突撃、寝起きどっきり大作戦〜平助編〜







「おはようございまーす。

ただ今、卯の刻を少し過ぎた頃合いです。

『突撃、寝起きどっきり大作戦』

‥‥ということで、今回は新選組の幹部の方々の寝起きに突撃したいと思います。」

「‥‥って、さん、一体どなたに向かってお話してるんですか?」

「いや‥‥ちょっとこれ見てる皆様に。」

「??」

「ううん、気にしないで。

じゃあ、早速行ってみようか。」

 

朝靄の残る早朝。

二人は小声で喋りながら、幹部連中の部屋へと向かう。

ごーごーと聞こえるいびきや、寝息。

相変わらず賑やかだなぁと思いながら、千鶴はの後に続いた。

 

「それにしても‥‥いいんですか?」

「ん?」

「寝起きに突撃、なんて怒られません?」

「だぁいじょうぶ、大丈夫。

そんな肝っ玉のちっさいやつらじゃないから。」

「そうでしょうか‥‥」

「そうそう、あ、まあ、多少寝起きの恥ずかしい姿‥‥ってのを見られて機嫌悪くはなる

かもしれないけど。」

「それが怖いです。」

「まあ、今日は大丈夫だよ。

なんせ平助だ。」

 

部屋の前でぴたりとが止まる。

 

「平助君のお部屋ですか‥‥」

「‥‥まあ、多少汚いと思うけど、とりあえず入ってみようよ。」

いいのかなぁとまだ言う千鶴を放って、はそと、襖を開けた。

 

「部屋の中は‥‥案外片づいてるな。」

汚いかと思いきや、そうでもない。

着物はきちんとひとまとめに置いてあるし、あちこちに物が散乱している‥‥ということも

なかった。

意外。

と千鶴も思った。

「まあ、平助は何げに育ちがいいからなぁ‥‥こういう所は躾られてるんじゃないか?」

「そうなんですか?」

「うん、まあ‥‥」

それから、目的の布団の傍まで近づいていく。

くーかーと寝息が聞こえているので、まだ眠っているようだ。

見下ろして、それからこちらは予想通りで苦笑を浮かべた。

 

「躾はされてても、寝相は悪いみたいだな。」

 

「寝相‥‥って、っ!?」

 

千鶴も揃って覗き込み、思わず喉の奥から悲鳴を上げるところだった。

 

平助は確かに。

確かに眠っていた。

そりゃもう布団の中で。

眠っていたのだけれど‥‥

 

「は、は、はだっはだっ‥‥」

 

平助は上半身裸で眠っていた。

勿論元々裸で眠っていたわけではなく、着物をきちんと着ていたらしい。

ただ、寝相が悪くてはだけてしまっていたようだ。

今では完璧に上を脱いでいるという状態で、布団が辛うじて下半身を隠しているが‥‥下も

同じように乱れているのだろう。

 

真っ赤になる千鶴とは逆に、は仕方ないなぁという風に笑っている。

彼女は新選組で何年と過ごしてきたのだ。

正直、野郎の肌なぞ見慣れてしまっている。

 

「ねえねえ、千鶴ちゃん見てみなよ。」

と言われ、彼女は顔を真っ赤にしながら首を振った。

「いいから、平助可愛いんだって、ほら。」

指さされ、千鶴は困った顔のまま、どうにか彼女の隣に近づいていく。

なるべく、なるべく裸を見ないようにしながら、顔だけを見た。

見下ろせば‥‥

 

「わ、可愛い。」

 

年相応のあどけない寝顔をしている。

思わず呟き、まじまじと魅入る彼女には苦笑を漏らした。

 

「ったく、平助も可哀想だよなぁ。

好いた女に「可愛い」扱いか。」

「え‥‥なんですか?」

「いやいやこっちの話。

さて、それじゃ平助を起こすかなぁ?」

 

はにやりと悪戯っぽく笑った。

それから突然何をし出すのかと思いきや、

 

「あー!千鶴ちゃんがあんな所で全裸になってる!!」

 

突然そんな事を大声で叫んだのだ。

 

「な!?」

 

慌てたのは千鶴だ。

脱いでない。

 

っていうか、いきなり何を言い出すんだ!

 

そう、に抗議をしようと口を開けば、

 

がば!!

 

「なにぃいい!!」

 

――平助が飛び起きた。

 

その目はぱっちりと開いている。

 

「ど、どこどこどこ!?」

 

そうしてきょろきょろとあたりを見回し、

 

「‥‥あ‥‥」

 

千鶴と目が合う。

彼女は目を瞬かせていた。

 

「やあ、おはよう平助君。

気分はどうかな?」

 

その背後ではそれはそれは楽しげに笑みを浮かべていて‥‥

 

「それより平助。

早く隠さないと‥‥千鶴ちゃんに嫌われちゃうよ?」

 

それ。

という言葉に、平助と千鶴は同時に視線を下げ‥‥

 

 

「きゃぁあああああ!!」

 

 

悲鳴が、まだ朝靄の残る屯所内に響くのだった。




平助は健全な青少年です