「。」
呼ばれて顔を上げた瞬間、
ばさばさばさと何かが降ってきた。
何事かと目をまん丸く見開けば、赤や黄色、鴇に瑠璃、橙に紫、が視界に飛び込んできた。
それから、たくさんの春のにおい。
「‥‥え?」
はら、と柔らかな風に吹かれて舞うように落ちていくのは花びら。
そして自分の膝の上やら畳の上には、
「えええ!?」
たくさんの花たち。
驚きに見開かれる琥珀を覗き込んで、原田はしてやったりという満面の笑みになる。
「今日はホワイトデーだ。」
バレンタインデーのお返しだと彼は言った。
あちこちで集めてきたのだろう。
名前の知っている花もあれば名前も知らない花もある。
庭先に咲いているものだってあった。
枝付きのもの、まだ蕾のもの、様々だ。
「どうだ、綺麗だろ?」
「‥‥」
は無言だった。
無言で花々を見ていた。
その瞳はまん丸く開かれている。
「‥‥別に金がなかったわけじゃねえんだぜ。」
原田は決まり悪そうに頭を掻く。
確かに毎晩のように飲み歩いているせいで手持ちの金はそんなに残ってはいない。
おまけに花もその辺で集められるものだし、買ったものではなかったが‥‥別に金銭的問題があったわけではない。
「あんまり綺麗だからさ‥‥」
何にしようかと悩みながら歩いていると、ふと、自然の中で鮮やかに咲き誇る花々を見つけたのだ。
誰に手入れをされたわけでもないのに美しく、真っ直ぐに、花を咲かせている姿が‥‥とても綺麗で。
に見せてあげたかった。
摘んでしまうのは可哀想だとは思ったけれど‥‥
「‥‥これ、左之さんが摘んできてくれたの?」
漸く我に返ったがぽつんと零した。
ああそうだと原田は頷く。
「私のために?」
「ああ。」
彼はやっぱり頷く。
どれほど花好きと言っても、この色とりどり、様々な花を一度に咲かせることは出来ないだろう。
そしてきっと、ここまで集めてくるのも出来ないだろう。
「‥‥」
は女らしい性格をしていない。
花をもらって嬉しいと感じることも、多分、ない。
でも、
「‥‥嬉しい。」
彼の気持ちがすごく嬉しい。
それは本当だ。
ふわりと、咲き誇るどの花よりも美しく鮮やかな笑顔という大輪の華を咲かせる。
「ありがとうございます。」
どこか照れたように笑って礼を述べる彼女に、贈ったはずが贈られた気分になって複雑だった。
かり、と首の後ろを掻きながら、
「い、いいってことよ。」
喜んでもらえたなら何よりだと原田は言って、視線を逸らす。
「それにしても‥‥本当に沢山集めてくれたんですね。」
はくすくすと笑いながら膝の上に鎮座する赤い花と、白の花を拾い上げた。
ふわりとどちらも甘くていいにおいがする。
ふと、
「あ‥‥」
ふわりと風に吹かれてちりばめられた花が揺れる。
白や赤の下に埋もれていた、紫色のそれを見つけた。
秋の七草とも有名な桔梗の花である。
それがこの時期に花を咲かせるなんて珍しい‥‥
綺麗だ綺麗だと思ってあれこれ取ってきたのだが、季節外れの花まで摘んできてしまったらしい。
原田はそれをそっと拾い上げると、
「。」
「はい?」
「ちっとばかりじっとしてろ。」
そう言って手を伸ばす。
大きな無骨そうな手がそっと耳に触れた。
くすぐったくて身を捩ってしまいそうなのを、なんとか堪える。
「‥‥よし、出来た。」
そんなには気付かず、原田は満足げに頷くとすっと身を引いた。
視界には捕らえることは出来ないが、きっと、彼は自分が持っていた桔梗をの髪に挿したのだ。
「‥‥綺麗だ。」
よく似合ってる。と彼は言ってくれた。
は苦笑する。
正直、自分は女らしい所が何一つない女なので、彼の言葉には賛同しかねる。
化粧の一つもしていなければ、着物だって男物だ。
それになにより、並の女の子よりも強い。
人を殺すことにかけてはの右に出る者はいない。
そんな女が花など似合うはずもない。
「‥‥世辞じゃねえぞ。」
苦笑のに気付いて原田は頭を振った。
そうして彼女をじっと真剣な眼差しで見つめたかと思うと、
「おまえは‥‥綺麗な女だ。」
柔らかく、眦を下げて笑う。
その優しい笑顔に不覚にもどきりとしてしまって‥‥
「‥‥あ、ありがとうございます‥‥」
照れたように視線を落とす彼女の耳元で、まるで彼女をからかうかのように桔梗が揺れた。
ハッピーホワイトデー
左之さんが両手いっぱいに花を抱えてくる姿を
想像するとちょっtほっこりします♪
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