突撃、寝起きどっきり大作戦〜永倉編〜







「おはようございます。

今日は清々しい朝です。」

快晴です。

が言えば、千鶴はそうですねぇと新鮮な空気を吸い込んで、それからはたと我に返る。

 

さん!?なんだか一月前同じような事をした記憶があるんですけど‥‥これは何ですか!?」

「え?やだな千鶴ちゃん寝ぼけてるの?」

これはあれだよ。

は笑った。

 

「突撃、寝起きどっきりだいさくせーん!」

 

「ええええぇ!?」

「驚きすぎ。」

「だ、だって土方さんで終わったはずじゃ‥‥」

そう言われては真顔で告げる。

「あれは終わったとは言わない。

断じて言わない。」

むしろ戦いはこれからだ。

「待ってろよ、土方歳三!

いつかあんたの寝首をかいて‥‥じゃなかった。

いつかあんたの寝起きを突撃してやるからな!」

ははは。

と高らかに笑う彼女は少しばかり怖いと千鶴は思った。

いやいや、それよりも。

「‥‥もしかして、また土方さん所に?」

千鶴は恐る恐るという風に訊ねた。

すると、

「ああ、今日は違う。」

あっさりとは首を振った。

まだ一月だ。

記憶の彼方に‥‥というのは早すぎる。

多分あの男を油断させるには、あと二月ほどの月日が必要だ。

 

千鶴はほっと胸をなで下ろした。

とりあえず、土方の部屋に行くという恐ろしい事態にはならないらしい。

「じゃあ、今日はどなたの?」

「今日はね‥‥」

はにんまりと笑った。

 

 

ぐがー

ぐごー

 

「うわ、うるさ。」

「よく眠っていらっしゃいますね。」

二人は襖の前でわずかに顔を顰める。

部屋の主は目下爆睡中と言ったところだろうか。

非常に気持ちよさそうな鼾が聞こえてきた。

「八木さん宅に苦情とか来てないといいんだけど‥‥」

此度の対象、永倉新八の鼾は、まさに近所迷惑だ。

 

「‥‥これ、部屋の外ですけど、中に入ったらもっと酷いとか‥‥」

そういうのじゃないですか?

「まさか、そこまで防音効果もないだろう、この襖。」

そうだとしたらすごい。

は苦笑して、いざ、襖に手を掛けた。

す、と難なく襖は開く。

勿論部屋の主は目を覚ました気配はない。

二人は滑り込み、部屋の中を見回した。

部屋に入って、まず目に飛び込んできたのが、布団と永倉の距離だろう。

 

「‥‥どんだけ寝相悪いんだ?この人。」

 

部屋の真ん中に敷かれた布団。

しかしその上に眠るべき本人は、壁際まで転がっている。

掛け布団は襖の真ん前である。

暑くて吹っ飛ばした感じだ。

「投げるくらいなら着るなよ。」

ぼそとは突っ込んで、足を進めた。

 

豪快な鼾をかいて眠っている男はまだ気付かない。

こちらも乱れに乱れた寝姿で、なんとも見るに忍びない。

ぼりぼりとだらしなく腹を掻く姿にはため息を漏らした。

 

「予想通り。」

「‥‥ですね。」

「つまんないなぁ、もう。」

 

が零せば、

 

ぐがー!

 

鼾が突然大きくなった。

まるでそれは抗議でもしているようだ。

 

「うるさ‥‥」

二人は耳を塞いだ。

その鼾は異常だった。

非常に煩い。

 

ぐがー

ぐごー

「み、耳が割れそうですっ!」

ぐがー

ぐごー

「ちょ、新八さん!起きて起きてってば!」

こうなったら寝起きどっきりもくそもない。

煩くて仕方がないので起こしてしまおうと声を掛けるが、どうやら深い眠りについているようだ。

「新八さん!」

怒鳴っても起きない。

それどころか、

 

ぐがー

ぐごー

 

鼾は大きくなるばかり。

 

「うっ!」

千鶴は限界‥‥とばかりにその場に崩れ落ちる。

その瞬間、

 

――ごすっ!!

 

「ぐはっ!?」

の踵落としが彼の鳩尾に決まった。

そして、

鼾は止まる。

 

「‥‥な、永倉さん‥‥?」

 

彼女の見事な踵落としが決まった瞬間、聞こえたうめき声は気のせいではないはずだ。

なんというか、

断末魔的な。

 

うんともすんとも言わない。

それどころか、彼はぴくりともしなかった。

 

青ざめる千鶴を前に、はふぅと自身の額の汗を拭って、

 

「静かになった。」

 

満面の笑みを浮かべた。

 

 

「いやぁああ!!永倉さん死なないでくださいっ!!」




永倉さんは翌日一日動けなかったそうです!