「この間はでかさ云々で負けたけど、今日はオレも負けねえからな!」
藤堂の言葉には眉間の皺を濃くした。
でかさ云々。
その言葉に少しだけ嫌な物を思い出してしまったのだ。
少し前にあった、
『胸の話から発展したとんでもなく、くだらない‥‥討論』
あまりのくだらなさ加減に我慢が出来なくなりは酔っ払い六名を討ち取り、部屋に戻り再度飲み直すという事になったの
だった。
翌日井上が驚いていたんだっけかと思い出すと彼に申し訳ない。
あいやいや、今は思い出に浸っている場合ではなかった。
あの時同様‥‥いや、あの時以上に出来上がっている幹部連中には慌てて口を挟んだ。
「いやいや、そんな事より別の話しようよ。」
変な話に移行する前に軌道修正――
「オレは大きさや長さよりもどれだけ相手を満足させられるかだと思う!!」
――軌道修正失敗――
早々に敗北感を味わいながらはがっくりと項垂れた。
「まあそう言う意味じゃ、平助の方が新八よりは上だな。」
その言葉を聞いて原田が苦笑で口を開くと、
「なんだとー!?」
それは納得できないと永倉が立ち上がった。
「俺のどこが!平助に劣るっていうんだよ!」
「少なくとも、おまえ‥‥花魁の姉ちゃん相手じゃねえと嫌がって相手にしてもらえねえだろ?」
「そりゃどういうことだ!」
だんっと床を踏み抜く勢いで永倉は詰め寄った。
だって‥‥
藤堂と原田は顔を見合わせて、
「新八っつぁん‥‥自分一人で盛り上がりすぎて相手置いてけぼりなんだもん。」
と、なんともえぐい事を言うのだった。
「‥‥‥」
はなんとも言えない哀れな顔で永倉を見た。
女にもてないもてないと言われ続けてきた彼だが‥‥なるほど、ちょっと納得してしまった。
自分一人で盛り上がって相手置いてけぼり。
そりゃ――もてない。
「そ、そんな事言ったら斎藤なんてどうなんだよ!!」
うぐぐと悔しそうに呻いたかと思うと永倉は自分よりも下がいるじゃないかと彼を指さした。
下と言われた彼は不服そうな顔で男を睨んだ、
が、
「斎藤なんてろくに女の経験がねえじゃねえか!」
「そ‥‥それはっ‥‥」
ぎくりと肩を震わせ、斎藤は目を見張る。
ああ、それも納得できる。
斎藤の場合は奥手すぎて相手に手が出せないだろうな。
なんというか、下手くそ以前の問題だ。
そもそも同じ土俵にすら立ってない。
「でも、下手くそだって分かり切ってる新八っつぁんよりも、未知数の一君の方が上手いかもしれねーじゃん。」
ちょっぴり落ち込む斎藤に気付き、藤堂が唇を尖らせて反論する。
どうやら彼は永倉一人を攻撃したいらしい。
前回の反撃のつもり、なのだろう。
いやいや、斎藤とて元服しているのだからそういう経験の一つや二つくらい‥‥
「‥‥ないの?」
黙り込む彼に気付いては静かに問いかけた。
勿論、答えはなかった。
ちょっと‥‥申し訳なくて涙が出そうだった。
「うぐぐぐっ‥‥」
悔しげに自分を睨む永倉を見て、ふんっと満足げに鼻を鳴らした。
しかし、強敵はまだ三人、いる。
「左之さんは、そういう意味でも勝てそうにねーよなぁ‥‥」
ちら、と笑みを浮かべている原田に視線を遣ってどこか拗ねたように藤堂は言った。
まあ、な、と彼は肩を竦める。
「下手くそじゃねえとは思うけどな‥‥」
誰かと比べたという経験がないだけに上手か下手か、というのは分からない。
ただ、女の扱いも慣れている所をみると、そっちも上手そうだ。
――だからそっちって、なに?
「僕も、相手を悦ばせるのなら得意だよ?」
ぐびっと酒を煽りながら沖田が口を開いた。
泣かせるの間違いじゃないのかと一同は怪訝そうな目で彼を見る。
「いやでも‥‥総司の場合は、なんか乱暴そうだからなぁ‥‥」
藤堂が眉を寄せた。
「それは否定しないけど‥‥」
否定しろ――
でも、と沖田はにやりと嫌な笑みを浮かべてみせる。
「乱暴にされて悦ぶ女の子はたくさんいるし。」
――いねえよ――
思い切り、盃を顔に投げつけたい気分だった。
は中身が零れるのも構わずにぶるぶると手を震わせて怒りを抑える。
落ち着け、相手は所詮酔っ払いだ。
こちらが疲れるだけだ、落ち着け‥‥
「乱暴にされて‥‥って‥‥おまえ、そういう変わった趣味の女ばかりじゃねえだろ?」
もうちっと優しくしてやれねえのかと原田が尤もな意見を述べる。
そうだそうだもっと言ってやれ。
そんな悪趣味な事をするなと。
「そう?
でも女の子って割と痛いの平気だと思うんだけど‥‥」
「平気じゃねえって‥‥」
藤堂と原田が揃って頭を振る。
そうだ。
多少痛みには慣れているとは思うが、平気じゃない。
断じて。
「‥‥まあでも、巧さ云々っていうのなら‥‥」
ちろ、と原田は苦笑で彼を見た。
ぐびぐびと黙って酒を飲むもう一人。
彼は一同の視線を集めると、にや、と挑発するように笑った。
「なんだ?技巧でこの俺に勝とうっていうのか?」
技巧とか格好良く言ってんじゃねえよ――
笑わせる、と鼻で笑い飛ばす副長は、だんっと盃を床にたたきつけた。
「この俺に勝とうなんざ百年早えんだよ。」
「そりゃまあ、土方さんは回数だけはこなしてますからねぇ‥‥」
沖田はしれっと流した。
回数こなせば慣れるだろうと言いたげなそれに土方はなんだとと不機嫌そうに眉を寄せた。
「てめえとは違って俺は器用なんだよ。」
「俳句の腕前はからっきしなのに、閨でだけは器用なんですか?
土方さんってほんっとにどうしようもない人ですねー」
「ぁあ?閨でも不器用丸出しのてめぇに言われたくねえよ‥‥」
「不器用かどうかなんて分からないじゃないですか?」
「そりゃ俺が器用じゃねえかもわからねえだろう?」
ばちばちと火花を散らして睨みあう二人を横目に見ながら本当にそうだよなと藤堂が呟いた。
「比べたわけじゃねえし。」
上手いか、下手か、なんて、そんなの自己満足のようなものだ。
同じ相手で同じ条件で、比べた事などないのだから誰が上手で下手か、というのは分からない。
「なら比べてみりゃいいじゃねーか。」
そんな彼に土方が軽く言い放った。
比べる?
藤堂と原田はなにをと首を捻った。
「この中で誰が一番、女を扱うのが巧いかって事をだよ。」
どうやって?
とこれまた二人が同時に聞くと、土方はにやっと笑って‥‥
「‥‥ぇ‥‥?」
そちらを見た。
「あ。」
その視線に気付いたらしい沖田がぽん、と手を打った。
「丁度良いところにいたね。」
お誂え向きに、と言う彼の視線を皆で追いかける。
「‥‥あ‥‥」
「お‥‥」
「‥‥あれ‥‥」
「‥‥」
と、その視線の集まる先に、
「‥‥な、なに?」
顔を引きつらせたがいた。
つう、と嫌な予感がして背中を冷たい物が駆け下りていく。
気のせいだろうか‥‥
皆の目が、血走っている。
「ちょ‥‥ちょっとみんな、なにその怖い顔―」
あははと乾いた笑みを漏らしながらは後ずさった。
そうすれば皆が、
じり、
と追いかけるように一歩を踏み出す。
「あ、あれれ?なんで追いかけてくるのかなー?」
引きつった笑みを浮かべつつはもう一歩、下がる。
じり、
と男たちの歩みが一歩、進んだ。
やがて、背後を壁で遮られて逃げ道を奪われるまで詰め寄られ‥‥
「ってぇ事で‥‥」
伸びた男の手ががっしりとの肩を掴んだ。
すっかり酒で酔った瞳が自分を見下ろして、つい、と艶っぽく細められた。
「――俺が一番だって事を、その身体で証明しろ――」
久遠を持ってこなかった事を初めてその夜後悔した――
「うわぁああん!源さんっ、近藤さぁあんっ!!」
「どうしたんだ!な、何を泣いているんだ!?」
「ど、どうしたんだい!?この有様は!誰か説明しておくれっ!」
酔っ払いの戯言弐
ひどい下ネタ第二弾!
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