三番組組長 斎藤一。

  彼はとにかく、真面目で融通の利かない男、だ。
  一度こうだと決めたら、こちらが何を言ったって聞き入れてくれない。

  甘えても、嘘泣きしても、怒っても、

  「断る。」

  駄目。

  先ほどと顔色一つ変えずに、却下と切り捨てる彼に、私はむっとして頬を膨らませた。

  「私がやればすぐに解決するのに、なんで駄目なのさ!」
  「それでは他の隊士が育たん。」
  「じゃ、じゃあ、その隊士がちゃんと出来るか一緒についていくくらい。」
  「そう言って自分がカタをつけるつもりだろう?」
  「違うよ!」
  「とにかく、駄目なものは駄目だ。」
  「ケチ!!」

  子供みたいな罵声にも、一は何とでも言えと言わんばかりだ。

  この‥‥

  そんなにムキになる事でもないのに、少しも譲ってくれないどころか、検討さえしてくれない彼の態度に腹が立って、私
  はなんとかしてこの男をうち負かしてやりたくなった。

  力ずく‥‥は無理。
  勿論泣きも通用しなければ、甘えも通用しない。
  揚げ足を取ろうにも、その取るものが全く見つからないし、言葉を並べ立てたとしても彼に切り捨てられるのは目に見え
  ている。

  あと、残る武器は一つ。

  「こうなったら奥の手。」
  「‥‥‥」

  奥の手、という言葉に一の瞳がきらっと輝く。
  武人としての条件反射だろう。
  真っ直ぐに私を見据えて、私の取る行動をしっかりと捉えようとする。
  それは好都合だった。

  「必殺!!」

  ばっと両手を素早く動かせば、一が腰を落として構えの姿勢を取る。
  私は構わずにその手を動かした。

  一気に、
  ぐいと、

  「っ!?」

  袷を開く。

  そうすると、ふわりと隠していた胸元が露わになった。
  ついでにサラシもちょっとずらしてやれば、膨らみが彼の目の前に晒されることになる。

  一は驚きに目を見開いた。

  「必殺‥‥お色気戦法!」

  「‥‥‥‥」

  「‥‥お色気戦法‥‥」

  「‥‥‥‥‥」

  「なーんちゃって‥‥」

  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

  「‥‥‥‥‥‥」

  一は無言で私を見ている。


  
お色気戦法大失敗。


  ものすごーく寒い空気に私はあのそのえーとと困ったように呟きながら、いそいそとこれまた情けなさ全開で袷を正した。

  「うん、ごめんなさい。」

  もうひたすら謝るしかなかった。
  なんていうか、私ごときがお色気戦法なんて使えるわけがなかったんだな。
  胸さえ見せればイチコロ‥‥なんて考えが甘かった!
  そうか、君菊さんほどの色気がなければ男を落とす事は出来ないんだな!
  よし、勉強になった。
  すごく勉強になった。
  それと同時に酷く心が痛いよ、お母さん‥‥


  「‥‥‥‥‥」
  「‥‥‥‥‥あ、あのさ、一。」

  一はまだ何も言ってくれない。
  その悪かったからさ、もうこんなふざけた事しないからさ、だからさ、

  「笑い飛ばしてくれるとありがたいんだけど‥‥」

  と私は一の顔を覗き込んで、その時、漸く、分かった。

  「‥‥‥‥‥‥‥‥はじめくん?」

  そいつは、
  立ったまま意識を失っていた事に。




  うわあああん!ごめん!ごめんよ!一!!
  おまえにはちょっとばかしきつい冗談だったよな!
  私が悪かった!
  だから、お願いだから戻ってきて!!


  
お色気大作戦



  一君はブチ切れるまではピュア。