「‥‥さん、土方さんって‥‥どう、ですか?」
放課後の図書室は利用者が限られている。
受験に追い込まれる生徒か、読書を愛する生徒か、時間まで暇つぶしをする生徒。
その三つ目でありながら、暇つぶしに本の整理なんぞをしていると、千鶴に恐る恐る問いかけられた。
「どうって‥‥順調だよ?」
誤魔化さなかったのはここに他の生徒がいないのがわかっていたからである。
どういうことか、今日の図書館の利用者はゼロ。
つまり、二人だけだった。
教師である土方と生徒であるが付き合っていることは勿論口外してはならない事である。
時々大呆けをかます千鶴ではあるが、その辺は弁えていた。
左右確認、人の気配はきちんとないことを確認してから、それでも小声で訊ねる彼女にはくすくすと笑う。
「順調だよ。
で、突然何?」
どうしてそんな事を聞くのかと訊ねれば彼女はええと、と顔を赤くして訊ねてきた。
「ええと‥‥その‥‥あっちの方も、ですか?」
あっち?
「‥‥えっちのこと?」
「きゃああ!!」
訊ねたのは彼女のくせに、大声を上げて真っ赤になっての口を塞ぐ。
こういう初な所が可愛いが、将来が不安である。
あの悪魔に好き放題にされるかと思うと‥‥
「‥‥す、すいません。」
千鶴は自分が言った事なのにと恐縮しながらの口から手を離す。
いやいや構わないよとは笑い、本棚に寄りかかった。
「んと、まあ、そっちも順調‥‥でもないかな?」
「そうなんですか!?」
「二週間に一度じゃ足りないって言われた。」
「ええええ!?」
悪友にこれを聞かせれば当然だと言われただろうが、千鶴は大いに驚いてくれた。
良かった、彼女は普通のようである。
「あっ」
大声を上げ、誰もいないというのに慌てて手で口を多う彼女に苦笑を向け、
「‥‥で、二回目だけどなんでそんなことを?」
突然どうしてそういう事を聞いてきたのだろうかとは訊ねた。
土方とは‥‥まあ関係上色々と問題が何度か起きた事がある。
だから心配、というのはあるのだろうが、そっち方面で千鶴が気にしてきたのは初めてだったのだ。
元より千鶴はえっちするよりも、相手と一緒にいられるのが幸せ‥‥というちょっと初な子だったから。
問えば千鶴はええと、と彼女もと向かい合ったまま、背後の本棚に腰を下ろした。
真っ黒い日本人らしい髪がさらりと少女の表情を隠す。
千鶴は俯いたまま、こんな事を言った。
「‥‥やっぱり‥‥土方さんも‥‥男性だったんですね。」
独り言のつもりなのだろう。
小さな言葉だったがの耳には届いていた。
そして届いた瞬間、思わず、
「や、確かに女顔負けの美人だけど疑っちゃ失礼でしょ。」
と突っ込んでしまった。
本当に、土方歳三という男は女顔負けの美人である。
背の高さや骨格などががっちりしておらず、女物の服を着て化粧をしたら、女に見える‥‥だろう。
うわぁ想像したら怖かった。
でも、似合いそうだ。
恐ろしいことに。
だが彼は歴とした男だ。
うん、男。
「い、いや違うんです!そうじゃなくてっ!!」
ちゃんと男性だとは分かっていたんです、と千鶴は慌てて言った。
ならば先ほどの独り言はどういうことだろう?
が視線で続きを促すと、彼女はええと、と‥‥もう一度視線を落とした。
ほんのりと頬が赤くなっている。
「‥‥土方さんって‥‥その‥‥ストイックに見えるから‥‥そういうことはあまり‥‥」
興味がないのかと、と言う言葉には思いきり鼻で笑い飛ばしてやりたい気分だ。
ストイック。
まあ、普段のあの男は不機嫌な仮面を被って歩いているようなものだ。
眉間には常に皺、眼孔は鋭く、基本‥‥仏頂面。
たまに笑うことも冗談を言うこともあるが、あれほど綺麗な顔をしてモテるというのにその手の話は全て見事にシャット
アウトしている。
バレンタインのチョコも受け取らなければ、誕生日プレゼントも、調理実習もお弁当も受け取らない。
喉が痛いと言ってものど飴一つ受け取らないという徹底っぷりだ。
女性関係においては真面目‥‥筵興味がないのではというほどでもある。
しかし、ストイック。
つまり禁欲的‥‥と言う言葉は、彼にはまったく当てはまらない。
少なくとも、にとっては、だ。
「確かにスーツを着てるときは隙のスの字もないけどねぇ‥‥」
スーツを脱いだら最後だ。
彼は狼へと変貌を遂げる。
そりゃもう手のつけられない、獣にだ。
二週間に一度のセックスでは何度も何度も気を失うまで愛されているという事を彼女はしらない。
まるで二週間分の餓えを補うがのごとく、快楽を‥‥いやを求めた。
食われて彼の一部になってしまうのではないかと思うほど、激しく、熱く、求められる。
おかげでその翌日はろくに立ち上がることも出来ない。
あの外見からは察することは出来ないだろうが‥‥
「‥‥あの人、すごいえろいよ。」
若干据わった目をしたの言葉に、千鶴は本当ですかと目を丸くした。
「あんなに大人なのに‥‥」
やはり信じて貰えない。
「大人はムラムラしたからって料理中に手を出さないと思うけど‥‥」
人の後ろ姿に突然欲情したとか言って服を脱がして、料理そっちのけで抱かれてしまったこともある。
料理が冷めたと怒ったら「おまえが食べたかった」なんてべったべたな事を言われて呆れて物も言えなかった。
キッチンでもあるし、リビングでもあるし、勿論、バスルームでも、寝室でも、ある。
「そ、そんな事もあったんですか!?」
千鶴は口に手を当てて顔を真っ赤にしながら驚きの声を上げる。
まだあるぞとは言った。
「最低なのは玄関先でだよ。」
鍵も掛けず、靴も脱がずに玄関先で犯された。
獣みたいに四つんばいの姿勢を取らされ、後ろから何度も何度も貫かれた。
あの時は声が外に漏れたらまずいと、彼に口を押さえられたんだったか。
本当に犯された気分だったのを覚えている。
一体何が彼の起爆剤になるのか分からない。
ただ、
「我慢できねえ」
と熱っぽく囁かれて‥‥なし崩し、だ。
彼曰く、が色っぽいのがいけないらしいが‥‥自分は何もした覚えはないのだが。
存在がエロイと言われたらどうすればいいやら――
「‥‥」
それを聞き、千鶴は沈黙してしまった。
見れば少しだけ難しい顔をしていた。
喋りすぎただろうか。
尊敬する土方先生の信用はがた落ち?
「‥‥幻滅?」
は苦笑で訊ねた。
すると千鶴ははっと顔を上げ、ぶんぶんと首を振った。
「いえ‥‥驚きましたけど‥‥」
「けど?」
「安心しました。」
あれを聞いて安心するか‥‥とは突っ込んでやりたい。
どう考えても変態プレイをあの教師がしているという事実だというのに、どこに安心する要素があるというのだ。
そう思っていると、彼女は微かに笑って、
「‥‥私だけじゃないんだなぁって‥‥」
「そっちかい。」
は突っ込んだ。
変態仲間‥‥沖田総司。
その彼に抱かれる彼女も、また様々な悩みを抱えている事だろう。
正直、彼のはマニアックすぎて聞くのが怖い。
が、
「ちょい千鶴ちゃんおいでおいで。」
はちょいちょいと彼女を手招きし、図書館の鍵をがちゃりと掛けてしまうと、中央のテーブルに腰を下ろした。
その向かいに彼女を座らせる。
そして、きょとんとする彼女を前に、ひどく真剣な顔で、こう言うのだった。
「ちょっとぶっちゃけて‥‥話しようか。」
格好良くて、意地悪で、優しくて、
変態で困り者の、
どこか似た二人の大切な人。
当人らが聞いたら「似てない」と声を揃えて言うだろうけど‥‥には土方も沖田も似たところがあると思っている。
そんな問題児を恋人に持つ彼女らには同じ想いがあるはずだった。
そして、
同じ悩み。
「ぶっちゃけ‥‥どうよ?」
その質問に、千鶴は一瞬面食らった顔をしたのち‥‥
「実はですね‥‥」
こちらも真剣な面もちでぶっちゃけるのだった。
絶対男子禁制
続くかもしれない(割と下ネタに)
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