ばっかり狡くない?」

 

ねえ、千鶴ちゃん。

と何故か不機嫌な声で言われて、千鶴は「え?」と手を止める。

すぐ傍には沖田のにこにこ笑顔。

そのくせ、声は不機嫌なんだから器用な男だと思う。

いや、それよりも、

 

「沖田さん、何の事ですか?」

 

千鶴には彼の言う意味が分からなくて首を捻った。

 

だから。

 

沖田は目を眇める。

 

「ことある事にを頼るのは、どうなのって事。」

 

言われて、

 

「そうですか?」

 

千鶴は首をさらに傾げた。

男装しているくせに、その仕草はもろ女のそれで、それはそれで狡いなぁと沖田は思う。

この鈍さも狡い。

 

「はっはーん?」

 

沖田が口を開いて説明しようとするより前。

なんだか意地悪そうな声が飛んできた。

振り返れば、

 

。」

 

その人の姿である。

 

にたにたと、意地悪そうな顔をして、ふぅん‥‥と意味ありげに呟く。

 

「男の嫉妬は醜いぜ、総司。」

「うるさいな、黙っててよ。」

 

いやだね。

は言う。

そうして、すたすたと千鶴の傍に行くと、

 

「私たち仲良しだもんな?千鶴ちゃん。」

 

そう言って、

千鶴を抱きしめた。

 

――ふわりと、爽やかな香りがして、千鶴はいいにおい‥‥と思った。

 

「千鶴ちゃん、総司は私たちの仲がいいのが気にくわないんだって。」

仕方ないじゃんなぁ。

と抱きしめながらは言った。

「私は女。

おまえは男、なんだから。」

そう。

どうしても千鶴がを頼ってしまうのは仕方のないことだ。

同性‥‥というので、同じ考え、悩みがある。

男には決して分かってもらえない事‥‥相談したくないというのがあるのだ。

その点同姓なら気安い上に、は察しがいい。

こちらが何かを言う前に察して、さりげなく助けてくれるのだから頼ってしまうのは仕方

のないこと。

 

「えっと‥‥さん。」

千鶴はその腕の中で困惑した声をあげる。

「ええと、私。」

「千鶴ちゃんは、私の事が嫌い?」

「そんなっ!!」

少し傷ついた瞳を向けられ、千鶴はぶんぶんと首を振った。

そうして、

「大好きです!!」

ぎゅっと抱きつく。

 

にやり。

 

は意地の悪い笑みを沖田に向けた。

ひくりと、彼の口元が引きつる。

 

「千鶴ちゃんってばやわらかーい。」

「千鶴ちゃん、そんなのに抱きしめられたらがさつになっちゃうよ。」

こっちおいでと、彼は言う。

さん、いいにおいがします。」

「千鶴ちゃんもいいにおいするよ。」

‥‥」

ぐ、と悔しげな声が聞こえる。

優越感に満面の笑みを湛えて、は沖田を見た。

「うらやましかろう?」

ふふん。

と笑う。

 

それを傍観していた土方は心の中で、「阿呆が」と呟いた。

 

しばし。

と沖田がにらみ合う。

ほどなくして、

 

いい加減にしないと‥‥僕にだって、考えがある。」

 

低い声で、沖田が呟く。

その瞳は剣呑とした色を湛えており、は双眸を細め千鶴を庇うようにして身体を向けた。

「へえ、どんな?」

彼女の声にもまた楽しげながらも鋭さが滲む。

 

それこそ今すぐに刀を抜いて斬り合いにでもなりかねない空気。

 

見守っていた土方は眉根を寄せた。

 

おいおい、馬鹿なことをしでかすつもりじゃないだろうな。

 

す。

と沖田が息を吸い込んだ。

緊迫した空気が、

 

弾ける――

 

「僕だって、土方さんとべたべたしてやる。」

 

沖田の言葉に、

 

「誰がするか――!!」

 

土方の怒鳴り声が空に響いた。

 

 

 

「土方さんと総司がべたべた。」

「うわ、嫌がらせで言ってみたけど気持ち悪い。

やめてくださいよ、土方さん。」

「そりゃ俺の台詞だ、総司。」

「‥‥でも、土方さんと沖田さんって仲がいいですよね。」

「喧嘩するほど仲がいい?」

‥‥」






なかよしこよし



土方と総司の言い合いがすき