「みんな気になってしょうがないんだよね。だって仕方ないでしょ? がそんな恰好してるんだから。これって
  のせいだよね?だからさ、。何も言わずにその腰一回抱かせてくれない?」

  どんな言い分だと返してやりたかったけれど、あまりに悪友が清々しい笑顔で言うものだから。
  清々しい笑顔の裏に有無を言わさぬ強さを感じたから。


  「……おまえ、あいつに触らせたのか?」
  まさか、と目を見開く土方にはこくりと頷いてみせる。
  正気か? と言いたげな顔で見られた。
  「だって、総司がすごい気迫で言うから」
  仕方ないじゃないか、とは反論を口にした。
  自分でもおかしいのは分かっているけれど、命の危機を感じたのだ。断れば、斬られる……そう思うほど、沖田の気迫は
  凄まじかった。
  「……総司の奴、触っただけか?」
  あの馬鹿と頭を抱えて呟いたかと思うと、土方がはっと顔を上げて訊ねてくる。
  はこくりと頷いた。
  「うん、触っただけ……というか、こう手を回しただけ?」
  「……」
  「みんな、一体何がしたかったんですかね?」
  の独り言にさぁな、と返し掛けてひたと止まる。
  「みんな?」
  今彼女はそう言っただろうか?
  確認すると彼女はこくりと頷いて、
  「左之さんも、平助も……最終的には一も、総司と同じように手を回してきましたよ」
  には一体何が楽しいのか分からない。
  何故人の腰になど手を回したいのかさっぱり分からないが、とにかくすごい剣幕で触らせろと言われて、若干気圧される
  ままに頷いてしまった。勿論変な事をしたら只じゃ済まないといつでも久遠に手を伸ばせるようにはしておいたが、不埒
  な真似をする輩はいなかった。
  「もしかしたら、みんな女の子を抱きしめたかったんですかね?」
  それならば自分よりも千鶴の方が良かったのではないだろうか? ああでも、あんな剣幕で詰め寄られたら彼女は怯えて
  しまうだろう。それはいけない。
  なんて他人事のようにしれっと言う彼女に土方はしばし呆気に取られたような間抜けな顔になり、そうして、
  「ばっ――」
  怒声がその口から溢れたが最後まで音にならずに消滅していく。
  がくりと目眩でも起こしたみたいによろめく彼には慌てて駆け寄った。
  「だ、大丈夫ですか!?」
  「ああ、平気だ……」
  なんでもない、と手で制しながら土方は鈍痛がする頭を抱える。
  沖田ならやりかねないとは思ったが、まさか本当に実行に移すなんて……しかも、他の幹部まで。
  「どうしようもねえ馬鹿共だな」
  はぁ、と心底疲れたような溜息を零しながら土方は吐き捨てた。
  彼らの気持ちは分からなくもない。分からなくもないが、だからといって実行に移していいわけがなかろう。何を浮つい
  ているのか、今は戦のまっただ中だというのに。
  「っつか、おまえも、気軽に触らせてんじゃねえよ」
  とりあえず彼らは後で説教と拳骨を見舞ってやるとして、問題はこの女だ。
  些か危機感が無さ過ぎるだろうと窘めれば彼女は目を丸くして、すぐにだってと唇を尖らせる。
  「それくらい安いものだし」
  「自分を安売りしてんじゃねえよ」
  「すごい剣幕だったし……私拒んでたら総司に殺されましたよ?」
  「だったら、俺を呼べば良かっただろうが」
  「こんな事の為に?」
  「……おまえ、その程度で済んで儲け物だったんだぞ。下手すりゃ……」
  言いかけて、止める。
  どうせ、言っても無駄だ。
  「とにかく、二度とさせんな」
  一方的に会話を終わらせ、土方はくるりと背を向けた。
  色んな意味でむかむかするが、とりあえず今は遊んでいる場合ではない。やることが山積みだ。とりあえず一番にやるの
  は馬鹿共への説教だが。
  「土方さんは……良いんですか?」
  そんな事を考えていると、背中に控えめな声が掛けられる。
  何が良いのかと振り返ればいつもとは違う装いの彼女は小さな三歩で男の前に近付いてきて、

  「土方さんは、触らなくて良いの?」

  などと言うから一瞬意味が分からない。
  何に触らなくて良いのか……と訊ね掛け、すぐに前後の会話を思い出して彼の表情が険しくなる。
  まだ分かっていないのか。溜息を禁じ得ない。
  「だから、気安く触らせんなって言ってんだろうが」
  がしがしと頭を掻きつつ窘めると、からきっぱりと否定の言葉が返ってきた。
  「気安くじゃありません」
  「なんだと?」
  「土方さんだから、触っても良いって言ってるの」
  ひどく真っ直ぐな言葉に土方はまた呆気に取られたような顔になってから、顰め面で器用に笑った。
  「そういうの、口説き文句って言うんだぜ」
  「百戦錬磨の鬼副長を口説き落とせるなんて光栄です」
  揶揄に返ってくる軽口に馬鹿と吐き捨て……そう言われて喜ぶ自分の方がずっと馬鹿だと笑って頭を振り、
  静かに手を広げる。

  「来いよ」
  「はい」

  なんで上から目線なんだと指摘したかったけれど、彼の目があまりに優しいので素直に広げた手の中に一歩で飛び込んだ。
  優しく包み込むように彼の手は背へと回され、一度、抱きしめられた。
  胸に抱き込む彼女の感触はいつもよりも……柔らかい。当然だ。着物越しに触れるのはサラシで押さえつけられていない
  彼女本来の柔らかさなのだから。
  「他の連中も、こうやって抱きしめやがったのか?」
  「ううん、腰に手を回されただけ」
  「……じゃあ、俺だけか」
  「え? なにが?」
  問い掛けになんでもないと誤魔化して、その手を腰へと滑らせる。
  柔らかく滑らかな手触りに思わずほうと声を漏らすと同時に、の口から小さく笑い声が漏れた。
  「くすぐったい」
  「少し我慢しろ」
  「はぁい」
  「……細えな」
  「そう?」
  「ああ、折れちまいそうだ」
  「折らないでくださいね」
  「馬―鹿。だから優しく触ってやってんだろ」
  「それ、言い方がやらしい」
  からかうような声が胸を擽る。
  もうそろそろ離さなければ理性の方がやばいと手を離せば、逆に背に手を回されて抱きつかれて土方は困惑した。
  「馬鹿、あまり煽ってくれんな。他の連中を後でぶん殴るって言っちまった手前、俺だけ羽目を外すわけにゃいかねえだろ」
  「それは怒らなければ良いのではなくて?」
  「……おまえ、あの連中の回し者か? 怒られねえで済むようにって、俺を籠絡させてこいとでも言われたのか?」
  苦笑で訊ねればこちらをちらりと見上げる瞳に拗ねたような色が浮かんだ。
  「みんなを怒ってる時間があったら私に構ってくださいよ」


  「おまえ、俺をどうしたいんだよ……」
  「そんなの……わかんないです」
  「分かんない、じゃねえよ。責任取れ、責任」
  「なんで私が責任とらないといけないんですか……って、駄目。やらしい事はしちゃ駄目です」
  「……じゃあ一体俺をどうしてえんだよ」
  「………分かんないんですってば」


  おさわり


  ずっと抱き合ったままでお互い悶々
  としていると良い。
  最終的に何も出来ずに邪魔されて、
  終了☆