「おやまぁ、斎藤さん‥‥よくおいでくださいました。」
豪奢な着物に身を包んだその女は、斎藤の姿を見て妖艶な笑みを湛える。
「暫くいらしてくださらなかったから‥‥私、愛想を尽かされたのかと思いましたよ。」
拗ねたような顔で、でもどこかからかい交じりの言葉に、男ならば悪い気はしないだろう。
相手が絶世の美女ならば尚更、だ。
しかし、斎藤は何を馬鹿な、と内心で呟き、代わりに顔を顰めて女の前に腰を下ろした。
あたりに人の気配はない。
それをしかと確認すると、
「、茶化すな。」
彼の人をそう呼ぶ。
『』
と呼ばれた花魁は、にこりと鮮やかに笑った。
そしてすぐに、その表情をいつもの厳しいものへと変える。
「薩摩藩の残党が島原に入り浸ってる。」
その表情は、新選組副長助勤の顔であった。
「人数は5人。どいつも腕に覚えのある奴らばかりだ。」
島原に潜入して知り得た情報を静かに報告する。
そうか、と斎藤が頷いた瞬間、
あ、
とか細く、艶めいた声がどこかから聞こえてきた。
それが女の情事の声だというのは二人とも分かっている。
ここは色町で‥‥男と女が出会う場所だ。
花魁は身体を売らないが、それでも好きな相手には別、である。
「‥‥」
眉根を寄せる斎藤に、はひょいと肩を竦めてみせる。
「声のお陰で聞き耳を立てられる事はなさそうだな。」
「‥‥」
おどけてみせる彼女をじろっと睨み付けた。
そんな顔をするなよとは笑い、言葉を続ける。
「明日、奴らの中心‥‥奥山って男が来る事になってる。」
「‥‥」
「一人で来るって言ってたから、山崎君か一か、どっちか潜入しておいてくれない?」
「分かった。」
「ああ、あと、土方さんに四条の方でも怪しい動きがあるらしいからそっちにも目を光らせて置いてって‥‥」
「心得た。」
斎藤は頷く。
これで一通り報告は終わったかな、とは一度言葉を切り、
「あ、あと‥‥」
何かを思いだして口を開いた時、まるでそれを遮るみたいに一際高い女の嬌声が上がった。
女が頂を極めた音だった。
「‥‥‥」
そして、音が消える。
それが余計に生々しくて、沈黙が痛かった。
常に冷静沈着である斎藤であるが、さすがに居たたまれないようである。
肩が僅かに上がって、強ばっていた。
表情だけは取り繕っているのがおかしい。
「なあ、一。」
呼びかけについ、
「なんだ?」
固い声が漏れる。
きっと、はその微細な変化にも気付いているだろう。
だがそれに関しては何も言わず、
じっと、男を見つめて、
「折角こういう所に来たんだし――シてく?」
男らしい人
きっと一の方が照れて出て行くに決まってる。
どうやらうちの子は恥じらいが掛けているよ
うだ←今更
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