「僕は君を抱けない」
この命は長くない。
遠からず、僕は君を遺して先に逝く。
君を一人にする。
だから…君を抱くことは出来ない。
沖田はそう言って、弱々しく笑みを浮かべた。
大切な人に置いていかれるその辛さを知っているから。
その人への想いが強ければ強いほど、失った時の悲しさは増すから。
だから、何も遺さずに逝くと彼は誓った。
自分への気持ちなど忘れてくれれば良い。
忘れられてしまうのは悲しいけれど、自分を想って彼女が泣くのだけは嫌だから。
だから、
「僕は、君を抱けない」
何も遺さない。
いずれ消えていく自分の事など忘れて、幸せになって欲しいから。
そう告げた瞬間、千鶴は泣き出しそうな顔になった。
瞳を頼りなげに揺らし、その黒目を涙で濡らし、だけど、
泣き虫だった少女は驚くほど強い眼差しを向けて、こう告げた。
「でしたら……私が総司さんを、抱きます」
出会った当初は何も知らない子供だった。
弱くて、脆い、女の子だった。
でも、迷いつつも豪快に着物を脱ぎ捨てた彼女に……もう幼い少女の片鱗はない。
強い意志を込めた瞳を向け、襦袢の帯に手を掛けながら自分の上に跨る彼女は……立派な『女』だった。
「な、にを……」
声が、上擦った。
のし掛かってくるのは小さな女の子なのに、何故か恐ろしいとさえ思った。
触れるのが自分と違って熱く、柔らかかったからだろう。
突き飛ばせば壊してしまいそうで……怖かった。
いや、それだけじゃない。
彼女の瞳に込められた決意に、沖田は心の底から恐怖した。
いけない。
それはいけない。
そう思うのに、身体は、凍り付いたみたいに動かなかった。
「私が……」
しゅると音を立てて襦袢の紐が解かれれば戒めを失い衣が滑り落ちる。
その下から現れたのは華奢な、女の身体。
お世辞にも大きいとは言えないけれど、その乳房は膨らんで、柔らかそうだった。
蝋燭の炎に照らし出されたそれは、酷く美味そうで、
「ちづっ」
思わずごくりと沖田は喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
これまで女を抱いてきた事は何度かあったけど、そのどれよりも幼い身体はだがその誰よりも欲を掻き立ててくれる。
噛みついて、吸い尽くしてやりたい。
そう男に思わせる。
だけど、出来ない。
「だめ、だよ」
いけない、駄目だ、と唇から零すのに緩んだ袷から手を差し込まれても拒むことも出来なかった。
しっとりと汗ばんだ小さな手が胸の上にそっと当てられる。
どきりと鼓動が高鳴るのを、彼女の手のひらに伝えてしまった事だろう。千鶴は何も言わない。
ただ興奮して勃起する乳首を認めて僅かに目元を赤く染めた。
女とは違って平らに近しい胸で、それだけが強調するように尖る。
色事に疎い千鶴であってもそれが興奮しているというのは分かった。何故なら彼女の乳房の先も同じように凝っていたから。
ああ、彼は今興奮しているのだ。
そう思えば恥ずかしい以上に嬉しくて、千鶴は小さな手でその凝りをころりと転がしてみた。
「ンっ」
びく、と肩と引き締まった下腹が震える。
同時に鼻から抜ける声が、堪らなく色っぽくて、
「っ、ちづっ……」
もう一度聞かせてくれと千鶴は先程よりも強く尖りを転がせば、顎が僅かに逸らされた。
男の逞しい喉仏が唾液を飲むたびに上下する。それもまた、卑猥で、堪らない。
千鶴は噛みついてみた。
緩く歯を当てると、喉仏が動くのが歯に唇に伝わる。
「ぁ、」
彼の唇から溜息のような声が漏れた。
酷く、悩ましげな溜息だった。
もっと、
「もっと、」
聞かせて。
するりするりと手のひらを、唇を滑らせ、千鶴は首から肩。肩から胸。胸から腹。
小さな唇で、舌で、歯で、指先で、手のひらで。
拙いけれど熱い愛撫を施され、沖田は堪らなく腰の奥が疼いてくるのを感じていた。
いけない、駄目だ。
そう思うのに、下帯の下ではもう隠しきれないほどに張り詰めてしまっている。
千鶴も気付いていた。彼の下腹部が異様に熱く、固くなっている事に。
それが何なのか、分からないほど彼女も子供ではない。
着物を押し上げるその膨らみに、少しだけはしたないという気持ちが募る。
だが、恥じらいよりもただ募るのは彼への愛おしさと……それから、自分の中に生まれる欲だった。
「だ、めだよ」
帯を解かれ、裾を乱されればもう隠すことは出来ない。
下帯を膨らませ、そればかりか先走りで布を濡らす自分のなんと情けないことか。
だけどそれを濡れた眼差しで見つめる彼女に、もうどうしようもなく、欲情してしまうのだ。
じゅぶ。
濡れた音が薄暗い室内に響く。
乱れた吐息と、時折漏れる苦しげな声がその音に卑猥さを添えて、
噎せ返りそうな甘い汗のにおいと雄のにおいとに頭がくらりとする。
何よりも、薄闇の中で必死に男の逸物にかぶりついて奉仕する彼女の様に、沖田はどうにかなってしまいそうだった。
彼女の奉仕は拙い。
だが、小さな口で大きな陰茎を頬張り、男を好くしてやろうと必死に顔を動かしたり、指を動かしたりして自分に尽くし
てくれる彼女に厭が応にも身体は高ぶる。
「総司、さん。好いですか?」
は、と唇から離し、苦しさ故だろうか涙で濡れた瞳を向けられてうっかり顔にぶちまけたくなる。
「いい、けど、もう」
駄目だよと言いかけるのをまた、口に含まれて遮られた。
「ぁ、だめ、ちづっ……だめだって、そんなっ…ん、」
拙い愛撫だからこそなのか、沖田は堪えられそうにない。
興奮するあまりなのか千鶴の手が棹から袋へと下りていき、そこをやんわりと揉みしだかれて堪らず声を上げていた。
「だめ、千鶴ちゃんっ、離して、も、もぅっ」
自分でも情けない声でやめてくれと訴え、強引に千鶴から逃れようと腰を引いた。
ずるりと唇から出てきたそれは彼女の唾液でぬらぬらと濡れ、これ以上ないまでに勃起し醜悪な姿を晒している。
情けないとは思うが限界だ。
彼女が見ているのも構わずに手に包み込んで、手早く済ませてやろうと思えばその手を捕まれて、
「駄目」
強い眼差しに貫かれ、沖田はその動きを封じられた。
そればかりかのし掛かってきた彼女が、勃起した陰茎をむんずと掴んできて思わず「ひ」と情けない声を上げそうになる。
もしや射精させまいと言うのだろうか。
一瞬背筋を寒い物が走ったが、それよりも沖田はぞっとする光景に思わず声を上げる。
「だ、だめっ」
千鶴は、その掴んだ陰茎の上に自らの身体を降ろそうとしていた。
その小さな身体に、彼の凶暴な欲を受け入れようとしていたのだ。
「だめ、千鶴ちゃ、」
「動かないでください!」
身を捩った瞬間に飛んできた強い声は、果たして彼女が上げたものだっただろうか。
驚くほど強く鋭い声にぎくりと肩を震わせれば、亀頭にぬるりと熱いものが触れる。
ちゅと彼女の唇と同じように吸い付いてくる陰唇に、ぞっと背筋が震えた。
「ン……」
目を瞑り、唇を噛みしめ腰を落とせばめりと、厭な音が身体の奥から聞こえる。
何人も受け入れた事のない入口にその大きなものを受け入れるのは簡単な事ではない。
しかも、碌に慣らしもしていないのだ。
それこそ身体を引き裂かれるような痛みに、千鶴の額に汗の粒が浮かんだ。
「駄目だよ、千鶴ちゃん、こんなのっ」
君が辛いと言えば彼女は頭を振った。
「平気、です」
「でも」
平気と、強情に言ってずっと腰を乱暴に落とす。
ぶちりと何かが切れた感触がして、微かな血のにおいが広がる。
痛みのあまりに千鶴は涙をぼろりと零したが、止めなかった。
「痛くても、良い、です」
濡れた瞳を向けて、彼女は言った。
「総司さんと、繋がりたいんです」
その強さに、ただ、飲まれた。
人斬りと恐れられた沖田総司が、小娘に飲まれたのだ。
「ぁ、ちづっ……」
ぬじゅと濡れた音を立て、奥まで飲み込まれる。
溶けてしまった中は酷く熱く、酷く狭い。
だけど、とても心地よくて、沖田は喉を曝して吐き出してしまいそうな熱を堪える。
「だ、め。ちづっ……ぁっ、あっ」
泣き出しそうな声を上げる彼が愛おしくて、千鶴は下腹に力を入れて膣を引き締めた。
そうしながら上下に腰を動かすと、沖田が悲鳴みたいな声を上げる。
「あっ、んっ……ち、づっ……駄目、だめっ」
達してしまいそうなのだろう。
ひくひくと内部に埋められた雄が震えている。
千鶴は男の肩にしがみついて、腰を擦りつけるように動かしながら甘く囁いた。
「だいじょうぶ、です。総司さん、気にしないで」
「駄目、だめっ、あ、でる、でるっ」
「私が、総司さんの、全部、受け止めるから」
「だ、めっ――」
噛みしめた唇の隙間から絞り出すような声が漏れる。
いけない。
駄目だと思うのにもはや、先走りが滲みだして中にたらたらと漏らしている状況だ。
それでも駄目だと下腹に力を入れたけれど、力を入れて噛みしめる唇に小さな唇を押し当てられれば噛みしめる事も出来
ない。彼女の唇をも噛みきってしまいそうだから。
「っ!?」
はっと力を緩めればまるで頃合いを見計らったかのように、千鶴がぐんっと腰を下まで降ろした。
瞬間、ぐりと亀頭を子宮の入口で擦られ、ついでについ上げるようにきゅうっと膣を締め上げられ、沖田は堪らず、
「――」
どくん、と熱を吐き出していた。
叩き付ける飛沫は彼女の子宮の奥へと潜り込み、やがて胎内に収まりきらずにこぼれ落ちてくる。
射精の瞬間同じく達した千鶴はひくひくと身体を痙攣させ、やがて収まると同時に押し当てていた唇を一度吸って、離した。
快楽の余韻で少しばかりとろけた翡翠を覗き込むと、彼は罪悪感を滲ませて「ごめん」と謝ってくる。
恐らく中で出してしまった事への謝罪だろう。
胎内で射精すれば子を宿す可能性がある。
それを彼は「悪い」と言うのだ。
千鶴はこれには我慢が出来ず、沖田の頬をぺちんと一度叩いた。
「千鶴、ちゃん?」
叩くとは言ってもまるっきり力もないし、痛くもない。それでも彼女が自分を叩くなんて思っていなかった彼は目を丸く
して千鶴を見た。彼女は、頬を膨らませて怒ったような眼差しを向けていた。
「謝らないで、ください」
千鶴は言った。
「これは……悪いことではないんです」
二人が肌を合わせることは、誰に咎められる事でもない。
過ちでもない。
正しいことなのだ。
愛し合っているのだから。
「でも、」
だからこそ、これはいけないことだと沖田が視線を逸らせばぐいと強引に頬を捉えられて、見つめられた。
欲に濡れていたはずの目は、いつもの彼女らしい真っ直ぐな強い瞳へと変わっていた。
「私は、総司さんの全てを抱えて生きていきたいんです」
いつか置いていかれる事になったとしても。
辛くても、悲しくても良い。
幸せを知っているからこそ、苦しみを味わうことになっても構わない。
だから、どうか、逃げてしまわないで。
背を向けないで。
今ここにあるのは真の二人の想い。
それを無かったことにしないで。
あるがままを受け止めて、自分を愛して欲しい。
そして、自分の想いを受け止めて欲しい。
「私は、総司さんが好きです」
「ちづ……」
「愛しています」
生涯唯一人、彼を愛し抜く。
例え置いていかれても、構わない。
この思い出を胸に生きていける。
だから、
だから、
「ちゃんと、私を、見てください」

この時になって、彼は漸く気付く。
泣き出しそうな顔で、だけど逸らすことなく真っ直ぐに自分を見つめる彼女を見て。
彼女も同じく不安で堪らなかったのだと。
だけど彼女は真っ直ぐに前を見て生きようとしていた。自分よりもずっと真っ直ぐに。
――嗚呼、なんと情けない事か。
沖田は心の中でそう告げる。
己の情けなさを痛感し、それと同時に彼女の強さを思い知るのだ。
「総司、さん?」
こつんと肩に額を押しつけてくる彼を千鶴はどうかしたのかと声を掛ける。
具合でも悪いのだろうか、心配になって顔を覗き込もうとすれば抱きしめられて、
「何時の間に、そんな逞しくなっちゃったの?」
どこか拗ねたような声音に千鶴は目を丸くし、やがて優しく緩む。
「総司さんを、支えたいと思ったからですよ」
そう言って受けいれるみたいに背を抱かれ、沖田はもう一度「狡いなぁ」と呟くのだった。
告げた声が震えていたのも、顔を上げた彼の瞳が濡れていたのも、千鶴は見ない事にした。
きっとこんな迷いが彼にあっても良い。
同時に千鶴にこんな強さがあっても良い。
|