「ちょっと総司邪魔―」
  寝転がって書物を読んでいたの背中に、大きな身体が乗っかっている。
  熱中している時は気付かなかったが、いざ読み終わるとその重みには顔を顰めた。
  「寝転がってるが悪い。」
  半身を遠慮無くその背中に預けた沖田は、いけしゃあしゃあと言ってのける。
  因みにこちらは目を閉じて眠る体勢だ。

  「普通、女の上に乗っかるか?」
  重たいと文句を零せば彼は片目だけを開いて、悪戯っぽく言った。
  「なに?乗っかって欲しいの?」
  その言葉には明らかに別の意味を含んでいて、は「結構」と即答した。
  「なんだつまらない。」
  「つまらなくていい。とにかく、どけ。」
  「いやだ。」
  ぐ、と逆に押されてはぐえと蛙が潰れたような音を上げる。
  背中から胸まで押されて、は息苦しさを覚えた。
  「痛、いたいっ。」
  「大げさだな。」
  「大げさじゃない!胸が潰れる!」
  「ああそれは大変だね。」
  言葉にあっさりと、彼は身を引いた。
  ほっとして身を起こしながら、は彼の今の行動に眉を顰める。
  「何?胸つぶれたらまずいわけ?」
  「まずいでしょ。」
  彼は隣に胡座をかいてこちらを見ている。
  なにがまずいとが首を傾げると、彼はやれやれと言った風に首を振った。
  「胸が潰れたら気持ちよく無いじゃない。」
  「‥‥あっそ。」
  彼の返答にくだらないとは一蹴した。
  くるりと背を向けて、また書物へと目を落とす。
  また乗っかられると面倒なので、今度は座ったままだ。

  「なにその反応。」
  沖田は唇を尖らせた。
  「総司の変な話に付き合うほど、私暇じゃない。」
  つれない言葉に彼はひょいと肩を竦める。
  「仕方ないじゃない。
  男なんだから。」
  「へえ、男ってのは胸がでかいのがいいわけ?」
  「人によりけりだと思うよ。」
  でも僕は‥‥と彼はの背後ににじり寄ると、無防備な脇の下から手を差し込んだ。
  「っ!?」
  突然前に回ってきた男の手は、着物の上から胸に触れた。
  「断然‥‥感触重視。」
  サラシの上からでは柔らかさなど分からない。
  不躾な手はぐいと袷を割ると、サラシを緩めに掛かった。
  「ちょ、こら!?」
  唐突な行動に一瞬、呆気にとられる。
  我に返って、その手を制止させようとした頃には、サラシも半分ほど解けた状態だった。
  「や・め・ろ!」
  「いいじゃん。久しぶりに。」
  半分も解ければ後は強引に下げれば、
  「っうわわ!」
  ふわりと柔らかな乳房がこぼれ落ちる。
  はいっそう慌てた。
  慌てたが、彼を止めることは出来なかった。

  大きな手が、両方の胸を覆った。

  「ひゃっ!?」
  冷たい感触に思わず声が漏れる。
  「ああごめんね。」
  悪びれなく言い、沖田は彼女を強く引き寄せて腕の中に閉じこめる。
  ふわりと香る甘いそれに目をうっとりと細めて、
  「んんっ‥‥」
  大きな乳房を掌全体で円を描くように揉む。
  最初は緩やかに。
  やがて、早く。
  「ん、ぁっ‥‥」
  そうして指に力を入れれば、いとも簡単に胸は形を変えた。
  柔らかさといい滑らかさといい。
  「僕好み。」
  言って耳をかりと歯で噛んだ。

  「お前好みだろうが‥‥そうじゃなかろうがっ‥‥どうでもいいっ‥‥」
  とにかく離せとは息を弾ませて言う。
  しかし沖田の答えは「否」だった。
  先ほど噛んだ耳たぶに舌を這わせながら、
  「もうちょっと触らせてよ。」
  と言って、今度は胸の先端をきゅっと摘んだ。
  「やぁっ!」
  途端漏れるのは甘い嬌声である。
  きゅっきゅと何度か弄っていると、やがて反対側の乳首がぷっくりと立ち上がってきた。
  ツンと上を向くそれがなんとも美味しそうだと沖田は思う。
  「‥‥乳首、立ってるよ。」
  感じてるんでしょ?
  白い首筋に唇を寄せて、きつく、吸う。
  「ちが‥‥」
  はくはくと喘ぎ、目を細めるのそれは、感じている時の顔だ。
  「って、素直じゃないよね。」
  こう言うときは素直に悦いと言えば、もっとよくしてやれるのに。
  「たまには素直に僕の事欲しい‥‥とか言ってみてよ。」
  ねぇ。
  と甘ったるい声で強請れば、は唇を噛みしめて、答えた。

  「抵抗される方が、好きな、くせに――」

  違いない――

  沖田は嗤った。



  じっとりと汗ばんだ肌。
  真っ白な背中を見下ろして、沖田は己の帯を解く。
  袴を下ろし、一物を取り出せばそれは既に熱く、硬く天を差していた。

  「絶景。」

  掠れた声で沖田は言った。

  は応えない。
  自分がどれほど恥ずかしい体勢をさせられているかよく分かった。
  俯せのまま、尻だけを高く上げた格好。
  散々弄られた秘所はしとどに濡れて、彼の一物をいまかいまかと待ちわびている。

  「って‥‥後ろから犯されるの、好きだよね。」
  見えない事が彼女の興奮を煽るのだろうか。
  いつもよりも濡れたそこに、沖田はそれを宛った。
  限界まで張りつめた一物を感じて、は唇を噛みしめて反論した。
  「おまえだって‥‥無理矢理するのが好きなくせにっ」
  「そりゃ、男ですから。」
  「意味、わかんなっ‥‥」
  「そういうものなんだって。」
  全く納得できない言葉で締めくくられ、半ば強引に一物をねじ込まれる。
  「ぁっ‥‥」
  ため息混じりの声を上げ、は畳に爪を立てた。
  陰唇は、いとも簡単に男を飲み込む。
  にゅるりと。
  嫌な音が聞こえた。
  硬い自分のものではないものが体内に入ってくる感覚が、やけに鮮明に感じられる。

  なるほど、言われるとおり。
  自分は後ろから犯されるのが好きなのかもしれない。
  視覚があてにならないと感覚がとぎすまされて、一層感じるのだ。

  狭い内部を押し広げる感覚を。
  熱を。
  脈動を。
  見えないからこそ肌で感じ、
  言いしれぬ快感が脳天まで駆け抜けた。

  「ぁ、あっ‥‥」
  滑るように男の欲が入ってくる。
  濡れた内部のほどよい締め付けに、沖田は薄らと笑みを浮かべた。
  「いいよ。気持ちいい。」
  奥まで入れた後に、ぐるりと一度腰を回す。
  「ふぁ、あ‥‥」
  硬い楔が内壁を擦り、やがて元の場所に戻る。
  「動くね。」
  彼は短く宣言して、

  「ひ、んっ!」

  律動が開始される。
  ぐちゅぐちゅと濡れた音を立てて抽送されるたびに、中がきゅうきゅうと痛いくらいに締め付けてくる。
  それが――達しそうになるくらいに気持ちいい。

  「ほんと、の中って‥‥きもちい、よねっ。」
  は。
  と荒い吐息を漏らし、男はの背に覆い被さる。
  畳に両手をついて、律動を繰り返しながら、耳元で囁く。

  「わかる?僕の締め付けてるの。」
  「っんぁ!」
  「あそこが、離したくないって言ってるみたいだよね。」
  「っ!」

  言葉に、は唇を噛んだ。
  沖田はそうやってを言葉で攻めるのが好きだった。
  いつもは口で互角に勝負する彼女ではあるが、こう言うときは沖田の方が優位に立てる。
  おまけにその言葉に感じるのか、彼女の中は顕著に反応を返してくれるのだ。

  「あ、また、締まった。」

  きゅう。
  ときつい締め付けに合い、沖田は蕩けるような甘い吐息を漏らす。
  それが敏感な耳をくすぐるのだからたまらない。

  「やぁ、総司っ‥‥」
  耳。
  「耳?舐めて欲しいの?」
  べろりと耳たぶを舐り、耳孔に舌が差し込まれた。
  濡れた音が直接脳に響いて、ぞくぞくと震えが止まらない。
  それが更にを追いつめた。
  「や、あぁっ‥‥」
  生理的な涙が零れる。
  決して否定ではない、甘い声に、沖田もまた、煽られた。
  「そんなに、可愛い声で啼かないでよ。」
  声だけで、いっちゃいそう。
  と彼も余裕のない声で漏らして、腰を一度落とすと、今度は下から突き上げるように律動を始めた。

  「ひ、っう、ぁ‥‥」

  ぎりりと畳に爪を立てた。

  沖田の律動は激しくなる。

  は。
  はぁ。

  と忙しない息づかいが耳元で聞こえる。
  遠くでくぐもった水音。
  そして別人のような甘い、自分の声。

  ずくずくと繰り返される甘く、激しい責めに身体は一気に上り詰める。

  「あ、そうっ‥‥そうじっ‥‥」

  もう、とが頭を振った。
  びくびくと内から震えが走る。
  目の奥が明滅を繰り返した。

  「も‥‥でるっ‥‥」

  と掠れた声が耳を擽り、やがて、世界の全てが曖昧になっていく。

  「んっ――」

  びく。
  と中でそれが震えた。
  次の瞬間、奥に熱い飛沫を叩きつけられる感覚がした。
  同時に、
  落下。
  どこまでも落ちていく感覚。
  それに、はびくっと身体を弛緩させ、

  「は‥‥ぁ‥‥」

  熱い吐息を漏らして、落ちた。


  しばしどくどくと続く射精と、それより早い鼓動を感じながら、は絶頂の余韻に浸る。
  最後の一滴まで沖田は中に注ぎ込むと、やがて一度、ゆるりと腰を揺らしながら自身を引き抜いた。

  どろとそれと同時に溢れた精が零れる感覚が気持ちいい‥‥と言えば、男はきっと笑うのだろう。
  僅かには身体を震わせて、やがて閉じていた目を開いた。


  「‥‥総司?」
  いつもならすぐに身を起こして離れる彼が、まだ背中に張り付いている。
  それどころか、ちゅ、ちゅと背中に口づけられる。
  どきっとしていると、畳の上についていた手が脇腹から上へ‥‥ゆったりとはい上がってくる。
  同時に抜いたばかりの雄を、先ほどまで彼を銜えていたそこに押しつけられた。
  「ちょ‥‥」
  は青ざめた。
  何故なら果てたばかりの雄は、徐々に固さを取り戻していくからだ。
  まさかと思い肩越しに振り返ると、やけに艶めいた瞳をぶつかった。
  濡れたそれはまだ欲情の色を濃くして、
  「久しぶりだから‥‥」
  ちゅ、と今日初めての口づけをに与えて、

  「あと、もう一回ね。」

  甘く強請った。



日常的な日常



日常的に、この二人は猫のように戯れる。
そんな中の、非日常(笑)