八番組組長 藤堂平助。

  元気なお子さま。
  ‥‥あ、なんかすごい抗議の声が聞こえた。
  平助は、とにかく元気で真っ直ぐっていう男。
  ちょっと子供っぽくて、そこを突くとめちゃくちゃ怒るんだよね‥‥だから子供って言うんだよ。

  平助は‥‥私にとって弟みたいな存在だ。
  御しやすい、と言ったら彼は怒るだろうか。
  でも、私にとっては一番どうにか出来る相手だと思う。

  「駄目だ駄目だ、絶対駄目!」
  「駄目な理由は?」
  「そんなの危ないからに決まってんじゃねえか!おまえ女だろ!」
  「女だけど平助より強いよ?」
  「うっ!!」
  「それに危ないことはみんなしてる。私だけしないっていうのはおかしいんじゃない?」
  「うっ!?」

  平助は私の指摘にうっと言葉に詰まる。
  別にこれは平助の頭が悪いんじゃない。
  私の口が多少達者で、可愛げないだけだ。

  「で、でも駄目だ!」

  平助はこればかりは譲れないと頭を振る。
  犬のしっぽみたいなそれがひゅんっと揺れるのを私はなんだか面白いなぁと思いながら見ていた。

  「土方さんの命令なんだからな!」
  「土方さんの命令‥‥よく、平助は破ってるよね?」

  左之さんも新八さんも、だけど。

  「そ、それは!!」
  「自分はやりたい放題なのに、私にだけ厳しいってちょっと狡くない?」
  「ず、ずるくねえよ!
  オレはおまえの事を思って!!」
  「それはありがと。
  でも、私の事を思ってるなら私のやりたいようにさせてほしい。」

  きっぱりと言い放つと平助は思いっきり顔を顰めて、言葉に詰まってしまった。
  その口からはうぐぐという呻り声しかでない。
  言い返す事はできないのに、それでも陥落しないのは見事だと誉めてあげたい。
  誉めてあげたいけど、さて、どうしよう。

  このまま黙り込んで‥‥っていうのも正直飽きるし、力ずく‥‥でもぎ取ったら今度こそ土方さんに殺されるかもしれな
  いし‥‥

  お色気戦法?

  いや、平助にはそんな事しなくても勝てるし。

  だって平助だもん

  「‥‥今、オレのこと馬鹿にしただろ。」
  「へ?」
  平助がそっぽ向いたままぽつりと呟いた。
  なに?と聞くとそいつは視線だけをちろっとこちらに向けて、
  「オレの事‥‥どうせすぐに落とす事が出来るとか、馬鹿にしただろ。」
  と不満げに言うのだ。
  おや平助のくせして、勘がいい。

  「ソンナコトナイヨ?」
  「‥‥なんで片言なんだよ!!しかも棒読みじゃねえか!!」
  「いやいや、平助が簡単に落ちるなんてそんなこと‥‥ものすごく思ってるけど、そんなの口が裂けても言えるわけない
  じゃない。」
  「言ってんだろ!思いっきり!!」

  平助は怒鳴り散らして、ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしった。

  「どうせ、オレはおまえに口でも剣でも勝てない情けない男だよ!」
  「いや、そこまで言ってないし。」
  「簡単に言いくるめられると思ってんだろ!」
  「案外簡単じゃないなと今痛感したところかな?
  「っ!お、オレだって、そんな簡単じゃねえんだからな!!
  今日ばっかりはそう簡単に引いてやらねえからな!」
  「じゃあどうしたら負けてくれんのー?」
  「そんなのあれだよ!!他の人に使ったみたいなっ!」
  「他の人に使ったみたいな?」

  呆れたように言うと平助は察しが悪い私に焦れたのか、だから、と怒鳴り散らした。

  「お色気戦法だよ!!」

  次の瞬間、ひゅうっと冷たい空気が私たちの間を吹き抜けたような気がした。

  私は目をに、平助はしまったという顔を真っ赤にしている。

  今、
  平助の口からなんと出た?

  ‥‥お色気戦法?

  なんで知ってるの‥‥っていうのは他の人に聞いたんだろうけど、今の話の流れだとさ。
  その意味って、

  ‥‥つまり、

  「‥‥‥平助。」

  静かな声に平助はびくっと肩を震わせ、上擦った声で「なんだよ」と返した。

  私は真剣な顔で‥‥問いかけた。

  「‥‥見たいの?」

  私のお色気戦法。

  問うと、彼は「なっ」と声を上げ、顔を更に赤く‥‥まるで茹でた蛸みたいに真っ赤にして、
  「違う違うオレは!!」
  ぶんぶんと頭を振って否定を表すので、じゃあ、と私は首を傾げてみせる。

  「見たくないの?」

  そう問えば、平助はひくっと喉を震わせて否定の言葉を飲み込み、

  やがて、真っ赤な顔のまま、こう、答えた。

  「‥‥みたい。」


  
お色気大作戦



  平助も男の子だったって事です。