「じゃあ、男はどうなのさ。」

  の指摘にあたりがしん、と静まりかえった。
  先ほどまで白熱していた討論が‥‥一瞬にして止まってしまったのだ。

  問いかけの意味が分からない者、分かったからこそ考え込む者‥‥と反応は二通りに分かれて、だが、沈黙が落ちた。

  だが、黙り込みながら、一同は問いかけた女を見つめた。
  十二個の瞳を受けて、淡々ともう一度訊ねる。

  「男はどうなのさ?」


  ――発端は、永倉の胸が大きい女の子が好きという話から始まった。



  最初聞いたときはどこを見ているんだこのど助平がと思ったものだが、すっかり出来上がってしまった皆はその話題で大
  盛り上がりだ。
  曰く、男性は女性の胸に母性というものと浪漫というものを感じるらしい。
  白熱してそれを語る永倉は若干痛ましい感じもしたが‥‥言われてみれば確かに納得は出来る。
  特に母性の方に。

  確かに、と藤堂が同意した。
  とは違って浪漫の方に、だ。

  あの柔らかい場所には何が詰まっているのか‥‥と、どこか夢見心地で呟く。

  ――肉だ――

  とその浪漫をぶっつぶす発言をしたら二人に変な顔をされた。
  しかし、男と違った柔らかさを持つと言われても、所詮肉だ。
  男と同じもので構成されている。

  事実を言うのに二人は耳を傾けてくれなかった。

  そればかりか、浪漫や母性を求めているくせにその大きさの話にまで発展したのだ。
  大きさで浪漫や母性が変わるものでもなかろうに‥‥
  小さいとなにか、浪漫がないというのか、んな馬鹿な。

  「俺はこう、大きい方がいいんだけどな。」
  「オレも‥‥大きいのに憧れるかも‥‥」

  知るか。

  「大きさはどうかわかんねぇけど‥‥触り心地がいいにこしたことはねえよな。」

  原田が困ったような顔で言う。
  触り心地‥‥即ち彼のように大きな手の人間のそれを満足させるとなるとやはり彼も大きさ推奨派になるらしい。

  「そう?」
  とその二人に意を唱えたのは沖田である。
  黙って酒を飲んでいたかと思えば、ちゃっかり話は聞いていたようだ。

  「僕は小さくても構わないけどなぁ‥‥」

  見た目よりも機能性か、なるほど彼らしい。

  「だって小さい方が育て甲斐があるでしょ?」

  前言撤回。
  こいつは正真正銘の変態だとは内心で呟き、ちらと黙り込んでいる他二名へと視線を向ける。
  斎藤と、土方だ。

  「俺は大きさには拘らぬ。」
  やっぱり酔っている斎藤が生真面目な様子で答える。
  「それって胸ならどんなでもいいってこと?」
  「‥‥そうだ。」

  
そうだ、じゃない――

  一人割と素面に近いは心底斉藤一という男が分からなくなった。
  そういった事に興味がないかと思えば‥‥どんなでもいい‥‥なんて節操無しとも取れる発言を口にするなんて。

  ――実際当人は、好きな相手ならばどんなものでもいい‥‥と言いたかったわけなのだが――

  「なに言ってやがんだ。」
  その場に酔って低くなった男の声が響く。
  土方だ。
  彼は完全に据わった目でぐるりと回りを見回して、答えはこれしかないだろうとにやりと笑う。

  「感じやすいのが一番に決まってんだろ?」

  
浪漫と母性、今いずこ?

  間違いなくこの場で一番親父発言をしてのけた土方に、は思いきり冷めた眼差しを送った。

  「いや、でかさだって!」
  「小さくてもいいってば。」
  「大きい方が絶対いいって〜」
  「触り心地だろ?」
  「関係ない。」
  「おまえら人の話聞いてたのか!?」

  はぁ‥‥
  ぎゃあぎゃあと胸談義に花を‥‥いや、熱くなる男共をは見遣り、それじゃあさとひどく冷静な声で言った。

  「男はどうなのさ?」

  なんだか女の評価が胸でされている気がして気に入らない。
  確かに表にでている分分かりやすいのかもしれないが、それならば男はどうなのだとは聞いてみたくなった。
  男が‥‥というよりは、

  偉そうに言うおまえたちはどうなのか――と。


  「‥‥そりゃ‥‥」
  一番に口を開いたのは発端と同じ、永倉である。

  「俺のはでかいぞ!」

  
待て、なんの話だ?

  は眉間の皺を更に濃くした。

  悲しいかな、彼が何を指してでかいといったのかは、次の瞬間分かってしまった。
  察しがいいというのは本当に厄介である。
  これが千鶴なら分からないままでいられたのに‥‥

  「おいおい待てよ。
  俺だって負けてねえぞ?」
  次に負けじと声を上げたのは原田だ。

  いや更に待て‥‥そこを掘り下げなくてよろしい。
  っていうか、どうなんだと聞いただけだ。
  大きさの自慢をするな‥‥こっちが恥ずかしくなる。

  「なんだ!?勝負するか?!」
  「ああいいぜ、勝負してやるよ!」

  「あー、ごめん、そこで見せ合いだけは勘弁‥‥」

  二人が今にもその場で脱ぎだしてしまいそうなのでは待ってくれと声を掛けた。

  「大きさなら僕も負けてないつもりなんだけど‥‥」

  しかし、聞く耳を持たない別の一人が名乗りを上げた。
  沖田だ。

  「おまえのはでかいっていうより太いんだろ!」
  「それを言うなら左之さんや新八さんだってそうじゃない。」
  「何言ってんだ!俺のは歴とした‥‥」

  大きさを主張する三人は‥‥なるほど、背丈の意味でもでかい。
  背が高いとあれの大きさに繋がるということだろうか‥‥いや、考えたくないのでやめておこう。

  「‥‥別に大きさじゃねーと思うけどなぁ‥‥」

  と、隣で少しだけ不服そうな声が上がった。
  藤堂だ。
  胡座を掻き、なんとも面白く無さそうに呟く彼に立ち上がった三人は気付いて、

  「‥‥おまえは身体と同じで小せえもんな‥‥」

  しみじみと永倉に言われてしまう。
  因みに後ろの二人は生暖かい目で見ている。
  勿論藤堂は憤慨した。

  「小さくねえよ!!
  つか、新八さんみてぇに馬鹿でかいだけで大して役に立たないよりは全然ましじゃん!!」
  「なにをー!?
  俺のが役に立たねえってのはどういうことだよ!」
  「その言葉の通りだよ!!」

  「役に立つって‥‥なに?」

  は思いきり怪訝そうな顔で呟いた。
  もう、誰かに問いただすのも馬鹿馬鹿しい。
  とりあえずああいう場面で‥‥ということなのだろうが‥‥そんなの聞きたくない。

  「待て、新八、平助。
  大きさが全てではないだろう?」

  尤もな意見を口にするのは斎藤だ。
  しかし、先ほどの超問題発言を聞いただけに、その後が‥‥怖い。

  彼はやはり至極真面目に言った。

  「長さも必要だ。」

  
真顔で何を言うんだこいつは

  言われた彼らは複雑な顔でお互いを見た。
  そうして、

  「なんだよそれ、俺のがただ太いだけって言いたいのか?」

  永倉が抗議の声を上げる。
  逆に藤堂は黙してしまった。

  そっか‥‥へーちゃんは長さもないのね‥‥とは涙ながらに一人沈黙する青年を見守る。

  「そうだ。
  新八も、左之も‥‥あんたたちのは太いだけだ。」
  長さが足りぬ、と言われ原田もおいおいと声を上げた。
  「俺のどこが足りねえってんだよ!」
  「新八のものよりは長いかも知れぬが、標準だ。」

  なにが基準だ、言ってみろ
  つかなんだ一、それじゃ自分のは規格外に長いとでも言いたいのか、それはそれで恐ろしいじゃないか。

  「長いつったって、所詮あの中なんて知れてるだろうが!奥まで届けば十分なんだよ!」
  「何を言う。その更に奥に真の姿が隠されているのだぞ。」
  「あ、それじゃあどっちも兼ね備えた僕が一番って事じゃない?」
  そんな中いけしゃあしゃあと一番を名乗るのは沖田だった。
  何故か斎藤は「う」と口ごもってしまう。
  どうやら沖田は長さも太さも兼ね備えているようだ‥‥もうそんなのどうでもいいよ‥‥
  でかかろうが、長かろうがどうでもいい。
  というか誰かこの馬鹿馬鹿しい論議を止めてくれ――

  「だぁから‥‥てめえらは何も分かっちゃいねえってんだよ。」

  っぷは、と酒を一気に煽った土方がゆらりと立ち上がった。

  「長さも太さも関係ねえよ。」

  鬼の副長は今にも抜刀しそうな鬼気迫る眼差しを一同に向けて、にたりと笑った。
  一番大事なのはな――
  と、

  「雁の出具合だ。」



  翌日、
  何故か広間で伸びている幹部一同を見て井上が絶叫を上げたが、は聞こえない振りを決め込むことにした。


酔っ払いの戯言



ひどい下ネタだ!