『も、だめ』
だめ、と甘ったるい声を少女は上げた。
だめ、お願い許してと、彼女は涙を浮かべて懇願した。
その表情は想像したよりも甘く、艶めかしく‥‥美しくて。
『イ‥‥くっ』
絶頂へと到達する瞬間の、強い締め付けと蕩けた女の表情を目に焼き付けたまま、視界が真っ白になった。
『男の人っていうのは、性欲の固まりみたいなものでね。
青年男性は1週間に一度は性欲の処理をしないと駄目なんだよ。
つまり、自慰、ね。
人によっては3日に一度って人もいるくらいなんだけど。
まあ、大体はアダルトビデオとか本とかを見ながら興奮した状態で抜くらしいけどさ‥‥
あの人はやっぱりの事を想像してやってるのかな?』
にこやかに笑ってそう一気にまくし立てた悪友の顔を思い出しながら、
「って総司が言ってたんですけど、本当なんですか?」
は自身が疑問に思った事を口にしてみた。
その瞬間、問いかけられた男の顔と言ったら‥‥
不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、顔を思いっきり顰め、だけど何故か決まり悪そうに視線は泳いで、口元が引きつっている。
なんとも不思議な顔だった。
『これは何の嫌がらせだ?』
と土方は思う。
この世に生まれて28年と経つが、まさか彼女に『自慰』について聞かれるとは思わなかった。
しかも、
あんな夢を見たその日に、だ。
『あいつはもしかして俺の頭ん中でも見えてるのか?』
それとも何か、彼の自宅には隠しカメラでも設置されているのだろうか。
そうとしか思えないほどのタイミングでの嫌がらせだった。
まさに、あの男は土方弄りの天才、である。
「土方さん?」
はぁ、と深いふかーい溜息を零す彼に気付き、は首を捻る。
呼びかけられ、なんだよと不機嫌そうに答えると彼女はどうなんですか?ともう一度言ってきた。
「なにが?」
「だから、土方さんも一人で抜いてたりするんですか?」
抜くとか言うな――
恥じらいの欠片もない彼女の言葉に思わず心の中で突っ込んでしまう。
いや、そこは本来女性としては聞きたくないところだろうに。
自慰行為‥‥というのは、正直な話、恥ずかしくも情けない事だ。
それは性欲を持てあまし一人で処理をしなければいけないということなのだ。
考えてみて欲しい。
部屋でそんな事をしている彼氏の姿を。
もう情けないったらありゃしないじゃないか。
おまけに空しい。
「‥‥」
その虚しさを今朝方感じたばかりの土方は憮然とした面もちで知るかと答え、そっぽを向いてしまう。
「知るか、じゃないですよ。
教えてくださいよー」
そうするとはずいと身を乗り出して、追求を繰り返す。
土方は顔を顰め、
「なんでンな事聞きたがるんだよ。」
そんなの他の男子にでも聞けと言うが、
「私は土方さんの実態が知りたいんです。」
至極真面目な顔で言い切られてしまった。
言葉だけを聞くと、自分の事を理解したいなんて可愛い彼女じゃないかと思うが、
その目はどこか楽しげににやにやと細められており、
「‥‥好奇心で聞くんじゃねえよ。」
土方は思いっきり不機嫌そうに唸り、今度は逃げるように立ち上がった。
「あ、ちょっと待ってくださいよ。」
しつこくは追いかけてくる。
「いいじゃないですか。
知的好奇心ですよ?ここは育ててあげるべきでしょう?」
「そんな知的好奇心があるか。」
「性について知るのも必要な事です。」
ね、とは土方の腕に抱きつく。
その瞬間、
柔らかい胸が彼の腕に押しつけられ、
「‥‥」
今朝の夢がフラッシュバックする。
彼を、
空しくも一人自慰行為に更けさせた夢が。
「‥‥ね、土方さん。」
教えて?とこちらを無邪気に見上げる少女は、きっとこちらの気持ちなど微塵も分かってない。
彼が、と付き合いだして2ヶ月の間。
女関係を全てクリアにし、セックスレスになっていたという事実を。
そして、
成年男子の‥‥性欲についてを。
「‥‥言ったらどうする?」
土方はやけくそ気味に彼女を見下ろし、ぼそっと呟いた。
その瞬間、こちらを見る目に自分が知らない男の欲がじわりと浮かんで、
「おまえのことを、想像で滅茶苦茶にして―― 一人で抜いてるって言ったら‥‥どうする?」
彼女の肌を、
彼女の感触を、
表情を、
声を、
想像して、
一人で興奮して、性欲の処理をしていると知ったら、どうする?
告げられたその事実に、彼女はあんぐりと口を開いた。
そして、
「あ‥‥」
ええとと躊躇いがちにその腕が離された。
――だから嫌だったんだ。
そんな彼女の様子に、土方は内心で毒づき、肩を落として背を向けるのだった。
男の事情
土方さんが一人悶々としてるのとか‥‥
めっちゃ想像すると楽しい(ドS)
|