「漸く俺の妻になる事を決めたか。随分と待たされたがまあ良い。それもおまえの照れ隠しを言う事で許してや――」
  「すんません、間違えました」

  生徒会の扉を開き、そんな言葉で出迎えられてはぴしゃんと扉を閉める。
  開けてはいけない禁断の扉を開けてしまった気分だ。
  いくら生徒会に用事があったとはいえ、やはり周りの人間の言う事は守るべきだな、とは内心で呟き、その横で呆然
  としている千鶴に、
  「千鶴ちゃん、さっきのは夢だ。忘れた方がいい」
  「きらきら‥‥」
  と言い聞かせる。
  忘れた方が良いと言われても、千鶴の目にはあの煌びやかな光景が一瞬で焼き付いてしまったらしい。
  目を何度も瞬かせつつしきりに「きらきら」と呟く彼女の背を押して、その場から退散する。

  この学校には風間千景という生徒会長がいる‥‥らしい。
  らしいというのはあまりその姿を見ないからで、この学校に入学して二年が経とうとしているが、はこの日初めて生
  徒会室なる場所を訪れ、そこで初めて目にしたくらいだ。
  普段は授業にさえ出ていないらしい。
  それなのに良く退学にならないなと不思議に思うのだけど、どうやら風間千景という男は莫大なお金を学校側に寄付して
  いるらしく、それが故に追い出す事も出来ないとかなんとか。
  因みに風間という男は実際二十も後半の高校生とは呼べない立派な大人ということらしい。

  「ネバーランドを今でも探してる純粋な大人ってこと?」
  「そんなに良いものじゃねえ。あいつはただのニートだ。駄目な大人だ。気にすんな、むしろ忘れろ。金輪際思い出すな
  未来永劫忘れとけ」
  そんなに嫌いか、と訊ねたくなるほど土方は顰め面で言い捨てる。
  「おまえも忘れろよ、千鶴。不幸になるぞ」
  「ふ、ふこっ‥‥ぇえええ!?」
  その向こうで総司に危ないところに行っちゃ駄目でしょ、なんて叱られていた千鶴は土方の言葉に驚きの声を上げた。
  因みに二人を生徒会室に行かせた永倉は二人の鉄槌により黄泉路へと旅立っている所で、その横では自業自得だと原田が
  言いながらペンを走らせている。
  「不幸になるって事は、もしかして、あの人幽霊か何か?」
  それにしては眩しいくらいのキンキラ‥‥だったんだけどとが言えば、だから思い出すなと土方に窘められる。
  いやでも、みんなしてそんな反応をするんじゃ気になるじゃないか。
  まあ、あの状況を見るにあの人がヤバイ人だというのは分かるけれど。
  「残念だけど、生きてるし、あの人は大人になりたい駄目な大人じゃないんだよ」
  「‥‥なんだ、ピーターパン症候群じゃないの?」
  「うん、そんな可愛いものじゃないよ」
  「じゃあ、どんな可愛くないものなの? その前に千鶴ちゃん離してやれ、それじゃおまえの胸襟で窒息する」
  ぎゅっと顔を胸に抱き込まれてわたわたしている千鶴を見てが指摘すると、沖田は大丈夫? なんて白々しく訊ねて
  拘束を緩めながら、あの人はね、とにこやかに、笑顔でこう言った。

  「花嫁探しをしてるんだよ」




  『3年A組、雪村、3年A組、雪村。至急生徒会の俺の元まで来るが良い』

  昼休みに突然、スピーカーから気怠げな男の声が校内に鳴り響いた瞬間、は思わず飲んでいたウーロン茶を噴き出し
  そうになった。
  普段何もしないくせに何故か生徒会長の存在というのは全校生徒に知れ渡っていて、彼が何のためにここにいるかという
  のも知っているだけにざわざわとクラス中の人間がざわめく。
  一方呼びだされたは寸での所で堪え、その代わりに器官に入ったらしくげほげほと咳き込みながら涙目で馬鹿馬鹿し
  い放送を流してくれたスピーカーを睨む。
  「まさかの呼出‥‥」
  「っていうか、初めてだよねー。呼出するくせに誰の所に来いとか言わないのって‥‥」
  馬鹿なのかな、と辛辣な台詞を吐くのは共に食事をしている沖田だ。
  半眼で虚空を睨み付け、ずずーっとオレンジジュースを啜る。
  「行った方がいいの?」
  「行かなくていいよ」
  の問いに即答で沖田は放っておけ、と言った。
  が、それから数分も経たない内に再び校内放送が流れ、
  『何をしている、雪村。俺の命令が聞けぬと言うのか‥‥』
  些か苛立った様子の声が聞こえはじめて、は再びスピーカーへと視線を向けた。
  そこからはまだ、彼の声が流れている。
  『俺を誰だと‥‥そうか、これは所謂焦らしプレイと言うやつだな。ふん、貴様は随分と俺を煽るのが上手いようだ‥‥』
  「‥‥ねえ総司。校内放送って独り言呟くもん?」
  「違うね。それにあれは独り言じゃなくて、宇宙と交信してるんだよ。相手にしたら宇宙人になっちゃうよ」
  『だが、俺はあまり待たされるのは好まん。良いか、貴様の気持ちはよく分かった。それほどに俺の事を好いているとい
  うのならば今すぐにおまえを妻にしてやろう』
  「ほんとに、宇宙人みたいだな」
  「でしょ? 聞いてると耳が腐るよ」
  だから聞いちゃ駄目、とイヤホンを勝手に装着され、はその先を聞く事が出来ない。
  まだ何か言っているようだが、何やら周りがざわめくような事を言ったらしい。
  何だろうかと首を捻れば、スピーカーから割れんばかりの怒声が飛び込んできて、

  『風間ぁ! 校内放送で卑猥な発言してんじゃねえ! ここを何処だと思ってやがんだ!!』

  土方の声を最後に、ひたすら沈黙が流れた。


 噂の生徒会長様



  リクエスト『パラレルの風間様立ち位置とは?』

  パラレルでの風間様はどんな立ち位置か‥‥というリクで
  したが‥‥
  はい、残念な生徒会長として確立しておりました!
  ちょっと酷いくらいの扱いで申し訳無いっす☆
  恐らく、土方さん、総司によりあの人は危険物として本編
  以上に取り扱われているかと。
  それにめげずに今日も生徒会長様は花嫁捜しにいそしんで
  いると良いかと☆

  そんな感じで書かせていただきました♪
  リクエストありがとうございました!

  2011.9.11 三剣 蛍