「ってお酒強い?」
  「うん、どうだろ。」

  僕の問いかけには首を傾げた。
  どうだろって‥‥その反応はどうなんだろうと思う。
  自分の事なのに、どうしてそんな他人事のように‥‥

  「だって限界まで飲んだことないもん。」

  新八さんや平助君みたいに醜態を晒したりしない、と意地悪く笑っては言った。

  「あれは別格。」
  「‥‥そうだね。」

  は言ってまたくいっと盃を空にした。

  「多分、土方さんよりも強くて、一より弱いんじゃない?」
  「それ真逆じゃん。」
  「その真ん中。」
  「普通だね。」

  普通で良い、とは笑う。
  まあ、あまり女の子でお酒に強いってのもどうかと思うけどね。

  「じゃあ、今日は限界まで飲んでみる?」
  空になった盃にお酒を注ぐとはにっと口元を引き上げて笑った。
  「なに?私を潰す気?」
  潰して何するんだよーとからかうように言うから僕も笑った。
  「そうだね、とりあえず、顔に落書きでもするかな。」

  そう言ったら子供だって言われた。
  の方が年下のくせに――



  からん。
  いつの間にか無言になって、
  気がついたらそんな音と共に床に盃が転がった。
  「‥‥?」
  の手から落ちたものだった。
  空っぽになったそれがころころと畳の上を転がっている。

  寝た――?

  は項垂れた様子で止まっていた。
  多分、寝てる。

  「‥‥」

  僕はちろっと酒を舐めながら転がる徳利の数を数えた。

  女の子にしちゃ、強い方。
  でも、男に比べれば普通‥‥

  良かった。
  化け物みたいに強いから、お酒も強かったらどうしようかと思ったんだよね。
  正直、お酒が強い女の子はちょっと‥‥可愛くないし。
  とか言ったら嫌がりそうだけど。

  「‥‥んー」

  くすっと笑うとは小さく唸った。

  このままここに置いておくのも可哀想だし、

  「。」

  眠たいなら部屋まで連れていこうか?

  僕は言っての顔を覗き込んだ。
  すると、

  閉ざされていた琥珀の瞳がゆっくりと開かれる。

  「――っ――」

  それは酔っ払い特有の据わった瞳だったけど、ぞくりと泡立つくらい、色っぽい‥‥眼差しだった。
  赤い目元が更に色気を醸し出していて、僕は思わず、手を、止める。

  そうしたらが、

  「‥‥そうじ‥‥」

  僕の名前を呼んで、

  「え‥‥?」

  距離を縮めて‥‥

  「‥‥っ‥‥」

  唇が、重なった。

  ふわんと強いお酒のにおいがした。
  あ、これ絶対酔ってるんだと思ったのに、身体が動かない。
  まるでその強い眼差しに囚われたみたいに固まってしまって、

  「ん‥‥」

  触れた唇が強く押し当てられ、その柔らかさにうわと小さく声を上げそうになった。
  口づけるのは‥‥これで二回目。
  一度目はを興味本位に抱いたとき。
  でも、あの時よりも、もっと柔らかくて‥‥甘い、唇。
  そう思っていたらするりと開いた唇の隙間から何かが差し込まれた。

  あ、の舌だ。

  強い酒の味がするそれは固まっていた僕の舌を絡め取って、強く、吸う。

  「んっ」

  吸い上げられてぞくぞくっと背筋が震えた。
  熱が腹の底から這い上がって‥‥堪らない。

  なに、これ。

  「‥‥んっ‥‥」

  こんな気持ちいい接吻‥‥僕は知らない。

  「っ‥‥」

  僅かに唇が離れると、柔らかいそれが上唇を噛んだ。
  噛んだ、というより甘噛みされて、興奮する。

  「ねえ、どこで‥‥こんなの覚えてきたの?」

  誰かに教えて貰った?

  まさか僕以外の男と接吻した事あるの?

  問いかけに、はふっと笑った。

  驚くほど、妖艶な顔で‥‥
  誘うように、
  笑う、
  から。

  「っ」

  お返しとばかりに僕はその唇を塞いだ。
  抱き寄せて隙間なく塞いで‥‥やりかえす。
  強く舌を吸って、噛んで、
  唾液を絡めて、吐息を奪って、
  思考も、
  全部全部‥‥奪って、

  「く‥‥るし‥‥」

  が泣きそうな声を上げたのが遠くで聞こえた気がした。

  それから、

  「何やってんだ総司っ!!」

  唐突に飛んできた左之さんの声。
  すぐに強い力が僕の襟首を掴んで‥‥引っ張る。
  喉が締まって思わずげほっと咽せた。
  そのままごろんっと後ろに投げ転ばされて僕は目を白黒させた。

  「左之さん‥‥新八さん?」

  二人は憤怒の表情で立っていた。
  その向こうに、真っ赤になって倒れ込んでいる
  ああ、そう、か。
  僕は分かった。

  彼女があんな事を仕掛けた理由。

  何より質が悪いよ

  「おまえ、なんってことをっ!!」
  拳を振りかぶって今にも殴りかかってきそうな左之さんに僕は言った。
  「僕じゃないよ。」
  違う。
  僕のせいじゃない。

  「が仕掛けたんだ。」

  彼女は酔うと‥‥誰かで構わず接吻するんだ――


  その僕の言葉を信じてくれたのは、それから何日も経った後。







が最初に酔っ払ってキスしたのは総司。