十番組組長 原田左之助。
一言で言えば「素敵な兄貴」
懐が深く、大らか‥‥豪快?‥‥で、面倒見のいい兄貴肌。
ちょっと細かい所に気付かなくて、短気‥‥って短所があっても許せちゃうくらい、彼は大人でいい男だと思う。
どっかから抗議の声が聞こえてきそうなくらい私は左之さんの事を良い人だと思っている――よって抗議の声は聞こえ
ない(無視)
そんな左之さんは私に対してもやっぱり優しくて、
だけど、やっぱり‥‥過保護で。
「そいつはちっとばかし‥‥無理だな。」
左之さんは困ったように片眉を寄せて苦笑を浮かべた。
「悪いが、見逃してやれねえ。」
すまねえな、と謝られて私は逆にこっちが悪者になった気分になる。
これが作戦の内かと思うとなんてあざといんだと反撃にも出れるけど、残念ながら左之さんは天然。
天然の女たらし‥‥わあ、女の敵。
「どうしても駄目?」
「‥‥」
左之さんは駄目、と言わずに私の頭をぽんぽんと宥めるみたいに叩く。
言葉で言われるよりもずっと申し訳ない気分が伝わってきて、私は言葉に詰まった。
こんだけ優しい彼を、困らせたいとは思わない。
でも、私にも譲れない所があるわけで‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥」
そっと視線を落とした。
ちろと、自分の胸元を見る。
必殺お色気戦法‥‥
「‥‥‥無理だ。」
私は情けなく一つ呟いてがっくりと肩を落とした。
「左之さんには、何しても勝てなさそうな気がする。」
溜息交じりの言葉に左之さんはくっと笑いを漏らした。
「なんだ?どうにかして俺に勝つつもりだったのか?」
「ええそうですよ。私の切り札を使って、どうにか許してもらおうと思ったけど‥‥」
「‥‥切り札ってのは‥‥あれか?」
左之さんはひょいと首を傾げて訊ねる。
「お色気‥‥戦法。」
「それ。」
「俺は話をちっと囓っただけなんだが‥‥実際何をしたんだ?」
「なにって‥‥こう、胸をちょっと見せて‥‥」
「‥‥‥」
私の言葉に左之さんはじっと私の胸元を見る。
「や、その、分かってますよ?
私が色気で男の人をどうこうできないって事くらい。」
これまで恥じる事なく見せてきたけど、逆にじっと見つめられると恥ずかしくなるわけで、私は慌てて胸元を両手で隠した。
「女らしさの欠片もないですし‥‥どの面下げて「色気」なんぞ語るんだって言いたいのも分かりますし。」
多分、千鶴ちゃんがやった方が破壊力はある。
‥‥違う意味でも破壊力はありそうだけど‥‥
「って、左之さん!いつまで覗き込んでるんですか!」
一人ちょっと落ち込んだりしてるっていうのに左之さんはそんなこと全く気にしないとばかりに私の胸元を覗き込んでくる。
まさか、総司みたいに見せろとか言うんじゃないだろうなと危惧していると、彼は、
「ああ悪い。」
と気まずそうに頭を掻いて、視線を漸く剥がした。
それでも気になるみたいでちらちらとそこを見てくる。
男の人って本当に‥‥本能に忠実な生き物だなぁと思う。
「左之さん‥‥女の裸なんて見慣れてるでしょ?」
私の言葉に左之さんはものすごく複雑そうな顔をした。
否定しないところを見ると‥‥事実なんだろうな。
「じゃあ、やっぱり通用しないじゃん。」
今さら女の胸なんぞ見たところで彼が舞い上がる事はない。
そう思ったら彼には絶対敵う気がしなかった。
「まあ‥‥おまえが考えてるよりも俺には効果的ではあるんだが‥‥」
左之さんはこほんっと咳払いをしつつそう呟く。
「でも、それを抜きにしても出来ればおまえの言うことを聞いてやりたいとは思う。」
今は駄目だけど、と言う彼に私はどうして?と首を傾げた。
そうすると、その、と彼は口ごもって、そっと視線を逸らしてしまう。
端正な横顔が少しだけ赤く染まって、彼が照れている‥‥ということが分かった。
まさか左之さんが照れる姿を見るなんて思わなかった。
彼は言った。
「惚れた女を、めいっぱい甘やかしてやりたいと思うのが男心ってもんだろ?」
頭の中が一瞬、ぶっ飛んだ。
あれ?私何を言おうと思ったんだっけ?何をしようと思ったんだっけ?
確か彼に何かお願いがあったはずなんだけど、いやもうそんなのどうでもいいや。
「左之さん!」
「おわ!?なんだ!?」
噛みつくように私は彼の胸ぐらを掴んでいた。
そして、もうほとんど衝動のようにこう口走っていた。
「今から全力で甘えるから、思う存分甘やかしてください!!」
その答えは、とんでもなく甘い笑顔と、甘い、口づけだった。
お色気大作戦
左之さんには敵わない。
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