新選組副長 土方歳三。
一ほどではないものの、彼もなかなかの頑固者。
頑固で意地っ張りで、我が儘で、妙な所が優しい変な人。
とかく、私の事に関してはお節介が過ぎるというほどの心配性。
この人に関しても泣きも、甘えも、おだても通用しない。
「駄目に決まってんだろ!」
何考えてんだと今にも拳骨が飛んできそうなくらいお怒りの様子。
下手に食らい付くとそれに加えて説教も上乗せされそうだけど、私は退けなかった。
「いいじゃないですか!ちょっと、ちょっとだけだから。」
無茶はしないと約束するけれど、
「駄目だ。」
おまえの言うことは信用ならねえとばかりにあっさり却下。
くそ、部下が石頭なら上司も相当の石頭か‥‥あいや、私も彼の部下だけど、違う!
「ねーねー、土方さーん。」
「くどい。」
「もーちょっとだけ聞いてよー」
「聞こえねえ。」
すっぱりと切り捨てられて私はぶーぶーと頬を膨らませる。
なんか文句があるのかと鬼の副長に相応しい一瞥‥‥まあ怖い。
「‥‥‥‥どうしても、駄目?」
「駄目だ。」
女の子らしく首を傾げてみた――自分でやってて気持ち悪い――そしたら、土方さんは眉間に皺を寄せた。
すいませんね、どうせ似合いませんよ。
斯くなる上は‥‥
「必殺!」
必殺という響きに土方さんの眉間に更に皺。
今度は何しでかすんだ、こいつはとやや呆れ気味の顔だ。
ふん、驚くといい!
あれから私は、色町で花魁さんを見て研究したんだからな!
女でありながら女の色気ってのを勉強するのもちょっと悲しいものだけど、そんなの関係ない!!
「必殺!」
「‥‥」
「お色気戦法!!」
ぐいっと私は袷をめいっぱい開いた。
前回よりもちょっと大胆にサラシを下ろして見せつける。
ついでに流し目で見るのも忘れない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
土方さんの手からぽろっと筆が落ちた。
ものすごく無防備な表情に、あ、ちょっと可愛いかもなんて場違いな事を考えながらも私が勝ちを確信した次の瞬間。
「ばっかやろうが!!」
雷が落ちた。
「てめえはなんだってそう慎みってもんがねえんだよ!
おまえだって女だろ!恥じらいとかそういうのはねえのか!
ああ、良い!何も言うな、てめえにそんなものを求めるのは間違ってるな。
いいか、同じ事は二度とするなよ!
こんなふざけた事を今度やったらただじゃおかねえからな!」
一気にまくしたてるその声を聞きながら、私はあの‥‥と弱々しく声を上げる。
なんだ?
と不機嫌ここに極まれりと言った土方さんの声が返ってきた。
「‥‥その、自分がとんでもなくふざけたことをしたっていうのは分かってます。」
ええそりゃもう、海よりも深く反省しております。
二度と‥‥しない‥‥と、思います。
「‥‥ならいい。」
ふんっと鼻息荒く言う彼に、私は良くないと頭を振った。
「拳骨とお説教‥‥はよーく分かるんですけど。」
その、と私は困ったように視線を彷徨わせる。
「‥‥‥‥‥‥なんで、私‥‥押し倒されてるの?」
なんで、
畳の上に寝転がって、
その上に土方さんは乗っかってるんでしょう?
そう訊ねれば彼はすいと紫紺の瞳を細めた。
壮絶な色気を湛えた眼差しで私を見て――それは犯罪だからそんな目で見るなと心の中で呟く私に、そりゃ、と彼は至極
当然と言わんばかりに口を開いた。
「てめえがあんなものを見せるから収まりがつかなくなったんだよ。」
「収まりってなんの!」
「まあ、おまえのせいだから‥‥きっちし責任取ってもらわねえといけねえよな?」
「いや、だからなんの!?」
なんの――って‥‥
色を含んだ。妖しい声が落ちてくる。
ひいと私の口から情けない声が上がったのは、弱い耳元で、囁かれたから。
「お色気戦法は別の方にゃ効果的だったぜ。」
――――なにに?
お色気大作戦
一度で二度オイシイ男。
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