「一って女の子、抱いた事ある?」
唐突すぎる言葉を受けて、斎藤は双眸を細めた。
怪訝そうな瞳を向けられ、質問をしたは苦笑を浮かべる。
「あ、別におまえが女を知らなさそうだなんて言ってないから。」
そんな心配してない。
斎藤は心の中で答えた。
そうじゃなくて、
「突然、なんだ?」
その質問は。
「いやー、なんていうかな‥‥」
ころころと、盃を指先で弄びながらは言葉を探す。 「おまえってあんまり女とかに興味なさそうじゃない?」
永倉や原田、藤堂みたく島原通い‥‥というわけでもない。
稀に島原に行ったとしても、一人で黙々と酒を飲んでいる事が多い。
女を買っている姿も見た事がない。
真面目人間‥‥を絵に描いたような男で、まあ、なんというか、正直女の影は薄い。
もしかしたら興味なんて皆無なんじゃないだろうか、とそこまで思わせるほどだ。
「‥‥男好き?」
「‥‥‥」
「あ、ごめん、おこんないで。」
睨まれてはごめんと謝った。
多分一瞥だけで彼女を謝らせる事が出来るのは彼くらいだろう。
素直に謝って、
でも、とは首を捻った。
「なんかさぁ‥‥興味なさそうなんだよね。」
女が。
というか、色沙汰に、だ。
「それを言うなら総司も、だろう。」
「まあそうなんだけどね‥‥
でも、総司の場合は、ほら、面倒くさいってだけでしょ?」
「‥‥そうだな。」
「一の場合は、興味ないって感じ。」
だからなんでそうなる。
いや、確かにさほど興味があるわけでもないのかもしれないが‥‥
しかし、彼も歴とした成人男子。
‥‥女を抱いた事くらい、ある。
「‥‥ぶっちゃけ、一が女の子抱いてる姿って想像できない。」
「それは‥‥どういう意味だ?」
「一が真面目すぎるのがいけないんだって。」
真面目すぎるのがいけないなんて言われたのは初めてだ。
斎藤はいささか憮然とした面もちでを見た。
「もうちょいさ‥‥新八さんや左之さんみたく遊んでみたらいいんだって。」
そんな彼に気付かず、彼女は言葉を続ける。
「いやでも‥‥あの二人みたく遊郭がよいってのは微妙かなぁ‥‥」
「‥‥」
「でさ、ぶっちゃけ、本当の話、女の子は好きなの?」
嫌いなの?
とまた、冒頭へと戻る。
これで彼が何の話だと聞けばまた同じような流れが続くのだろうか。
「好きだ」と豪語するには気が引ける。
しかし「別に」と答えればまた、は誤解をするのだろう。
ああ、そうか、それならば手っ取り早く明確に教えられる方法があった。
斎藤は気付いた。
「‥‥なら‥‥試してみるか?」
「は?」
は唖然とした。
顔を上げれば、いつも通り、無表情の彼がいて‥‥だけど、いつもよりも近い場所に彼がいて‥‥
いつもはまじまじと見る事のない、青い‥‥美しい瞳がすぐ傍まで迫っていて、
初めて。
彼の唇がのそれと重なった。
「や、うそっ‥‥」
嘘だ。
とは言って、歯を食いしばる。
そうしなければ、甘ったるい声を漏らしてしまいそうだったから。
こんな事起こるはずがない。
だって、相手は彼なんだから。
だからこんな事になるはずなんてない。
嘘だ嘘だと何度も口の中で呟くと、斎藤は視線だけを上げて、答えた。
「認めろ、これが、事実だ。」
淡々としたいつものそれではなく、少し乱れた音。
どこか上擦った声は今まで聞いた事のない、ひどく色っぽい色をしている。
彼の漏らす吐息のなんと熱いことか。
それが肌を滑るたびに、ぞくぞくと震えが走ってたまらない。
しかも、
それは敏感な腿の内側に触れるのだから、は声を殺すのに必死だった。
「堪える事はない‥‥存分に啼け。」
こんな事を言う男だっただろうか?
もしかしたら、これは斎藤の皮を被った別人なのではないだろうか?
は確かめるべく顔を上げ、そのままざぁっと音がするほど、青ざめて見せた。
さっきまで嘘だ嘘だと現実逃避をしていた為に、今何が起こっているのか分からなかった。
確かに、そこにいるのは、斎藤一‥‥本人だ。
しかし、
その行為はとてもとても、彼がするとは思えないもので‥‥
「な、なに‥‥やって‥‥」
ぱくぱくと金魚のようには口を開いた。
何。
と聞かれて斎藤は濡れた口元をぺろりと舌で拭った。
「見て分からないか?」
一瞬だけ、
分からなかった。
彼は舐めていたのだ。
の、下の唇を。
快楽に濡れ、男を誘う唇を。
舐めほぐしていたのだ。
驚きのあまり言葉を失う彼女だが、やがて我に返り、
「や、ばか!何考えてっ‥‥」
は慌てて身を捩る。
逃れようとした。
しかし、相手は男。
たとえ副長助勤であっても、は女なのだ。
力で叶うはずがない。
身を捩ろうとも、太股を押さえつけて、彼は再び唇をそこへ落とす。
「ひっ!」
ぴちゃと濡れた音を立てて、熱い舌が彼女のそこへと絡みついた。
唾液とは違う甘い女の蜜を啜り、ひくつく陰唇を貪る。
全体を丹念に舐ると、やがて‥‥ぷくんと膨らんだ花芽を歯で緩く噛んだ。
「ァああっ!!」
の口からはしたない声が上がる。
逃れようとしていた身体はのけぞり、じわり、と奥からまた蜜が溢れた。
それもまた、彼の舌によって舐め取られる。
ぞわぞわと背中が寒気とは違うそれで震える。
このままだとまずい。
かなりまずい。
は何か逃げ道はないかと考え、それから漸くここに至る事になった原因を思い出し、声を上げた。
「わ、分かった!」
分かったから。
と半ば涙混じりに声を上げる。
斎藤は言葉に、責め立てるそれを止め‥‥顔を上げた。
責めが止まり、ほっとしたのと同時に、中途半端に煽られた身体は疼いた。
それをは無理矢理無視をして、言葉を続けた。
「お、おまえが‥‥女が好きなんだって事は‥‥」
「‥‥」
「女を抱けるってのは分かった‥‥」
想像できないとか言って悪かった。
立派に彼は男たる部分を持っていた。
真面目で、そういう経験も少ないと思っていた為‥‥下手くそだと思っていたが、それも払拭された。
なんというか、
この男はきちんとした男だ。
うん、もう嫌というほど分かった。
「だ、だから‥‥もう‥‥」
もう止めにしよう。
とは続けようとする。
しかし、
「わかっていないな。」
斎藤は言葉を一つ零して、身を起こした。
離れるかと思いきや、一気に顔を寄せられ、が目を見開いた時には唇を合わされていた。
「んんっー!」
合わせた唇から舌先をねじ込まれる。
唾液とは違う、変わった味が口腔を満たして‥‥はその味が、自分の女の味なのだと気付いた。
それが恥ずかしくて、慌てて押しのけようとすれば、強い力で引き寄せられる。
舌を絡められ、吐息を奪われる。
苦しさに涙を浮かべれば、ぬるりと下の唇に熱い何かが触れた。
それは斎藤の男たる部分だ。
熱くそそり立つそれを、彼はの割れ目に擦りつける。
くちゅりと。
濡れた蜜が男に絡みつく音がひどくいやらしく聞こえた。
「ん、ん、ふぅ‥‥!」
男のそれが何度も割れ目を擦る。
その度に、散々弄られた芽までも撫でるのだからたまらない。
中途半端に煽られた身体はまた上り詰めていき、知らず、腰が揺れた。
はしたないと思ったが、止まらなかった。
「はっ‥‥」
やがて、上の唇は離れる。
半ば痺れて感覚のない唇を、最後、ぺろりと舐められ、は涙目を彼に向ける。
目の前には、
常とは違う、
斎藤の姿。
静かに燃える青い炎のような瞳は、男の欲で揺れ、
濡れた唇から零れる吐息は乱れ、熱い。
切なげに目を細めてこちらを見るのは‥‥
冷静沈着である三番組隊長の斎藤一ではなく。
ただの男である、斎藤一。
仄かに感じる男の色香に、は息を飲んだ。
「俺は‥‥女が好きなわけではない。」
と彼は言った。
女が好きだから、こんな事をしわたけではないと。
の胸はどきりと大きく高鳴った。
斎藤の青い瞳が、更に細められる。
切望するような、それに。
驚きの表情を浮かべた自分が映っている。
俺は、
と彼は大きな手を、の頬へと宛った。
「おまえだから‥‥抱いている。」
と。
それはつまり‥‥
彼が、
斎藤一という男が、
彼女、
というただ一人の女を求めているという事実。
普段は微塵も感じさせないその言葉に、は驚き‥‥
それ以上に胸を占める感情は、
愛しさ――
彼に対する、愛しさ。
自分の中で知らず、彼へと募っていた感情に気付いて、は苦笑した。
「‥‥なにゆえ‥‥笑う?」
ふとの口元に浮かんだ笑みに、自分の告白を笑われたとでも思ったのか、彼は眉根を寄せ、憮然とした面もちを浮かべた。
「‥‥や、すごい殺し文句って思って。」
悪戯っぽく目を細めて彼女は笑う。
「一って実は真面目な顔して、とんでもない女たらしだったんだな。」
くすくすと笑うと、彼の双眸は更に細くなる。
ごめんと、は素直に謝った。
しかし、僅かに拗ねたような色は消えず‥‥はそれさえ愛しくてたまらなくなった。
早く、
この気持ちを、
早く伝えてあげたくて。
男のしっかりとした首へと手を回す。
そうして、
「ん。」
斎藤の唇に自分のそれを重ねた。
触れるだけに留めて、顔を離す。
僅かに見開かれた瞳がこちらを見つめている。
「すき‥‥」
知らず。
優しい声が漏れた。
常の彼女からは考えられぬ、穏やかで、甘い、声。
「。」
「一がすき‥‥」
「‥‥」
「すき‥‥」
「俺もだ。」
重なる男の言葉と、強い力。
それでもう一度褥へと押しつけられ、唇が重なる。
何度も互いの舌を吸って、唾液を交わらせた。
首へと絡みついていた手を、そっと剥がされ、手を柔らかな布へと押しつけられる。
その手に大きな男の手が合わさった。
彼は彼女の手を取ると、慈しむようにそっと己の指を絡める。隙間なく五指を絡められ、は泣きたい気分になった。
「‥‥入れるぞ。」
熱い吐息の中、くそ真面目に断りを入れて、彼はいきりたった己を戦慄く唇へと押し当てた。
散々弄られたそこは、まるで待ちかねていたかのように彼を飲み込み‥‥奥へと誘う。
「んんっ‥‥」
内臓を押し上げられる感覚に、は呻きながら絡めた手へと力を入れる。
唇を噛みしめてやり過ごそうとしていたが、
「っ‥‥ああぁっ‥‥」
熱く蕩けた内部を、男の欲が遠慮無く擦り上げ、あられもない声が上がってしまった。
背を撓らせて、は目を細めて啼く――いい反応だ。
きゅっと締め上げるように内壁が狭まる。
「おまえの中は‥‥あついな‥‥」
は、と苦しげに吐息を漏らし、斎藤は奥歯を噛みしめた。
吐精しそうになるのをやり過ごしているようだ。
それからやや強引に奥へと腰を進めるのに、は涙目で彼を見上げて呟いた。
「一、だって‥‥アツイ‥‥」
火傷しそう。
と零せば、彼は小さく笑った。
俺もだ――と呟いて。
「ん、あっ、ぁあっ!」
容赦のない律動がを襲う。
ぐ、ぐと男の欲がねじ込まれるたびに、言いしれぬ快感が背中を走り抜けた。
生理的な涙を浮かべて見上げれば、男の顔も歪んでいる。
眉根を寄せて何かに耐えるように。
「はっ‥‥くっ‥‥」
零れる苦しげな吐息。
零れる汗がいくつも落ちてはの肌を濡らした。
繋がった場所からはどちらのものとも言えぬ熱い蜜が溢れ、褥を濡らしていた。
抽送は‥‥やがて、乱暴ともいえるそれへと変わっていく。
合わせていた指が解かれ、足を掴まれて大きく割られる。
まるで刺し貫くように、楔を何度も穿たれ、ぼろぼろと上と下から滴が零れた。
「あ‥‥はじめぇっ‥‥」
と、甘えた声が漏れた。
彼女が自分の名を呼ぶたびに、ひどく煽られる気分になるのだからたまったものじゃない。
とうに余裕は消え失せ、今はただ‥‥快楽を貪る獣と化すばかりだ。
「ぅぁ‥‥っつ‥‥」
掠れ上擦った声が斎藤の口から溢れた。
びくびくと、内壁が震えると同時に、雄も震える。
互いに限界が近い。
「っ‥‥すまない‥‥っ‥‥」
もう。
と斎藤の口から掠れた声が漏れた。
その直後、
ぐいと、今までよりも更に荒々しく腰を引かれ、
次の瞬間には、
ぐ――
熱い楔は最奥まで一気に押しつけられた。
「――ぁっ!!」
の目が大きく見開かれる。
背を撓らせ、ぎゅうと身体は一気に強ばり‥‥
「ぐっ‥‥」
震えた太股に、男の爪が食い込んだ。
どくん。
と内部で爆ぜるのが分かる。
いきおいよく男の熱い飛沫が、の奥へと叩きつけられた。
どく、どく、
とそれはいきおいを徐々に無くしながらも、後から後からの中を満たし、
やがて‥‥
「は‥‥ぁ‥‥」
彼女の身体は弛緩した。
どさりと背は褥へと沈んでいく。
まだ止まる事のない男の精は、の中に注ぎ続けられ、やがて溢れたそれが繋がった場所からとろりと溢れてくる。
「はじ‥‥め‥‥」
掠れた声で名を呼ばれて、応えるように唇を合わせた。
何度も啄むように触れて、
離れる。
「辛くはないか?」
「ん‥‥へいき。」
と答えて、は腕を彼の首に回す。
引き寄せれば乱された胸元がぴたりと合う。
柔らかな肉が己の固い胸へと押し当てられ、斎藤は僅かばかり身体を強ばらせた。
「もうちょっと‥‥こうしてて。」
そんな彼に気付いてか、気付かずか‥‥
はひどく幸せそうな声でそう呟いた。
斎藤はただ苦笑を零し、
「おまえが‥‥望むなら。」
その逞しい腕の中に、少女をそっと抱き込むのだった。
言葉より雄弁に
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