「私の身体、おかしくなったかもしれない」
思い詰めたような顔で彼女がやって来たとき、とうとうあの男やらかしたか……と原田は焦ったものだ。
しかしその口から出てきたのは彼の事ではなく自分の身体の事で、
「おかしい……って具合でも悪いのか?」
茶を出しながら訊ねれば彼女はふるふると頭を振った。
身体の調子は悪くない。
でも、
「おかしいの」
おかしいのだ。普段通りではない。
「どこが……おかしいんだ?」
俯く彼女の顔を覗き込む。
と、どういう事だろう。
彼女の顔は仄かに赤く染まっていて、おや、これはどういう?
「この前、」
ぽつとが零した。
「土方さんの着物のにおいを嗅いでしまいました」
「………は?」
「それで気付いたら」
「………たら?」
は突然、突っ伏した。
「ぬ、濡れてたんです!!」
そんな事大声で言われても困るというものである。
苦悩は続くよどこまでも
何時の間にここは「駆け込み寺」になってしまったのだろう。
原田はそんな事をぼんやりと思いながらの前に新しい茶を差し出す。
先程まで突っ伏していた彼女の顔は、あんなとんでもない発言をしたせいだろう……真っ赤だ。
恥ずかしくて堪らなかったのだろう。ならば言わなければ良いものを、それでも黙っていられなかったのは彼女自身どうすればよいのか分からないからだ。
それが急激な変化だからこそ、なのだろう。
誰かに知恵を貸して欲しいのだ。
「……その、だな」
こほん、と原田は一度咳払いをする。
は縋るような眼差しを向けてきたが、彼もこればかりはどうにも出来ない。
出来れば助けてやりたいけれど、
「俺には何も出来ねえ」
彼にはどうする事も出来ない。
そうきっぱりと言うとの顔が悲しそうに歪んで、伏せられた。
大切な妹にそんな顔をさせたくはないけれど、でも原田に出来る事など限られているし、それでは彼女の悩みを解決してやる事は出来ないのだ。
ただ、これだけは言ってやれる。
「、それは当たり前の事なんだ」
決して、彼女の身体がおかしいわけではない。
そして彼女が淫らなわけでもない。
原田は困惑したように眉根を寄せる彼女に、ふわりと笑いかけた。
そんな情けない顔をする必要などはないと。
「惚れた男がいて、好きで好きで堪らねえならそうなるのが普通だ」
「……」
「自分の全てを与えたい、相手の全てが欲しい、そう心が思えば身体がそうなるのも当然の事なんだ」
そうして最後には一つに溶け合ってしまいたいと願うものなのだろう。
人を愛するというのはただ想うだけではないのだ。
想うだけで留まらなくなるものなのだ。
だから、
「おまえはなんにも恥じる事はねえ」
原田はこう言ってやるしかない。
そんな自分が、少しだけもどかしいなと思いながら。
「その気持ちを、土方さんに伝えてやれば良い」
好きで好きで堪らないと彼に伝えてやれば、彼の重い腰も上がるはず。
「あ、あの、土方さん」
帰宅するなりばったり出会った彼を前に、は顔を真っ赤にしながら想いを伝えようとした。
どう言えば良いのか帰る道中に考えていたのにいざ目の前にすると全てが吹っ飛んでしまって、何から言えばいいのか分からない。でも、何か伝えたくては必死で言葉を探す。
「あ、あのっ」
「な、なんだ」
その動揺が彼にも伝わるのか、彼も何故か言葉を詰まらせていた。
「その、あの」
「だから、なんだよ」
「だから、そのっ」
ぐちゃぐちゃになる頭の中、ばちりとまるでこれこそが正しいとの中で出てきた言葉が一つあった。
そうだ、彼への想いはこれに集約されているのだ。
「私、土方さんが好きです!」
「!?」
突然の告白にぎょっと目をひん剥く土方に、は一気にまくし立てるように言った。
「だから、私、土方さんになら何をされても大丈夫ですから!!」
祝言を挙げるまで、後三日。
「……あの馬鹿は、俺を狂わせるつもりかよ」
彼の限界まで……もう、間はない。
土方さんには弱った声で言わせたい!
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