は意地悪く目を細めると、一度押し込むように腰を突き上げる。
 精で濡れた先は、それだけでくにゅりと入口を突破してしまいそうで、は慌てて尻に力を入れて身体を捩って暴れた。
「や、やだ! お尻は、やだぁっ!」
 は鋭く尖った声を上げ、下腹を前に突き出すようにして半身を逃がす。本気で嫌がっているらしい。
 無理矢理行為に及ぶ事は容易いが、そんなことをすれば後が面倒だ。この妻君は一度機嫌を損ねると暫く口を聞いてくれないのだ。勿論そうなると、抱くことは愚か、触れることさえ許してくれない。それは勘弁願いたい。
 それ以前に今日彼が可愛がってやりたいのはそちらではない。ならば最初から苛めるべきではないのだが、怯える彼女はとても可愛いのだから仕方がない。
「分かったよ。こっちにゃ挿入れねえ」
 優しい声で安心しろと言って、柔らかく髪に口付けを落とす。
そうして腰を引いてみせれば、は怯えたような顔で振り返って、
「ほ、ほんとに?」
 等と上目遣いに弱々しく訊ねてくるのだから、またむくりと悪戯心が込み上げてしまう。
 それをどうにか堪えて、安心させるように微笑みかけた。
「本当にしねえよ。だから、そんなに怯えんな」
 怯えさせたのは誰だと、自分で自分に訊ねながらか細く震える肩を優しく撫でてやる。
 暫く強張っていた身体は、徐々に解けていき、やがては甘えるように背中を預けてきた。
 このような酷い事をされていてもそれでも自分に身を委ねてくれるのだ。本当に彼女という女は愚かで、愛おしい存在である。
「ぁ」
 肩を撫でていた手を滑らせ、細腰を撫でる。
 撫でただけで甘く啼いた彼女の耳に噛みつき、腰を一度落とすと開かれた脚の間に欲望を差し込んだ。
 だが、まだ挿入れない。
「んっ」
 そのまま割れ目を擦るように軽く前後に揺らせば、くちゅくちゅと濡れた音を立てて襞が砲身に絡みついてくる。
 肩越しに前を見れば彼女の股の間から、赤黒い自身の先が動きにあわせて顔を出したり引っ込めたりを繰り返した。これはこれで、なんとも卑猥な光景だ。
「ん、ぁ…土方、さっ」
「なん、だ?」
 上擦った甘い声に呼ばれ、応える声がみっともなく掠れて震えた。もうそろそろ限界だ。
「も、もうっ……我慢っ」
 それは女も同じ事。
 震える唇が最後まで言葉を紡げず、ぎりと奥歯を噛みしめた男によって悲鳴じみた声へと変わり果てた。
「あ、ぁあ――」
 腰を、爪を立てるほど強く捕まれ、落とした腰を一気に突き上げられる。
 瞬間、ぶじゅと、卑猥な音を立てて先端がめり込み、双方を叫びたいほどの快感が包む。
「ぁあ!!」
「っ!」
 耐えられない。
 そう思った男は、一気に奥までを突き破る勢いで目指した。
 ずんっと固いそれに最奥を突き上げられ、は堪えられずに甲高い叫び声を上げて、頂を極めた。その瞬間、ぎゅうと力一杯に引き絞られ、男もまた奥で果ててしまう。
 唇を噛みしめて情けない声が漏れてしまいそうになるのを堪え、彼女の暖かな中に欲望をぶちまけた。注がれた精を、の中はまるで悦ぶみたいに震えて受け止めた。

「……は、ぁ」
 やがて男の勢いも収まり、快楽の余韻を残して波が引いていく。
 荒い呼吸が徐々に落ち着きを取り戻してきて、は一つ、大きな溜息を零して力を抜いた。
 傾いだ華奢な身体が、男の逞しい胸にとさりと寄りかかってくる。そのまま頭も肩に預けるようにすると、見下ろしてきた男が頭に唇を寄せてきた。
「ん」
 ちゅと音を立ててこめかみに口付けられる。狡い、と自分の身体なのには思った。口付けて欲しいのはそこじゃないのに。
「ひじかたさん」
 赤い唇が甘えるように名を呼んだ。男は上機嫌になり、唇を釣り上げて笑う。
「そこに、欲しいのか?」
 問いかけに、妻が恥ずかしそうに瞳を伏せた。
 口付け如きで未だに初々しい反応をしてくれる彼女がなんとも可愛くて仕方がない。それ以上にもっといやらしい事をしていたというのに。
「悪い、冗談だ」
「土方さんの意地わ、」
 憎まれ口は最後まで言わせない。
 濡れた唇を塞ぎ、舌先を戯れるように触れ合わせる。不自然な体勢のせいであまり深くは絡める事が出来ない。
その代わりに、わざと唇同士を離して舌先だけを触れ合わせてみた。卑猥な戯れに、は恥ずかしそうな顔をしながらも応えてくれる。
そのいじらしい様に、男の欲がつい頭を擡げるのは仕方のない事だった。
「ぁっ…嘘ッ」
 穿たれた熱が、まるで空気を吸い込んで膨らむかのように大きくなるのを感じる。内部から拡げられる感覚には怖じけた声を上げた。先程放ったばかりなのに。そう言いたげな女の様子に、男はいつものように笑ってみせた。
「だから、何度も言ってるだろう」
「や、だめっ」
 ゆると腰を緩やかに動かすと、穿たれた欲が緩慢な動きで出し入れされる。出し入れするというよりは、小刻みに揺らすみたいだ。弛緩してしまった彼女の膣肉を揺らし、再び快楽を揺り起こすように。
「ンっ、くぅ…」
 駄目だ、乗せられてはいけない。乗せられたら彼にあっという間に飲まれてしまう。それが分かっているのに身体は言う事を聞いてくれない。
 抗いようのない快楽に飲まれていく身体はどんどん欲深になっていき、緩慢な動きでは足りなくなってくる。身体の奥が疼いて、それを思い切り突き上げてぶち壊して欲しくて、でも、そんなはしたない事は出来なくて、は苦しげに唇を噛みしめた。
 泣き出しそうなその顔が、また、そそるというものだ。
「おまえがそういう可愛い顔をするから、我慢が出来なくなっちまうんだ」
 男は快楽に堕ちるか、抗うか、その狭間で揺れている女の顔をうっとりと目を細めて見つめながら言う。
 自分がこうなってしまうのは彼女のせいだと。なんという身勝手な台詞だろうか。
「わたし、何も悪くっ…ひゃ、ぁっ!」
 ふるふると頭を振るその様にさえも興奮して、ついずるりと大きく腰を引いてしまうと華奢な身体が弓なりに撓った。美しく弧を描くそれは、再び奥までねじ込まれびくりと大きく跳ねる。赤い唇からは悲鳴じみた声が上がった。
 そうして身体がぐらりと前のめりに倒れ込み、慌てて手を出そうとしたものの後ろ手に拘束されていて叶わない。そのままでは畳に思い切り顔をぶつけてしまいそうだ。
 勿論、綺麗な妻の顔を傷つけさせるつもりもないし、畳に妻が口付けをするなどと言う事も許したくない。
 独占欲の強い男は、前のめりになってしまった彼女の足を掬い上げるように持ち上げた。
「え、やっ」
 ぐいと強引に足を抱え上げられれば、上半身はそれの反動で後ろへと倒れ込む。それは逞しい男の胸が受け止めてくれたが、問題はその後だ。
「ちょ、や、やだっ」
 どさりとその場に腰を下ろした男は、そのまま動きを再開したのである。
「や、ぃや…あぁっ」
 体勢のせいで、あまり奥まで突いてやる事は出来ない。が、その分彼女の膣の締まりは良い。常に引き絞ったような状態に、男の口元には余裕のない笑みが浮かんだ。
「はっ、こりゃあ、好い。きつくって……全部絞り取られそうだ」
「い、や、やだ、これっ……んんっ!」
 一方のも、挿入の角度のせいで弱い恥骨の裏をぐんぐんと押し上げられて堪らない。間断なく感じる場所を嬲られて、強すぎる快感に涙が勝手に浮かんで流れ落ちる。
 びくりと身体が震える度に、揺さぶる度に、豊かな乳房が震えその先を切なげに尖らせた。肩越しに見るそれも、なかなかのものだ。
「だ、めっ! そこ、そこばっか……だめっ」
 快楽に抗うように、自然と足を閉じようとする。そうすると締め付けは更に強くなり、土方の方が堪えきれなくなり、
「っばか、少し、緩めろ」
 ぐいと強引に膝裏を抱えて左右に押し広げた。
 ただでさえ恥ずかしい恰好を取らされているというのに、この上足を思い切り開かされ、恥ずかしい所を見せつけるような恰好をさせられ、は抗った。
「いや、この…かっこ、やっ…やだぁ!」
 隠すものは何もない。ぐじゅぐじゅと濡れた膣口を男の逸物が出入りする様が惜しげもなく曝されているのかと思うと、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
 きっと彼女の入口は切なげに震えている事だろう。そして、嬉しそうに大口を開けて彼に食らいついている。嫌だなんて言いながらきゅうとそこが締まったのが証拠。
「誰も見てねえよ」
 それが逆に惜しい気もする。勿論こんな乱れた彼女を誰にも見せてやりたくもないが、見せつけてやりたい気分でもある。彼女を狂わせる事が出来るのは自分だけなのだと、優越感に浸ってやりたい気分でも。
「や、み、見ないでっ…みなっ」
 だから誰も見ていないというのに、はそう言ってふるふると何度も頭を振る。そうして足をまた閉じようとするので、駄目だと言って項に噛みついてやった。
「ひ…ァ!」
 きゅうんと膣が締まる。それが引き金となったのか、中の動きが忙しなくなり、それに釣られるように土方の動きも激しさを増す。
「あ、あっ…ひじ、だめ、もぅ…ん、もっ」
 は、と漏れた切なげな吐息と共に、苦しげに寄せられていた眉が緩む。喉を曝したが、恍惚と快楽に酔いしれたとろけた表情で虚空を見つめた。
 惜しい。それをじっくりと正面から観察出来ないのは。
 しかしそもそもその体勢を取らせたのは彼であり、惜しいなどと言う資格もないのだが、それでも彼女の嬌態をしかと観察出来ない事が惜しくてならない。
 ああそうか、ならばもう一度抱いて、今度は真正面から彼女の全てを見てやればいい。
 どんな顔をするだろう?
 いやらしい言葉で嬲り、身体の隅々までを視線で犯し、身体の最奥までを甚振られたら、彼女はどんな顔を見せるだろうか。
 ――副長助勤は、
難攻不落な彼の部下は、どんな顔を見せてくれるだろう。

「ひじ、かたっ」
 もう、もう、とが訴える。許してと理由もないのに許しを請う彼女の腰が、くねるように揺らめく。嫌だやめてくれと言っていた癖に今では快楽の虜だ。
 男はくつりと意地悪く笑った。
「副長、だろ」
 赤く染まった耳元で囁く。
「副長、お願いします。イかせてください、だろ?」
 思えば副長なんて、彼女にはあまり呼ばれた事がない。昔から彼女は「土方さん」と呼んでいた。副長と呼ぶ時は隊士の前か、もしくは副長に嫌味を言いたい時くらいだっただろう。
 だからなんとなく、彼女に副長なんて呼ばれるとむず痒い。でも、こんな時だからこそ、彼女に呼ばせてみたいと思う。
「ぁっ、ン…んぅっ」
「ほら」
 唆すように小さな声で彼は告げた。
「副長って、呼んでみろよ」
 そうしたら、と腰を緩く突き上げれば甘い悲鳴が上がった。びくりと身体を撓らせ、与えられた快楽には貪欲に絡みつくかのように柔肉を震わせる。
 もっと奥へ寄越せ。そう言わんばかりの中を、今度は意地悪く浅い動きで突き上げれば、はいやいやと子供が駄々をこねるかのように髪を振り乱して嫌がった。
「呼べたら、呉れてやる」
 ちぅと頬に口付けてやりながら、懇願するような響きで男は言った。呼べと、否、呼んでくれと。
 主導権を握りながらこういう時に甘えてくる彼は、本当に狡い。一方的に酷い事をされたと詰れなくなってしまう。最終的にはどこまでもどろどろに甘やかしてしまいたくなる。そんな女心を分かっているのか、それとも無自覚か。
 は切なげに双眸を細めて、か細く啼いた。
「ふ、くちょ」
 ぶわりと背筋を寒い物が駆け上がっていく。
 ほんの先程までは副長であった自分に嫉妬していた癖に、そう呼ばれて心と身体とが歓喜と興奮に打ち震えているのだ。
 彼女は求めた。鬼の副長を。
 かつての自分を、甘く、切なく、いやらしく。
「副長っ、お願い、ほしい…のっ」
「ああ、」
 鬼の副長は応えた。べろりと獣のように生々しく舌なめずりをして。
「今、呉れて、やるっ!」
「ぁ、――!」
 じゅぶと、弾ける水音を響かせ男は腰を突き上げた瞬間、またの瞼の裏が弾けて……飛んだ。





「お、懐かしいじゃねえか」
 ひらひらと揺れる明るい黄色の衣と、落ち着いた紫の衣。並んで暢気に揺れている着物を見て、思わずと言う風に永倉が呟くのは無理もない事だった。
 昔、副長とその助勤が身に纏っていたものだったのだから。
「懐かしい」
 それを見て斎藤も懐かしむように目を細めた。
 ほんの少し、記憶を手繰るとその衣を身に纏った彼らと、懐かしい仲間達が賑やかにしている様子が思い出される。懐かしくてほんの少し、切ない気持ちになるものだ。
 そんな彼の感慨など気付かず、ぶち壊すような明るい声で永倉は言った。
「二人とも物持ちが良いよなぁ。まだ持ってたのか?」
「新八……あんたは棄ててしまったのか?」
「いやぁ、多分どっかにあるとは思うんだが……」
「まさか、羽織りも紛失したのではあるまいな」
「た、多分、どっかには」
 しどろもどろになる永倉と、眼光鋭く問いつめる斎藤。彼らを笑うようにふわふわと衣は揺れ続ける。笑えないのは……彼であった。
「しっかし、なんであんな懐かしい物を干してんだ? もしかして着てたのか?」
 あれ、と指差す永倉に土方は口籠もる。答えられなかった。何も言えなかった。
 まさかあの頃に戻ったつもりで散々いやらしい事をしていたなんて言えるわけもない。彼らの綺麗な記憶をぶち壊すような事なんて。
 いや違うんだ。汚すつもりはなかった。ちょっとやりすぎてしまっただけなのだ。そう、それだけ。それだけ……
 そう心の中で必死に言い訳をする男に代わり、それはそれは清々しい笑顔で答えたのは、である。

「ああうん、どこぞの誰かさんが興奮して人が気を失うまでいやらしい事をした挙げ句、ぶっかけて汚してくれたもんだから洗ってるんですよ」



「い、やらしい事?」
「ぶっ、かけ? 汚した?」
「何でもねえ! 良いから忘れろっ!!」


                            

思い出に誘われ