「なんか最近、二人の雰囲気変わったよな」
麗らかなある日の午後の事。
近藤が買ってきてくれた団子を、皆で突いている時にふと永倉が気付いてそう口にした。
二人の雰囲気が変わった、と。
二人、と言うのはそう、鬼の副長とその傍らに座る助勤の事。
今日も今日とて、二人は軽口を叩きながら会話を繰り広げているが……その二人の様子が今までと違うように見えたのだ。
とは言っても、何が違うのかと聞かれると困る。鬼の副長が別人のように優しくなったわけでも、その助勤が可愛らしい性格に変わったわけでもない。ただなんとなく、漠然と変わった気がした。言うなれば二人の間に漂う空気だ。
確かに今までも二人は親しげではあったが、その、以前よりももっとその空気が柔らかいというか、優しいというか……甘い?
などと考えて永倉は甘い雰囲気ってなんだと首を捻る。
間違った表現ではないし、それこそが正しいが、彼のような鈍い男には分かるまい。
二人の雰囲気が変わった事など、聡い原田や沖田などはすぐに気付いたというものだ。そして、二人がどうして変わったか……も。
あの夜祭りから、二人の雰囲気は変わった。
つまりはあの夜祭りで、二人に何かがあったのだ。
何があったか……というのは聞かないでおこうとあの夜、気を利かせて二人きりにした原田は思う。だから「変な事を言うな」と親友を宥めようとしたが、沖田の方は違ったらしい。
「そうですよね、なんか変わりましたよね」
その顔を満面の笑みに変え、永倉の援護射撃を始めた。
「お、沖田さん」
原田や沖田のようにすぐに気付いたわけではないが、の淡い恋心を知っている千鶴は慌てて彼を止めに入る。
詮索なんてすべきではない。折角二人が想い合う事が出来たのだ。そっとしておいてあげるべきだとこっそりと彼の袖を引っ張ったが、彼は聞いてくれない。
普段土方に煩く言われる鬱憤を、ここぞとばかりに晴らさんと嬉々とした顔で続けた。
「なんだか土方さんはには優しいし、は土方さんの前だと嬉しそうだし」
「そ、総司!?」
あからさまな指摘に土方はぎくりと肩を震わせた。
鈍い永倉や藤堂はそうか? と首を捻っているが、その通りである。見ていればすぐに分かる事だ。
それだけではなく、最近は気付くと二人は一緒だし、仕事がなくても部屋を行き来しているし、なにより夜遅くお互いの部屋を訪ねていく姿を何度も目にしている。人目を忍んで部屋に行って何をしているのやら……よもや副長が女をどうこうなどという事はあるまいな?
問いかけるようににやりと含みを持たせて笑うと、土方の顔が歪んだ。
とてもおかしな顔で、爆笑してやりたくなる。これは楽しい。
沖田はくつくつと笑い、最後にもう一つだけ彼を苛めてみた。
「夜祭りの日、何かありました?」
あの日。
遅く帰ってきた二人を、沖田は偶然見かけていた。
夜に紛れて戻ってきた二人は会話をする様子はない。視線もそれぞれ別の方へと向けていて、まだ喧嘩でもしているのかと思ったが、違う。
だってその顔は真っ赤で、指先は誰にも見えないように絡み合っていたのだ。
何かがあの夜、あった。
それが何かは分からないが……とにかく二人の関係が、あの日確かに変わったのだけは分かった。
大事な大事な悪友に何をしてくれたのかは分からない。そこを問い質してやりたいが、この男が口を割る事はまああるまい。その分こうして甚振ってやれれば沖田としては満足だ。
が、その笑みが突然、間抜けなものに変わった。
彼だけではない。
どういう事か、こちらを見ている全員がぽかんと、大口を開けて間抜け面を曝していた。
一体何事だろう。そんなに自分は変な顔をしているのだろうかと思ったが、彼らの視線が自分に集まっていない事に気付いて、そうして、
「え……」
傍らに座っていたの顔を見て、彼もまた間抜けな顔になった。
彼女は目をまん丸く、驚きに見開いていた。
だがそれだけではない。その顔を耳まで真っ赤にしていたのだ。沖田の言葉が事実であると言う事を如実に語るように。
それは飄々と嘘を並べ立てる副長助勤の姿とは思えず、皆が驚いてしまうのも仕方のない事。
それだけではなく、
「あっ」
皆の注目を集めている事に気付き、次の瞬間は顔をくしゃりと歪ませた。
眉根を寄せ、潤んだ瞳が左右に泳いで伏せられる。
まるで、恥ずかしいあまりに泣き出す寸前みたいで、
「わ、私、失礼します!」
慌てて立ち上がり、ばたばたと逃げるように行ってしまう彼女に誰も何も言う事は出来なかった。あの沖田でさえ、ぽかんと間抜け面で見送る始末であった。
やがてぱたぱたと聞こえていた足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなってしまった頃、思いだしたようにゆらりと男は立ち上がる。
土方であった。
「あ、あの、土方さん?」
どうしたのかとおずおずと千鶴が声を掛けるが聞こえていない様子で、彼もまた大股で部屋を出ていってしまった。
足音は彼女と同じように遠ざかり、消えた。
それらを見送り、ぽつりと原田が呟く。
「ありゃ、苛めに行ったな」
気持ちは分からなくもないけれどと沖田も沈痛な面もちで頷いた。
祭りの後の
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