「クリスマスだから、プレゼント交換しようぜ!!」


:え!? プレゼント交換って、みんなでやるの!?
永倉:決まってんだろー。クリスマスと言えばみんなで輪になって交換、だぜ
:……どうしよう、私、千鶴ちゃんが教えてくれたから、てっきり千鶴ちゃんと交換するもんだと思って、千鶴ちゃん用に買ってきちゃったよ
千鶴:す、すみません! 私の説明不足で
:ううん、千鶴ちゃんのせいじゃないよ。私もちゃんと確認すれば良かったんだし……まあ、千鶴ちゃんにあげるために用意はしたけど、誰に当たっても大丈夫なもの…………のはず?
沖田:疑問系なのがすごく怖い所だよね
藤堂:とにかく座れって! 今からプレゼント回すから!
斎藤:プレゼント交換というのは、座ってするものなのか?
原田:そうそう。円になって座って、プレゼントを横の人間に回していくってわけだ。ほら土方さんも早く座れって
土方:だから、俺はやらねえって言ってんだろうが!
沖田:往生際が悪いですよ
藤堂:ってぇ事でミュージックスタート!!
沖田:何が当たっても、恨みっこなしだからね



土方:って事で、それぞれプレゼント渡ったみてえ、だが……
沖田:………
原田:……
永倉:………なんだよこれっ!! 誰だよ石田散薬なんて入れたヤツ!!
斎藤:新八。あんたは石田散薬に文句でもあるのか
永倉:やっぱりおまえか斎藤! っつか、これはどう考えてもクリスマスプレゼントに相応しくねえだろうが!!
斎藤:何を言う。暴飲暴食で毎年腹をこわすあんたには何より相応しい贈り物だろう
原田:つか、おまえらはまだ良いじゃねえか。俺なんてサンタの衣裳だぜ
:あ、それ私!
永倉:……見事に女の子用だな
:千鶴ちゃんに着て貰おうと思ってたからさー
斎藤:………左之、まさかとは思うが、あんたそれを
原田:着ねえよ!!
:似合うと思います、よ?
原田:そりゃあ、おまえや千鶴ならな……って事でパス
:ええ!? 私が買ったのに!?
永倉:総司と斎藤は何が当たったんだ?
斎藤:待て、今開けようと思っていた所だ
原田:どれどれ………
:…………
斎藤:………これはっ!?
原田:誰だよ!? 変若水なんて入れたヤツは!!
永倉:お、斎藤が当たったかー。そいつは山南さんがこないだ作ったばかりの新しいヤツなんだぜ
斎藤:こ、こんな危険な物を何故プレゼントなどに
永倉:いやぁ、給料日前ですっからかんでよー。山南さんに試しに飲んでみてくれって言われたのがあったから丁度良いかと思って
:最低だこの人。人から貰ったものを入れるなんて
原田:しかもあんな危ねえもんを
千鶴:………
:あれ? 千鶴ちゃんどうしたの? 顔が青いよ
千鶴:い、え、あの
原田:どうした、変若水の改良版でも入ってたか? それとも風間の野郎の写真でも……
千鶴:いえ、その
:ごめん、見せてもらうね
原田:…………
:………宝玉発句集
土方:総司てめぇええええええ!!
沖田:あはは、千鶴ちゃんに当たっちゃったんだ?
土方:いつの間に人の部屋から取っていった!? あぁ!?
沖田:さて、いつでしょう?
:千鶴ちゃん、命が惜しかったら……これ、お返ししようね
千鶴:はい
:その代わりに、このサンタの衣裳。着て
千鶴:は、はい……
藤堂:おまえら、なんでそんな変なもんばっかりなんだよ! プレゼント交換するって何度も言っただろー
斎藤:石田散薬は変な物ではない
原田:俺だって、ちゃんと考えて酒を選んだぜ
:それが未成年に当たるとは考えてなどは?
原田:ああ、忘れてたな
土方:安心しろ。未成年には当たってねえよ
永倉:土方さんに酒が当たったかー。なんつうか、一番必要のねえ相手に当たったもんだな
土方:なんか言ったか?
永倉:いえ、別に!
藤堂:まったくみんななってねえよな……普通はもっと無難なものを選ぶもんなんだよ
:無難って、例えば?
藤堂:勿論、食い物に決まってんじゃん! これならよっぽどじゃなければ当たりはずれはねえし!
:好みってのがあるからある意味一番危険だと思うけど
藤堂:そんな事ねえよ! で、オレのプレゼント当たった人は?
沖田:はい
藤堂:ほら見ろ! ナイスパス!!
沖田:うん、まあ、確かに僕はお菓子が好きだけどね
藤堂:だろ?
沖田:でも、これはなんの嫌がらせかな?
藤堂:……嫌がらせ?
沖田:これ、全部空なんだけど
藤堂:空ぁあああ!?
沖田:平助の言う無難な物ってゴミなんだね。いやぁ、初めて知ったよー
藤堂:ち、違う! オレはちゃんと中の入ってるやつを、
永倉:あー、俺はそろそろ、
藤堂:まさか! 新八っつぁん!?
永倉:あ、い、いや、まさかあれがプレゼントとは思わなくて、だな
藤堂:ふざけんなよ! 人のプレゼント食っちまったのかよ!!
永倉:美味かったぜ☆
藤堂:『美味かった』じゃねえよ!!
:どうどう、平助。新八さんに何言っても無駄だから
藤堂:く、くそぉ……
:ところで、平助は何が入ってたの?
藤堂:え、オレは手袋
千鶴:あ、それ私が作ったの
藤堂:え!? 千鶴の!?
千鶴:うん。ちょっと大きめに作ってみたんだけど……どうかな? 大きすぎたりしない?
藤堂:そ、そんな事ねえよ! ぴったしだよ! すげえ暖かいし!!
千鶴:良かった
藤堂:そ……そっか……これ千鶴の手作り……
沖田:ヨカッタネ
藤堂:っ!?
沖田:チヅルチャンノテアミノテブクロガアタッテ、ヨカッタネ
藤堂:そ、総司……な、なんかロボットみてえだぞ。つ、つか、目が怖えんだけど……
沖田:ソウカナ?
:(ありゃあ後で殺されるな、平助)
土方:…………



 家の中からは賑やかな声が聞こえている。みんなの楽しそうな笑い声だ。
 それを聞きながら一人、ベランダに佇む土方は紫煙を吐き出しながら目を細めた。
 遠くまで見える町の灯りが今日は一段と輝いて見えるのは、クリスマスだからだろうか? こんなイベント面倒なだけだと思っていたのだけど、思ったより、悪くない。面倒なのは勘弁願いたいが、皆が楽しそうなのはおおいに結構な事だ。
 とは言いつつ、出来ればクリスマスという特別な夜は特別な人とふたりきりで過ごしたかったという本音もある。二人でいられる事の方が少ないのだからこんな時くらい二人で甘い時間を過ごしたい。いつも彼女を独り占めできない分、めいっぱい甘やかして甘えてやろうなんて思ったのだ。だから、あんな物まで用意したのに。
「土方さん」
 そんな事を一人考えていると、背後から小さく呼ばれた。振り返ればひょこっと顔を出してこちらを見ているのは彼女――である。
 そっちに行っても良いですか? と目で訊ねるようで、土方は苦笑で手招きをした。招きながら右手の煙草はもみ消す。ちょっとたばこ臭いかもしれないが、そこは許して欲しい。
「一人で何してたんですか?」
「ちょっと考え事だ」
「考え事……って、もしかして発句集をどこに隠すとか」
「言うな。忘れろ」
 渋い顔で言う彼を見て、はくすくすと楽しそうに笑う。
 今日は色々と酷い目にあったが、彼女が楽しそうに笑うのならばそれでも良いかと思えるのだから恋というのは厄介だ。彼女さえ幸せならばなんだって良いと思えるのだから。
「おまえこそ、出てきちまっていいのか?」
 中、まだ盛り上がってるぞと言うとは一度振り返るが、すぐに頭を振る。
「私がいなくても大丈夫でしょ」
 中は――という含みのある言葉がちょっと引っ掛かる。
 別に土方とて彼女がいなくてはいけないということは……寄せた眉間の皺はすぐに解け、苦笑に変わった。
「俺も、おまえと一緒にいたいと考えてたところだ」
 皮肉屋な彼らしくない、ストレートな言葉。
 は一瞬驚き目を丸くしてしまい、言葉の意味に気付くとその間抜け顔を赤く染め上げた。
「そ、うですか……」
 こんな事くらいでいちいち照れてくれる可愛い恋人に、つい、男の目尻も情けなく下がる。ふたりきりならば即座にベッドに連れ込んだ事だろう。何とも惜しい事をした。
「あ、そうだ」
 赤くなった顔を俯けた彼女は何か思いだしたようで、声を上げるとぱっと顔を上げる。
 どうしたのかと目だけで訊ねれば、は僅かに赤みの残る目元を甘く綻ばせた。
 先程可愛いと思ったそれを、今度は色っぽいそれへと変えたのだ。
「これ、ありがとうございます」
 掲げた彼女の手首には銀色の輝き。
 きらきらと輝くそれには、小さなダイヤが三つ程はめ込まれている。
 それは先程、プレゼント交換でが貰った物だった。送り主は……聞かなくても分かった。
「おまえに渡ってほっとしてるよ」
 土方は苦い顔で、笑った。
 いつの間にか強制参加になっていたらしいが、土方はそれ以外を用意していない。半ば強奪するようにプレゼントを奪われ、ぐるぐると色んな人間の手に渡るそれを見てひやひやとしたものである。
 それが渡したい相手に渡って本当に運が良かった。心の底から思う。
「もし他の連中の所に渡ってたら、殴り飛ばしてふんだくるつもりだったんだが」
「クリスマスパーティで乱闘騒ぎなんて勘弁ですよ」
「まあ、流血沙汰にならなくて済んだな」
 茶化す彼に釣られても笑った。
 笑ってから、その、と戸惑いがちに訊ねてくる。
「もらって、いいんですか?」
 ちゃっかりつけておいて今更だけど、は問わずにはいられない。
 アクセサリーにあまり詳しくはないけれど、美しい澄んだ輝きはプラチナのそれだと分かる。きらきら輝くダイヤだって、キュービックじゃなくて本物だって。ただでさえ貰ってばかりだというのに、こんな高価なアクセサリーなんて貰っても良いのだろうか。は申し訳なくて仕方がない。自分がクリスマスに用意したのは彼が愛用しているブランドのマフラーだけだ。本当は時計にしたかったのだけど、値段を見た瞬間に撃沈してしまった。一年間バイトして貯めれるか、くらいの額だ。学生って辛い。
「悪かったら贈ったりしねえよ」
 申し訳ないあまりに落ち込んでしまう彼女の頭に、ぽんと手を置いた。それからくしゃくしゃと優しく撫で回してやれば、落ちた視線が上がった。いつもそうだが彼女は頭を撫でてやるといつも甘えたような表情を浮かべる。両親を子供の頃に亡くしているから余計になのだろうが、その甘えた表情が男心をぐっと擽って……いや、煽り立てるものだから堪らない。うぐと喉の奥から溢れそうになる欲求をもう片方の手で拳を作って耐える。誤魔化すように浮かべた苦笑は、多少歪な物となった。
「じゃあ、遠慮無く、戴きます」
「……そうしろ」
 もう一度だけくしゃと髪を撫でて、離した。これ以上触れていると、いけない気分になりそうだ。
 その時、わ…と中から賑やかな声が聞こえてきた。甘さとはまるでかけ離れた声。ちらりと見ればカーテンの隙間から見える影が妙な踊りを披露している。あれは永倉と原田だ。
「ったく、あれじゃあ朝まで片付きそうにねえな」
 やれやれと溜息を吐き、煙草をもう一本取り出そうとして、止めた。ここには彼女がいたのだった。
「おまえも、適当な所で休めよ」
 確か寝室をと千鶴の為に空けてあったはずだ、と土方は思い出す。
 因みにここは土方のマンションではなく、原田のマンションだ。大勢が集まると言う事でより広い彼のマンションで、泊まりがけでクリスマスパーティなんぞをやる羽目になったのである。
 正直他の男のベッドで彼女が寝るなんぞ許し難いのだが、だからといって夜通し起きていろと言うのは酷な事だ。疲れたならば休んだ方が良い。
 と、そう言えば、は何故か背後を一度ちらりと見て、誰もいないのを確認するとあのねと小声で話しかけてきた。
 どうやら人に聞かれるとまずい話らしい。なんだと屈めて耳を近付ければ、それを助けるようにが爪先立ちになって、冷たい手が耳にちょいと触れる。冷たさに一瞬どきりとした。だけどそれ以上にどきりとしたのは彼女が囁きかけた言葉。

「二人で、抜けちゃいませんか?」

 いつもなら、そういう悪い台詞を吐くのは男の方。
 彼女はいつだって年上の彼に振り回されてばかりだけど、今日は、いつもの逆。
 男を誑かす悪い台詞を吐く癖に、そんな無邪気な顔で見上げて、男を惑わせるのだ。

「悪いヤツだな」
「悪い子は嫌いですか?」
「いいや。好物だ」
 にやりと笑う男の目が、ぎらりと獰猛な色を湛えた。
 もしかしたら選択を間違えたかな、と一瞬背中をひやりとしたものが走ったけれど……別に間違えても構わない。彼と堕ちていくのならばどうなったって。
 行くぞと取られた手に引きずられるように歩き出す。
 賑やかな室内に戻ると「先に帰る」とだけ告げて、囃し立てたり不満の声を上げたり、好き放題言う彼らを無視して外に飛び出した。
 後で根ほり葉ほり聞かれるのは面倒だけど、今はそんな事どうだって良い。ただ早く、愛しい人ともっとくっつきたい。それだけがの胸を占めていた。誰にも邪魔されない所で、ただ彼の事だけを感じていたい。

「何処へ行く?」
「土方さんの部屋」
「誰にそんな誘い文句教わったんだ?」
「土方さんに、」
「そんな質の悪い文句、教えたつもりはねえぞ」
「でも、土方さんに」
 もう黙れと唇を塞がれて、掻き回されて。
 甘く深いキスに思考までが溶かされて助手席でぐったりしていると車が急発進する。
 向かう先は、リクエスト通りに彼の部屋。
 きっと今夜はいつもよりも濃密な夜になる事だろう。耐えられるだろうかと少しだけ不安になるけれど、その為に下着だって新調したのだから、これで抱いてもらえないと折角の勝負下着が可哀想だ。

「今年は優しいサンタになるつもりだったんだがなぁ」
「私は優しいサンタよりも、男の人である土方さんが良いです」
「……おまえ、もう黙れ」



サンタが町に




 クリスマス話。みんなでプレゼント交換が
 したかった。
 きっとみんなおかしなものを持ち寄って、
 大変な事になるんですよ( ´艸`)
 まともなの数名だから。
 とにもかくにも、メリークリスマス!!

 2012.12.24