一番組組長である沖田総司は最近、千鶴で遊ぶのが日課である。
  当人は優しくしているつもりなのだがこれが周りから見ると『苛めている』ようにしか見えないのだ。
  まあ彼の愛情表現というのは若干歪んでいるので仕方のないことかもしれない。

  「そんなに意地悪ばっかりしてると愛想尽かされても知らないよ?」

  と、彼の悪友、が苦笑で零していた。

  あり得ない――と言いきっておいたけれど。



  「ん?」
  がた、と物音が聞こえ、彼は足を止める。
  その先には部屋が一つしかなく、また、その先の部屋を行き来できる人間は少ない。
  何故なら雪村千鶴が新選組の秘密を知っているからであり、彼女が女であるからでもあった。
  平隊士との接触は一切禁止。
  限られた幹部しか彼女の部屋に行き来をする事が出来ない。

  気配が二つあった。
  つまりは、彼女の部屋に誰かが来ている‥‥ということなのだろう。

  「ぁっ」

  誰だろうかと耳を澄ましていると微かに、女の声が聞こえた。
  どこか切羽詰まったように苦しげな、でも、微かに甘い声だ。
  そして、

  微かに濡れたような音が響く。
  粘着質な水音はやけに男の欲を掻き立てるような音で‥‥彼はまさか、と内心で呟いた。

  「ん、あっ」

  また、すぐに、濡れた音の後に声が聞こえる。
  千鶴のものだった。
  音と同様に濡れているのは‥‥文字通り『女』の声。
  快楽を訴えるものだ。

  何故彼女がそんな声を?
  まさか、自分で自分を慰めているのだろうか‥‥いやいや、そんな千鶴に限ってそんな‥‥
  ちょっと待て、気配は二つあるぞ。
  もしかしてでは彼女は誰かに手篭めに――!?

  ぞわりと怒りに全身が総毛立つ。

  思わず怒りのままに抜刀し、乱入しようかと思った矢先、くすりと楽しげな声が彼の耳に届いた。

  「千鶴ちゃん、声あんまり出しちゃ駄目だよ。」
  聞こえちゃうよというその意地の悪い声は、彼の良く知るものだった。


  ――――?

  声の主に、沖田は愕然とした。

  確かに。
  は千鶴と仲が良い。
  千鶴もに懐いている。
  だから、この部屋にが来るのはおかしくはない‥‥けど‥‥
  『そういう状況』で千鶴と一緒にいるのはおかしい。
  何故なら千鶴もも『女』だからだ。

  だが、困惑する彼の耳には二人の声が確かに聞こえてくる。

  「あっ、さっ‥‥あンっ」
  「ほら、声‥‥抑えないと‥‥」
  「だって‥‥無理っ、んーっ!」
  「仕方ないなぁ‥‥」

  気がつくと沖田はそろそろとその部屋の前まで近付いて、薄く開いた障子の隙間からまるで盗み見るように中を見ていた。
  微かな隙間では見えない。
  指を差し込んで少しだけ押し開くと部屋の中で重なる二つの影を見つけた。
  そのどちらも着物を纏っておらず、生まれたままの姿をしていた。
  そしてそこにいたのはやはり千鶴とで、千鶴はに押し倒されている。
  そこまではいい‥‥よくないかもしれないが‥‥いい。
  問題は、

  「なっ!?」

  の胸に‥‥あるべき膨らみが見あたらないのだ。
  あれほどふくよかで千鶴が「羨ましい」と何度も言っていた豊かな乳房が。
  当人は重たくて仕方ないと言っていた豊かな乳房が。
  真っ平らになり、そればかりか、筋肉もついて引き締まっているのである。
  まるで‥‥男のように。

  いやいやそんなはずはない。
  彼女は男ではなく女だ。
  乳房がないはずがない。

  「っ」

  見間違いだと自分に言い聞かせ、一度目を閉じてもう一度見る。
  しかしやはりその光景は変わらない。
  の乳房はどこにもなかった。
  男の身体のように。

  男‥‥
  男‥‥

  「ちょ‥‥っと、まさか‥‥」

  沖田は青ざめ、もはや盗み見ているというのも忘れてざっと大きく襖を開いた。
  瞬間、
  むわりと噎せ返るような甘い香りが溢れてくる。

  畳に華奢な身体を縫いつけたはああ、と微塵も驚いた風もなくにやりと笑みを浮かべて沖田を見上げた。
  「見つかっちゃった。」
  まるで悪戯が見つかってしまった子供のように悪びれなく言う。
  それが子供の悪戯ならば笑えただろうが、沖田はまったくと言って良いほど笑えない状況だった。
  何故なら押し倒された千鶴の恥部を、自分が持っているのと同じものが出入りしているのだから。

  しかも、
  その相手が、
  女であるはずの――

  「千鶴ちゃん、総司に見つかっちゃったよ?」

  悪びれた風もなく、こちらを上目に見上げたままは悪戯っぽく呟いた。
  その間も動きを止める事はなく千鶴を追い立て続ける。
  彼女‥‥いや、彼の動きに合わせて甘ったるい声を漏らす千鶴は言葉の意味など分かっていないだろう。
  ただその首に腕を絡めて‥‥まるで甘えるようにすりついてひたすら「」と名を呼んだ。
  まるでその人の名前しか知らないように、まるで、その人しか知らないように。

  「‥‥なに‥‥して‥‥」

  思考が停止し、いまさらのようにその問いかけが口から零れる。
  立ちすくんだまま彼は動けなかった。
  いかな斬り合いの最中でも『恐ろしい』と思った事などなかったのに、今、彼の目の前にある光景はただただ『恐ろしい』
  光景にしか見えなかった。

  いつか、が言っていた。

  『さんが男性だったら私‥‥』

  頬を染めて、千鶴は恥ずかしそうに言っていたと。


  ――私、さんの事が好きになってしまいます――



  「うわぁあああああああああ!!」

  絶叫と共に、沖田は布団をはね飛ばして上に飛び起きた。
  突然身を起こしたせいか、くらり、と目眩を覚え、そのまま頭を押さえて蹲る。
  ぜえはあと唇から荒い息がこぼしながら、呆然と、目の前の景色を見つめた。
  そこは自分の部屋。
  布団の上。
  自分は眠っていた。
  そして、目の前に先ほどまで見えていた光景は‥‥ない。

  ―――ゆめ―――

  まさしく悪夢と言わんばかりのそれに、彼の唇から塊のような溜息がこぼれ落ちる。

  「よ、よか‥‥った‥‥」

  そうだよね。
  が男なはずがない。
  いくら男らしい性格をしてるからって男のはずがない。
  それに、千鶴とあんな関係になるはずもない。
  二人は女同士だ。
  そう。
  大丈夫。
  あれは夢。
  夢なのだ。
  現実ではないのだ。

  ふ‥‥と笑いながら額の汗をぐいと拭えば、どたばたと足音が近付いてくるのが聞こえた。そうして、

  「どうした!総司っ!」
  「なにがあったんですか、沖田さん!」

  血相を変えて飛び込んでくる千鶴と、当然のように横に立っているの姿に、沖田は一瞬目を丸くし、

  「っ!!」

  次の瞬間何故か青ざめて泣き顔に歪めて雷にでも怯える子供のように布団に潜り込んでしまった彼に、二人はただただ困
  惑した顔を見合わせるしかなかった。


 嘘か真か



  リクエスト『総司がしてやられる話』

  が男となって千鶴ちゃんとにゃんにゃん(笑)してる
  姿を見てしまって動揺しまくる総司の夢オチ話。
  『あなたは私の誇り』の続きのお話です。
  ええ、総司が『してやられる』お話です。
  うわぁとか叫ぶ総司‥‥ちょう、楽しい( ´艸`)
  夢オチですが、実際と千鶴ちゃんのラブラブっぷりに
  ヤキモキしてると良いんですよ☆

  そんな感じで書かせていただきました♪
  リクエストありがとうございました!

  2011.1.30 三剣 蛍