「抜かれるのと突かれるの、どっちがいい?」

  「‥‥なんかすごく嫌な予感しかしない質問なんだけど、突然なに?」

  危険すぎる質問に答えたくなかったので、卑怯だが質問返しをしてみた。
  の問いかけに沖田はひょいと片眉を器用に跳ね上げて、

  「そういう聞き方ってずるいなぁ。」

  などと呟く。
  何をいうか、狡いのはそちらの方だ。

  「何について訊ねられてるのか分からないのに答えられないだろ?」

  にやりとその言葉を受けて意地悪く返せば、そうだねと沖田は肩を竦めた。

  「じゃあちゃんと質問するかなぁ‥‥」
  「っておいおいおいおいおい、質問するのにどうして私を押し倒す必要がある!?」

  どさっと大きな身体にのし掛かられては為す術もなく下敷きにされてしまう。
  嫌な予感は一層高まった。

  「うん?
  だからちゃんと質問するのに必要な事だから。」
  男は言いながらそろりと人の帯へと手を伸ばす。
  ちょっと待て!
  は慌てて叫んだ。
  「言葉で言え言葉でっ!!」
  そんな彼女に、

  「こっちの方が手っ取り早い。」

  沖田はにこりと笑って‥‥解いた。



  濃密な甘ったるい空気が室内を満たしている。
  濡れた音が繋がった場所からひっきりなしに零れ、最初こそ雰囲気を台無しにする罵詈雑言ばかりを吐いていた唇も、今
  ではすっかり濡れて感じた甘い声しか出ない。

  火傷しそうなほど熱く、生き物のように蠢く胎内を堪能しながら沖田は薄らと笑った。

  「抜くのと‥‥突かれるの、どっちがいい?」

  ずる、とぎりぎりまで引き抜いて、
  再びずぶりと奥まで深く差し込む。

  固い切っ先が奥の壁を叩いた瞬間、その衝撃にびくりと身体が震える。
  意図せずきゅうと雄を強く締め上げ、沖田はうっとりとした表情で呟いた。

  「‥‥やっぱ、突かれるのがいい?」

  彼女の反応を見る限り、そちらの方が感じるのだろう。
  そう言葉にするが、は悔しげに唇を噛みしめて、ぶんぶんっと首を横に振った。

  「ど、どっちも、き、らいっ!!」

  誰が素直に答えてやるもんかと吐き捨てる。

  付け加えて言うならば沖田の事は大っ嫌いだと心の中でだけ叫んだ。

  「素直じゃない子は‥‥好きじゃないなぁ。」

  彼女の反応に沖田は不満げに目を細め、

  「っ――!?」

  ずるっと、一気に雄を引き抜いてしまう。
  一気に肉壁を擦られる感覚には息を詰めた。
  まさかこのまま止めるつもりかと不安げに視線を向ければ、

  「っちょ‥‥っ」

  その手を掴まれて導かれた。
  今し方まで、自分の中に埋められていたそれへ‥‥

  「!?」

  両手で包み混むように濡れたそれへと指を絡まされ、沖田は自分の手よりも小さなそれを包み込んだまま、
  「っ」
  己の手を上下に動かす。
  勿論同時に‥‥の手も。

  「そ、総司!やめろっ、なに考えてっ‥‥」

  ぐじゅぐじゅと手の中で濡れた音と感触がする。
  離そうとするけれど沖田の手はそれを許さない。
  まさか、手淫をさせられるとは思わなかった。
  しかも、
  自分一人だけ気持ちよくなろうとするなんて‥‥

  「だって‥‥がいやだって言ったんでしょ?」

  中途半端に煽られ、焦らされた身体は熱と疼きを持てあましている。
  非難めいた視線を向ければ、沖田はしれっとそんな返事をしてのけた。

  嫌だというから、止めたんだ‥‥とでも言いたげに。

  「‥‥ひ、ひど‥‥」
  「酷いのは、の方だよ。
  僕は気持ちよくしてあげたいだけなのに‥‥」
  言いながら沖田は自身の敏感な部分を彼女の指で刺激する。
  ぞくぞくっと背筋が震えた。

  自分が悪いと言われては奥歯をぎりっと噛みしめる。
  そもそも突然こんな事をしでかしたそっちのせいじゃないか‥‥どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのだ。
  と、こう思うのだけど‥‥

  「‥‥反論、ある?」

  熱っぽい、翡翠の眼差しを向けられて‥‥
  はうぐ、と言葉に詰まってしまった。

  その眼差しの奥に、切望するような色を見てしまったから。

  自分が欲しくて欲しくて堪らないと言う彼の気持ちが見えてしまったから。

  そんな目で見るなんて‥‥狡い。
  は思った。

  もう嫌だなんて‥‥言えないじゃないか。

  「‥‥‥」

  は唇をきつく噛みしめて俯く。
  赤く唇を色づかせ、困ったように眉根を寄せるその様に、どうしようもなく劣情を煽られてしまう。

  「‥‥ね、もう意地悪しないから答えて。」

  そ、と髪に隠れてたこめかみに唇を落とす。
  ちぅと軽く吸われるだけで背中まで痺れが走って、はしたなくもは甘い声を上げてしまった。

  「総司‥‥」

  欲しい、と濡れた瞳を向ければ沖田はそれをしかと受け止めながら再度、問うた。

  「抜かれるのと、突かれるの‥‥どっちがいい?」
  「‥‥私‥‥は‥‥」
  「意地悪したいんじゃないんだ。」

  恥ずかしさに視線を落とす彼女に沖田はただ、と言った。

  「のこと、気持ちよくしてあげたいだけ。」

  彼女の喜ぶことをしてあげたいだけなのだと‥‥
  そんな事を言われては、女は白旗を挙げるしかなかった。

  「‥‥のが‥‥いい。」

  ぼそぼそ、と小さな声で言う。
  なに?
  と沖田が優しく問い返せば彼女は、だから、と怒ったような声を上げ、すぐに声の大きさは小さくなる。
  だけど、しっかりと、彼には聞こえる音で、

  「突かれる‥‥方が、いい。」

  そう、白状する。

  言葉を受けて‥‥沖田は心底嬉しそうな顔で笑った。
  ふわりと綻ぶ表情に、きゅうっと女心は鷲掴みにされる。

  ああもう、どうなってもいい。
  そう思えるほど‥‥彼の笑顔は眩しくて、愛おしかった。

  「じゃあ、いっぱい突いてあげるから。」

  沖田は言うや否や、手を離して再び濡れそぼった女の入口へと雄を宛った。
  彼女が息を吐く間も与えずに、
  ぐじゅ――
  「っ――!?」
  最奥まで一気に貫く。
  散々焦らされた身体はそれだけで歓喜に打ち震えた。

  一瞬、苦しさに呼吸が止まったけれど、それはすぐに無理矢理嬌声となって音が吐き出されることになる。

  「あっ、ぁあっ‥‥」

  彼はが望んだ通り、奥を執拗に突いた。
  ぐりぐりと亀頭で子宮の入口を強く擦られて、喉の奥から声がせり上がってくる。

  「んぁあっ‥‥あ、ぁああっ」
  「、気持ちいい?」

  唇を震わせて切なげな表情で虚空を見つめる彼女に、沖田は優しく問いかけた。
  声にはもう余裕はない。
  ぐりぐりと押しつけられる亀頭が打ち震え、びくりと先走りを零しているのが分かった。
  焦らされたのは彼も同じだ。

  「んっ、い、いぃっ‥‥」
  は何度もこくこくと頷きながらその背中にしがみついた。
  「うん、僕も‥‥」
  気持ちがいいよと男は背中をしかと抱き、か細い吐息を漏らす。

  世界が曖昧にぼやけていくのが分かる。
  苦しくて気持ちよくて、
  切なくて、愛しくて、
  よく分からなくなってきた。

  「そっ‥‥じっ‥‥」
  泣き出すみたいな声では名を呼んだ。
  そうすれば応えるような優しい口づけが与えられた。
  何度も啄み、舌を絡め、また離れて、重なって‥‥

  「ん、ぁ、っ――」

  もう何もかもが分からなくなったその時、
  一際熱い何かが身体の内で爆発したのが分かった。



  「僕も突く方が好きだよ。」
 「あ?」
  布団に突っ伏すの横で、沖田は何故か嬉しそうにそんな事を言った。
  正直指先一つ動かすのも億劫なくらい疲弊しきっていたが、言葉になんとか顔を上げる。
  沖田はにこにこと笑っていた。
  「抜く瞬間に、の中が引き留めるみたいにきゅうって締まるのもいいんだけど‥‥」
  なんの話かと問いかける間もなく紡がれた言葉。
  「でもやっぱり、の一番奥を突いた時の僕のを引きちぎっちゃいそうなくらい強い締め付けの方が‥‥
  気持ちよくて好きだからね。」
  そのあまりに卑猥な言葉に、

  「やっぱり嫌い。」

  は憮然とした面もちで言うのだけど、男はあははとからりとした笑いを漏らすばかりだった。


  
好み



  総司は卑猥な言葉を羅列する男だと思う。