「大きくなったらおれがをお嫁にもらってやるからな!」
そう豪語する子供の瞳は、きらきらと希望で輝いている。
その瞳には、将来、隣で微笑む彼女と、大人になって立派になった自分が映っているのだろう。
君が大人になった頃には私は随分と年を取っているはずだし、そもそも私は男だよ‥‥本当は女だけど‥‥という無粋な
言葉は、には口にすることが出来ない。
ただ、にこやかに笑って、
「じゃあ、それまでに強くなるんだよ。」
と言うだけだ。
「うん!」
子供は素直に頷いて、言った後に照れたような顔で笑った。
面白くないのは隣で聞いていた沖田である。
所詮、子供の頃の約束‥‥というのは大人になれば忘れているものだ。
隣にいる綺麗な年上のお姉さんに憧れる子供は多い。
いずれ「結婚しよう」とませた事を言うが、成し遂げられた事は少ないだろう。
彼女を女と見破った本能か、洞察力かには賛辞を送ってやりたいが、彼が大人になるまでに別に好きな人が出来て忘れて
いくのが関の山。
若しくは、
その憧れたお姉さんとやらが別の男と一緒になって破れるか、だ。
この場合、後者である。
例え彼が覚えていたとして、はもう一人の男と共になることが決まっている。
そう、彼の事だ。
隣に座り些か憮然とした面もちをしている沖田総司。
しかし、まだ彼の頭の中でだけの決まりだ。
彼女は何一つ知らない。
「あ、あのさ、。」
そんなことを沖田が考えているとはつゆ知らず、子供はもじもじと手を合わせて、おまけにが甘くなってしまいそう
な愛らしい表情を浮かべて、こちらを見た。
「なに?」
案の定、彼女は目元を細めて優しい顔をしている。
女は子供に弱い‥‥というのは本当のことだ。
「その‥‥約束として、さ‥‥」
「うん?」
「接吻して良い?」
「は――?」
接吻という言葉に訝しげな声を上げたのは沖田だ。
因みには目をちょっと丸くしているだけ。
ませた子供だとは思っていたが、まさか接吻までさせろというとは思わなかった。
約束と言えば指切りというのが当たり前じゃないのか?
沖田は呆気に取られ、だがすぐに半眼になって口を開いた。
「あのね、太一、そんなことさせるわけには‥‥」
いかないという言葉の前に、
「いいよ。」
が頷いた。
瞬間、子供はぱあっと顔を輝かせ、反対に沖田は正気?と彼女を非難するような眼差しを向ける。
「いいよ。」
もう一度は言い、ただし、
ちょん、とは己のほっぺたを差し出した。
「ここね?」
曰く、
唇への接吻は、太一が大人になるまで取っておきたい、だそうだ。
頭ごなしに「駄目」と言って子供心を傷つける事無く、それどころか境界線ぎりぎりまで受け入れて淡い期待を抱かせる。
こうしては子供心を奪っていくのだろう。
全く罪な女だ。
「それじゃ‥‥」
太一はそっと小さな手を伸ばし、背伸びをした。
ちゅと柔らかな感触が互いの唇と頬に伝え、彼は心底嬉しそうな顔で離れた。
「えへへ、約束ね。」
はにかむような子供の笑顔に、は約束だよと笑顔で答えた。
男にとっては‥‥ただただ不愉快でしかなかった――
「なぁに怒ってんのさー」
夕日に染まる通りを二人は歩いていた。
いつもなら並んで歩くのに、今は少し距離がある。
沖田の方が先を歩いていた。
声を掛けても、彼は「怒ってない」と不機嫌そうな声を返すばかり。
原因は分かっている。
はくすくすと笑って、
「可愛らしいもんじゃん。」
あれくらい、と言ってのけた。
何が可愛いものか‥‥と沖田は心の中で呟く。
子供とはいえ、に接吻したのだ。
ほっぺただけど、それでもしたのには変わりない。
おまけに将来の約束まで‥‥
「‥‥おまえだって子供の頃はしただろ?」
「してないね。」
僕はほど尻軽じゃない、と沖田は吐き捨てた。
「うーそだー」
「嘘じゃないよ。」
「じゃあ」
ぱたぱたと足音が近付いてくる。
少し、歩調を緩めて待ってしまって、ああくそ、と内心舌打ちを漏らす。
ひょいと横からが顔を覗き込んできた。
思った通り、不満げな顔では苦笑を浮かべる。
「みつさんに聞いてもいい?」
「‥‥」
問いに沖田は答えなかった。
ただ暫くじっとを睨み付け、やがてふいと逸らされる。
勝手にすれば、と言いたげに。
「きっとすぐ忘れるよ。」
は並んで歩きながら呟いた。
今度はもう置いて行かれることはない。
「太一が大人になったら他に素敵な人が出来るって。」
「それなら‥‥させてあげなくても良かったんじゃないの?」
憮然とした声で沖田が呟く。
「総司、子供にまでやきもちやいてんの?」
悪い?
と言いたげに沖田は横目で睨んだ。
悪くはないけど、とは言って、
「大人げない。」
にやりと、挑発するように笑った。
それが癪に障ったのか、それとも限界が今頃になってやってきたのかは分からない。
気がつくと彼女を引き寄せて、
ダン!!
細い裏路地に入り、その身体を板塀に押しつける。
痛い、という声が聞こえたかも知れない。
だけど彼女が抗議の声を上げるよりも前に、
「んっ」
その唇を己が唇で塞いで、奪った。
さきほど太一が彼女にしたのとは違って、
深く、熱く、そして凶暴な口づけ。
まるで全てを奪うように、沖田は口づけた。
隙間無く唇を塞いで、舌を絡めて、もういっそ誰とも絡められないように引っこ抜くみたいに強く吸う。
「ん、んんっ!」
びくっと身体が震え、の手が彼の肩を押しのけようとする。
抵抗を抑えようと、手を取って壁に縫い止める。
そうしてからもう一度、更に深く唇を合わせた。
自分との口づけを、
身体に教え込むみたいに。
「大人げ、ないっ」
「いいよ、僕子供で‥‥」
べろ、と伝った唾液を追いかけるように沖田は舌を滑らせる。
細い顎まで到達するとそのまま肌を追いかけ、首筋を舐る。
露わになった鎖骨までをなぞると、きつく、そこに歯を立てた。
「そ、うじ!やめっ‥‥」
口づけだけでは飽きたらず、男の手は帯に掛けられた。
しゅると嫌な音を立てて地面に落とされ、着物が僅かに緩む。
「ここ、どこだと‥‥」
「だから聞き分けのない子供だって言ってるじゃない。」
聞こえないねと沖田は言い、次第にその行為を大胆なものへと変えていった。
「あ、やめっ‥‥」
穿き物の下に手を滑らせ、早急に中心を弄られ、は喉を震わせて首を振る。
「だめ、ここ、外っ」
外だというのに弱い所を撫でられ声が上擦る。
「やめて、おねがっ」
懇願するような目を向けられ、男の劣情は煽られた。
「無理」
とまんないよ。
沖田は熱い吐息を漏らした。
「そうじっ、やっ」
指が体内に侵入してきた。
まだ湿り気を帯びていない為に、ひどく、痛む。
「だめ」
「やだ、いた‥‥」
「だめだって」
「ぬいてっ」
「だって」
沖田がこちらを見上げる。
いつもは同じようにどこか危険な色を浮かべるそこに、切望するような色が浮かんでいた。
その瞳で熱く求めるように、告げる。
「欲しいんだもん」
卑怯者――
そんな顔をされたら、断れないじゃないか。
「‥‥」
入れて良い?と今更になって聞いてくる。
もう勝手にしろとその首にしがみついてやれば、沖田が嬉しそうに目を細めて笑う。
嗚呼、自分はどこまで甘いんだろう。
だって仕方ないじゃないか、私は好きなんだからとは誰かに言い訳をするように呟く。
「ァっ――」
身を裂くような痛みに堪えながら、
私は、子供が好きなんだから、仕方ないじゃないか――と。
まるで子供
総司はヤキモチやきだと思う。
そしてはそれを笑顔で受け流しているといい。
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