「、おいでおいで。」

  両手を広げておいで、と呼ぶ沖田には怪訝そうな顔をする。

  「‥‥なに?」
  「なにって‥‥お返し。」
  バレンタインの、と言われはますます首を捻った。
  そういえばホワイトデーというものがあって、それはバレンタインデーのお返しをすると聞いたような気がするが、それに
  しても何故彼が手を広げているのか分からない。
  そんな疑問を抱えていると、

  「お返しにぎゅーって抱きしめてあげる。」

  彼はにっこりと笑顔でそんな事を言った。

  お返しに‥‥抱きしめてあげると。

  「‥‥それ、千鶴ちゃんにもまさかしたんじゃないだろうな。」
  「うん、でも逃げられちゃった。」
  「当たり前だ、どあほう。」

  ははぁ、と溜息を零す。
  自分は慣れてはいるが千鶴は初な女の子なのである。
  お礼に「抱きしめてあげる」なんて言われたらそりゃ驚くし戸惑うだろう。

  「え?なんで?僕にぎゅってされるの嫌?」
  「嫌じゃないけど、おまえが言うとなんかやらしい。」

  邪な感じがする、とは素直に言ってのける。
  沖田はひょいと首を傾げた。
  大の男が小首を傾げるな、とは内心で突っ込んでおいた。

  「下心はないよ?」
  「あったら尚悪い。」
  「いいじゃん、とにかく、こっち‥‥」
  待っているのに焦れたのか、彼の方からずかずかと近付いてきて、
  「わっ!?」
  すっぽりと大きな胸に包まれる。
  抱きしめる、というより、閉じこめられたような気分になるのは‥‥彼があまりに大きいからだろうか。

  「‥‥」

  ぽんぽん、と背中を叩きながらもう片方の手が優しく髪を梳く。
  その優しい指にそっと目を細めながら、自分を包み込む男の、陽気なお日様みたいな香りを吸い込んだ。

  「‥‥ありがと‥‥」
  「それ、僕の科白。」

  腕の名から控えめに礼を述べれば頭上から笑い交じりの声が降ってくる。

  「おいしいお菓子のお礼なんだから。」
  「でも、今日贈り物をしてもらったのは私。」
  「こんなの全然贈り物にならないよ。」

  ちぅ、と髪に口づけられ、どきりと、胸が高鳴った。

  「ほんと‥‥全然贈り物にならない。」

  飴色の髪に鼻先を埋めながら男はもう一度囁いた。

  彼女が気持ちを込めて贈ってくれたものに相応しい贈り物なんて何一つ浮かばなかった。

  綺麗な着物も、美しい宝石も。
  ただ高価なものを贈った所で、自分がもらえた嬉しさを彼女に返せる自信がなかった。
  多分彼女は何をもらっても「嬉しい」と言ってくれる。
  心の底から。
  でも、沖田はそれじゃ全然足りなくて‥‥

  「僕の身体全部で返せればいいなぁと思ったのに。」

  自分がどれだけ嬉しかったか、彼女をどんだけ喜ばせてあげたいか、
  その気持ちが伝わればいいと思ったけれど‥‥

  「‥‥これじゃ、僕の方が喜んでるだけだ。」

  腕の中にある温もりに、沖田の方が満たされている。

  これじゃ、逆だ――

  「‥‥これじゃだめだ‥‥」
  「総司?」

  よし、と頭上で声が聞こえた。
  かと思うと、

  「うわっ!?」

  ひょいと軽々と身体を抱き上げられ、は驚きの声を漏らした。

  「ちょ、総司っ!」
  一体何事かと抱えられながら訊ねれば、彼はにこにこと、

  「やっぱりこれじゃ全然お返しにならないから、僕の身体全部使ってお返ししようと思ってね。」

  満面の笑みで言う。

  しかし、笑っている瞳の奥にぞくりと泡立つような男の色香を感じたのは‥‥果たして、気のせいだろうか?



  「うーん‥‥やっぱり僕ばっかり悦んでる気がする。」
  褥の中で沖田は乱れる飴色の髪を撫でた。
  触れられるたびにまだ敏感な身体がびくりびくりと動く。
  気持ちがいい‥‥というより、良すぎて辛い。

  「も、やだ‥‥触んな‥‥」
  過ぎた快楽が身体には負担になるというのを知ったのを初めて知った。
  は嫌だと言いながら彼の下より這い出ようと藻掻く。
  が、
  「あれ?でもまたここ濡れてきたよ?」
  そろりと先ほどまで彼を咥えていたところを撫でられ、はふぁと甘ったるい声を漏らした。
  「ちが‥‥おまえがっ、あんだけ出すからぁ‥‥」
  自分のではない、おまえのだと言いたかったけれど、男は聞く耳を持たない。
  「でも、気持ちいいんでしょ?」
  ここに入れられると、と男は艶を含んだ声で囁きながら、指を軽く差し込む。
  それだけで言いしれぬ快感が背中を駆け抜け、また軽く達してしまいそうになる。
  いや、とは身を捩った。
  だけど、身体は裏腹に与えられる刺激を貪欲に求めていた。
  奥へと誘い込むように蠕動する胎内に、沖田はやっぱりいいんじゃないと口の端をつり上げる。
  瞳にはまた、男の情欲を湛えて。
  「も‥‥や‥‥あ、あああ‥‥」
  「遠慮しないで。」
  沖田の逞しい手が腰を押さえ、いつの間に元気を取り戻したのか分からない彼の雄がゆっくりと内部に埋め込まれていく。
  胎内を満たす男の精が、ぐじゅりと嫌な音を立ててあふれ出した。
  それが伝い落ちて敏感な花芽を濡らすものだから堪らない。
  「や、やぁっ‥‥」
  子供が駄々をこねるように髪を振り乱せば零れた涙がきらきらと輝いて弾ける。
  それさえも愛しいと言えば、彼女はどんな顔をするだろう。
  「。」
  愛しい人を優しく呼んで、男は再び奥深くまで女を犯した。
  「全部受け取ってね。」
  その全てを共有するかのようにぴたりと沖田は背中に張り付く。
  どくんと跳ねた鼓動も、同じだった。

  「僕の身体‥‥全部で愛してあげるから。」

  脳髄まで蕩けてしまいそうな甘い声で囁き、男は何度目か分からない熱い愛をたっぷりと女に注いだ。


ベリースウィートホワイトデー



色んな意味で甘いホワイトデー(総司にとっては)