闇の中、やけに映える色だと思った。
その白銀の髪は。
赤い瞳は。
やけに映える色だと。
ざん、と刀を振るうたびに悲鳴が夜陰を裂く。
ごとりと重たく何かが落ちる音がして、血のにおいが強くなった。
その血に当てられたのか、羅刹共は狂気に満ちた瞳を光らせて、
「がぁああ!」
もう人とは思えない咆哮を上げ、飛び込んでくる。
その一撃を流れるようにかわして、
「がっ!」
振り向き様に腹を薙いだ。
その時、ぼきりと骨が折れる嫌な音がした。
世界に血の色が広がっていく。
血と、そして死が。
まさに地獄絵図のようだった。
一振り刃が振るわれると、死体が増える。
重なるその上にまた、重なり。
死体の山が築かれた。
次第に刃は血と脂で斬れにくくなる。
しかし、
は手を止めなかった。
「‥‥」
ごりと肉に挟まれたまま、刃が抜けなくなる。
「死ねぇええ!!」
武器を奪われたの背後から、また新たな獣が飛びかかってきた。
「っ」
切っ先がの肩口を捕らえる。
熱が肩から走り、その後に痛みが続く。
僅かにの口から声が漏れた。
瞬間、
「ぁ‥‥」
力のない声と共に、男の手から力が抜ける。
振り抜かれれば腕を持って行かれただろう。
その赤い瞳に一瞬だけ、迷いが生まれていた。
僅かに正気に戻った証拠だった。
しかし――
「がぁ!?」
は躊躇わず、男の腰から脇差しを抜き、その胸を貫いた。
びくんっと震えた体は糸の切れた操り人形のように、地面に倒れ伏す。
「‥‥」
は倒れる様を虚ろな目で見守り、肩に刺さったままの刀を無造作に抜いた。
そして迫り来る獣へとそれを投げて、またこれを絶命させる。
はらりと、倒れた男の、
浅葱の衣が揺れた。
見知った顔が‥‥いくつかあった。
昔、冗談を言い合った事のある人間も、いた。
自分を慕ってついてきてくれた人間も。
優しい目をしたその人たちは‥‥しかし、その欠片も思わせない狂った色をしていた。
そして、
色を、失った。
仲間を斬るのは、いつも気持ちのいいものではない。
誰かが口にしていた。
そうだろうかとは首を捻った。
仲間だろうが、なんだろうが、敵は敵だと言えば‥‥誰かが笑った。
おまえは強いなと、そう言って、笑った。
ざん、と刀を振りながら、はそんなことをどこか遠くで思い出していた。
暖かな感触が身体をじっとりと濡らしていた。
ぬるりと掌を、血が汚していた。
刀が、
振るいにくいと、は思った。
ぼんやりと、
倒れていく隊士達を見ながらそんな事を思った。
世界を赤く染めながら。
「!」
高らかな声がの耳に響く。
虚ろな瞳が、その声を聞きとめ、やがて、ゆったりと、まるで幽鬼のようにそちらを見る。
築き上げた死体の山。
その向こうにその人がいた。
漆黒の衣を纏ったその人は、同じ、血で、濡れていた。
白い肌にひどく、それが映えた。
「‥‥」
凛とした土方の声がもう一度、自分を呼ぶ。
鋭い眼差しはやがて、ゆっくりと細められ、微笑むのとは違う‥‥悲しげなそれに、なり。
「もういい‥‥」
もう、いい。
そう告げられた言葉に、
「――はい」
どこか嬉しそうな笑みが浮かび、
ゆらりと小さな身体が傾いだ。
願っても、それは許されない
あなたが許してくれるまで
土方さんがいいと言うまではきっと
傷つき続ける。
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