突撃、寝起きどっきり大作戦〜斎藤編〜







「おはようございます!

今日は曇り空、早朝の屯所です!」

「‥‥‥‥」

「‥‥くそ、前回に引き続き今回も土方さんに見つかるなんて‥‥

私絶対ついてないよな!」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「っていうか、あれ?千鶴ちゃん?」

「‥‥はい‥‥」

「‥‥‥ど、どした。

なんか心ここにあらず‥‥って感じだぞ?」

「‥‥‥ええ‥‥‥まあ‥‥」

「もしかして‥‥総司に何か‥‥」

「っ!!」

 

ぼんっと、破裂音がした気がする。

間違いなく千鶴の頭からだ。

死にかけていた彼女は顔は見る見るうちに真っ赤になって‥‥

 

「あ‥‥ぅ‥‥その‥‥」

 

わかりやすいその反応に、なま暖かい目で見て、はポンと肩を叩いた。

 

「うん、頑張った。

お姉さんが褒めてあげよう。」

「うー、さぁあん‥‥」

「泣きたいのなら、私の胸でお泣きっ!」

「っていうか‥‥もう止めましょうよ‥‥」

「何を言う!あと、二人で終わるんだぞ!」

「幹部の皆さんですよね‥‥でもそれなら、後、少なくとも、7人なんじゃ‥‥」

「ばっか、主立った人間だけだっつーの。」

「それじゃ、5人‥‥?」

「いやいや、源さんにそんな事出来ないだろ?」

「確かに。」

「それに、山南さんにやろうものなら‥‥後々までねちねち言われる事目に見えてる。」

「‥‥‥そ、それは怖いです。」

「あと、新八さんは‥‥あまりにベタっぽくてつまんない!」

「何を期待してるんですか?」

「ってことで、残るは一と土方さん!」

「えええ!土方さんもですか!?」

「ったりまえよー!ってことで、今日は一の部屋なー」

 

行くぞ。

は歩き出す。

二度も説教されたというのに懲りずに、しかも、あの鬼の副長の寝起きまで見ようとは‥‥

なんとも恐れ知らずな副長助勤だ、と千鶴は思うのだった。

 

静まりかえった部屋の前に立つ。

襖に指をかけたのはだ。

「斎藤さんの場合、襖開けた瞬間に起きそうですよね。」

「まあ、一もかなり気配に聡いからな。

っていうか、この会話してる時点で起きてると思うぞ。」

「そ、そうでした。」

「頼むから寝ててくれよ。」

がそっと襖を開けた。

 

中は‥‥

 

「なんもないな。」

 

恐ろしく殺風景な部屋だった。

 

とにかく物がない。

何もない。

 

「‥‥斎藤さん、お着替えは‥‥」

「あのちっさい箪笥一個で済んでるって事だな。」

「‥‥ええと‥‥」

「今度、着物でも送ってやろうか。」

「あと箪笥ですね。」

 

二人呟いて、そっと、足音を立てないように部屋に入る。

何故か、

「お邪魔します」

と言ってしまう。

 

真ん中に敷かれた布団の上。

斎藤は横になっている。

これまた全く布団は乱れていない。

仰向けのまま‥‥

 

「動いてない?」

「‥‥」

「生きてんのかな?」

「息は、されてます。」

 

安心。

も千鶴もほ、とため息を零した。

 

顔の半分が髪で隠された斎藤の寝顔は‥‥やっぱり無表情だった。

 

「もっと、可愛い寝顔とか期待してたんだけど‥‥」

「いえ、でも、可愛いと思います。」

「無表情だぞ?」

「‥‥いや、でも少し穏やかな雰囲気じゃないですか?」

「‥‥そっかな?」

 

はまじまじと見つめた。

いや。

確かに言われたら少しだけ穏やかに見えなくもない。

うん、そう考えたら少しだけ可愛い‥‥のか?

 

「‥‥ま、まあいいや。

とりあえず、起こそう。」

「そうですね。」

 

の言葉に千鶴も頷く。

でも、

 

「斎藤さんを起こすのはどうしたらいいんでしょう?」

「うーん、それは私も悩みどころなんだよ。」

 

彼を起こす手段がない。

何が良いんだろう。

刀で斬りつけでもしたら起きるだろうか?

いや、それをしたら完璧に暫く口を利いてもらえない。

かといって、他に方法が‥‥

 

「もう、起きても良いだろうか?」

 

そう思っていると、背後から声を掛けられた。

無表情なそれだ。

 

「ああ、うん、起きて良いよ‥‥」

 

は応えた。

 

「‥‥って‥‥あれ?」

 

応えて、違和感を覚える。

今の声は‥‥

 

「‥‥‥まさか‥‥」

 

千鶴も揃って振り返り、

 

「‥‥俺に何の用だ。」

 

布団の上に座る斎藤と目があった。

 

一拍。

二人は黙り込む。

それから、

 

「さささささささ斎藤さん!?」

「おおおおおおおまえ、いつから起きてた!!」

 

動揺した二人の言葉に、斎藤は常と変わらぬ様子で答える。

 

「二人が部屋に入る前からだ。」

 

部屋に入る前から起きていた。

千鶴が危惧していたとおりの状況だったらしい。

 

「じゃ、じゃあなんで寝たふりなんて!」

 

まさかあれか。

斬るつもりだったか!

 

は慌てて柄に手を伸ばす。

しかし、彼は至極真面目な顔で、

 

「‥‥寝ていてくれと言っただろう。」

 

そう、答え‥‥

 

また、二人は黙り込む。

くそ真面目な顔をする彼を見つめたまま。

黙り込んで、

 

 

「さ、斎藤さん可愛い!」

「いい子いい子!」




斎藤はいろんな意味でかわいいと思います