【斎藤一 甘】

  「一、ちょっと力を貸してくれない?」
  は、斎藤を手招きした。
  呼ばれるままに近付けば、彼女の片手にそれを見つける。
  ぴいぴいと元気に囀る雛の姿だ。
  春になって孵った雛なのだろう。
  人のにおいがつかないように、真新しいサラシに包まれている。

  「それは?」
  「あそこから落ちたらしい。」
  は上を指さす。
  見れば高い木の上に鳥の巣らしきものが見えた。
  そこから落ちたのだとは言った。
  返してやりたいのだが、

  「届かないんだよね。」

  手を伸ばしてみても、飛んでも届かない。

  木によじ登るのは簡単だが、それでは雛を潰してしまいかねない。
  ということで、
  「力貸して。」
  は斎藤に助力を乞うたというわけだ。
  普段敵を容赦なく切り捨てている副長助勤が、雛を巣に戻してあげたい‥‥というのはなんとも似つかわしくない
  気がする。
  しかし、この女は気がつけば猫やら犬やらに餌をあげてたりする事が多かった。
  こっそり飼っているのをよく見つかって怒られている姿もよく見た。
  曰く、
  小さなものを見るとなんとかしたくなる、
  らしい。

  「それで、何をすれば?」
  斎藤は訊ねた。
  届かないというのであれば、台にでもなれというのか。
  「肩車なら届くと思うんだ。」
  「心得た。」
  「ってことで、はい。」
  と雛を手渡される。
  何故手渡されるのかと眉を寄せれば、彼女は至極真面目な顔でこう言い放った。

  「私が下で支えるから、一が上に乗って。」
  「‥‥」

  瞬間、斎藤は変な顔をした。

  が下になって、自分に乗れと。
  つまり女の上に、男に乗れと。

  「普通は逆だ。」

  変な顔のまま、呟くと彼女はそうかなと首を捻った。

  「やっぱ手伝ってもらうからには私が下の方がいいんじゃない?」
  どうしてか、彼女は少し人とずれている。
  斎藤ははぁとため息を零した。
  「俺が支える。」
  お前が乗れと言うと、彼女はええと声を上げた。
  「私重たいよ?」
  「‥‥‥」
  自分をなんだと思っているのか。
  女一人抱えられないほどのひ弱な男だと思われているのだろうか。
  いやそれ以前に男だとちゃんと分かっているのか、この女は。

  「乗れ。」
  憮然とした面もちのまま、しゃがむ。
  反論は許さない‥‥という響きに、は冗談が通じなかったかと苦笑を漏らした。

  「後で腰やられても知らないからな。」
  別に彼をひ弱な男だと思った訳じゃない。
  ただ、は子供ではない。
  確かに女だが、大人は大人だ。
  男よりも脂肪が付く‥‥これは悔しいことだが。
  「‥‥」
  しかし一瞥されるだけで反論はない。
  仕方ないなぁとは一つため息を零して、言われるままに俯く男の頭を跨いで、肩に乗った。
  斎藤は無言で立ち上がった。
  体重が掛かった瞬間、ふにゃと思っていたよりも柔らかな感触に驚いた。
  「わっ!?」
  突然立ち上がるものだから、は声を上げ、慌てて彼の頭を掴む。
  ぶちと嫌な音がした。
  雛を取り落とすことはなかったが、彼の髪を抜いてしまった。
  思わず、
  「ごめん。」
  は謝る。
  斎藤は答えない。
  これは相当怒らせたようだ。
  は困った顔で、とにかく雛を巣へと戻すべく身体を伸ばした。

  ぴいぴいと、雛は巣へと戻ると嬉しそうに鳴いた。

  「‥‥任務完了です。」
  は斎藤に言う。
  しかし、男は彼女を下ろす気配がなかった。
  「えぇと‥‥一さん?
  下ろしていただけません?」
  あまり斎藤を怒らせる事がないだけに、は対応に困る。
  どうすれば宥められるのだろうかととにかく丁寧に下ろして欲しいと言うと、脚を支えていたその手がそうっと
  上へと滑ってきた。
  「っ!?」
  ぞわぞわと嫌悪ではない震えが駆け上がり、はぎょっとする。
  男の手は履き物をまくり上げて、太股までめくる。
  白い腿が露わになり、そこで漸く手を止め、

  ちゅ、

  唇が触れた。

  「っ!!」

  食むようにきわどい所に口づけた男は、僅かに染めた目元を細めて、告げる。

  「まるで綿のようだ。」

  それは体重の事か、それとも太股の事か。
  には分からなかったが、なんだか無性に恥ずかしくなってべしりと男の頭を叩いた。

  「降ろせ、この助平っ!」

  そう言われた瞬間、
  斎藤が浮かべた表情はまさに見物だったとは後々、思う。

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  斎藤さんはただ触りたかっただけです(笑)
  ほら耳朶事件がありましたので、やっぱり斎藤さんも男の人なんだなぁと‥‥
  というか、無意識とか、この人魔性の変態やん(超失礼)
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【土方歳三 ギャグ?】

  「土方さんって、5月5日生まれなんですよね?」
  「‥‥ああ?それがどうした。」
  の問いにかわいげのない男の返事。
  そんな反応に気を悪くした風もなく、は首をひょいと捻った。

  「5月5日って‥‥端午の節句ですよね?」
  「‥‥ああ」
  「端午の節句って、確か男の子の健やかな成長を祈願するんでしたよね?」
  「何が言いてぇ?」

  途端低くなる男の声に、はにやりと目を細めた。

  「端午の節句。」
  「‥‥‥」
  「土方さんが男の子の成長祈願する日に生まれた‥‥」
  「‥‥‥‥」
  「‥‥」
  「似合わねえって言いたいならはっきり言えよ。」

  不機嫌な声に、はそんな事言いませんよと首を振った。

  ただ、
  そう、ただ、

  「そんな悪党みたいな顔の人が、健やかな男子の成長を祈願する日に生まれたっていうのはどういう嫌がらせ
  なんでしょうね?」


  無言ですらりと兼定を引き抜く彼に、はやはり笑顔で、

  「土方さん、私闘は厳禁ですよー」

  と言って走り出すのだった。

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  土方さんの誕生日に書いたのに‥‥あほな話になりました(笑)
  副長、愛してるんだよ←これでも
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【斎藤一 シリアス】

  沖田が労咳だと分かった夜。
  彼が、死病にかかったのだと分かった夜。

  彼の悪友は‥‥ただ「あの馬鹿が」と苦笑と言葉を零した。


  「。」
  庭先に一人佇む姿に気付いて、斎藤は声を掛ける。
  月明かりさえ照らさない闇の中、まるで彼女は闇に溶け込むかのように、静かに立っていた。
  「‥‥」
  彼女は振り返り、声を掛けたのが斎藤だと気付くと、その目を一瞬眇めた。
  それは咎めるようなもので、彼はすぐに彼女が何を言いたいのか分かった。
  「すまなかった。」
  謝れば、
  「なにが?」
  僅かに突っ慳貪な返事があった。
  彼女にしては珍しい反応だ。
  「怒っているだろう。」
  俺が、と彼は言葉を切る。
  ひゅうと風が吹いて、彼の闇色をした髪をゆらした。
  「総司のことを黙っていたこと。」
  「‥‥」
  は黙した。
  ただ、目を眇め、不機嫌を露わにする。

  彼女が不機嫌な理由は、彼が口にしたそれだ。

  斎藤が、沖田の事を黙っていた事。
  彼が、
  労咳であることを黙っていたのが、
  気に入らなかった。

  は前方へと視線を向けたまま、
  「土方さんにも黙ってた。」
  と言い放つ。
  本来、隊内で何事かが起きた場合は局長、ないし副長に報告する義務がある。
  生死に関わる事ならば尚更、だ。
  それを、

  「黙ってた。」

  は咎めるような口振りで言う。

  「どうして黙ってた?」
  「‥‥それは‥‥」
  余計な心配を掛けるべきではないと思ったから、と彼は心の中で応える。
  はそれを見越して続きを紡いだ。
  「それでも上には伝える義務があったはずだ。
  それに、おまえが黙っていた所でいつか露見した。」
  「‥‥」
  確かに、と彼は拳を握りしめる。
  彼の労咳は治らない。
  それどころか、
  「悪化して、もっと酷い状況になって伝えた所でこちらは手の打ちようがないだろう。」
  の言うことは尤もだ。
  勿論、労咳を治す方法などないのだけど、彼がそうだと知っていたら、もっと養生させて‥‥進行をくい止められた
  かもしれない。
  あくまでこれは、仮定の話だけど。

  ふ、と溜息が零れた。
  が笑ったようだ。

  「おまえは‥‥もっと賢いと思ってた――」

  嘲りさえ滲ませた声に、斎藤は顔を歪めた。
  しかし、それは辛辣な言葉に対して悔しいと思ったわけではなかった。
  彼は、
  苦しいと思ったのだ。

  「だから‥‥言いたくなかった。」

  辛辣な言葉を口にした女は、
  しかし、
  今にも泣きそうな顔で、地面を見つめていた。
  噛みしめた唇が、微かに震えているのが分かった。

  斎藤は眉を寄せた。

  だから、言いたくなかったと彼はもう一度言った。

  「おまえに、そんな顔をさせるから。」

  だから、言いたくなかったのだと――

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  「それならばいっそ、泣いて詰ってくれ」
  と彼は願う。

  優しい彼の話。
  きっと彼は八つ当たりも許してくれる。
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【山崎烝 ギャグ】

  「山崎君って、の事、好き?嫌い?」

  沖田の前触れもない質問に、諸士調役兼監察方山崎蒸は、僅かに目を細めただけだった。

  犬猿の仲である沖田が山崎に声を掛けることは少なかった。
  珍しい事もあったものだが、これはやはり嫌がらせに違いないだろう。
  唐突なのはこの際置いておくとして、その問いはどうだ。

  「自分が、副長助勤を?」

  好きか、嫌いか、だって?

  不審そうな目を向ける彼に沖田はひょいと肩を竦めて、
  「好奇心だよ。」
  と答え、続ける。
  「だって、山崎君は僕のこと好きじゃないでしょ?」
  好きじゃないどころか、苦手だ、と山崎は心の中で答える。
  まあ、沖田も同じ事を考えていることだろう。
  にとその瞳が意地悪く細められたから。
  「それって僕が土方さんに対してああだから、だよね?」
  彼が副長至上主義だというのは知っている。
  そんな彼を小馬鹿にしたような沖田の行動は、さぞ山崎を苛立たせていることだろう。
  それが彼を嫌う原因だと沖田は思っている。
  それ故に、沖田も山崎が好かない。
  まあ、土方至上主義の前に彼の細かい性格が合わないと言えばそれまでだ。
  山崎は答えなかったが、概ねそんな所だろう。
  ならば、
  と沖田は言う。

  「僕とそっくりなの事は、どうなのかなぁと思って‥‥」

  副長助勤と沖田一番組組長は、よく似ている‥‥というのは誰もが認める事だ。
  それは山崎も知っている。
  へらへらとしている所も似ているし、実は獰猛で、誰より危険な思考の持ち主だという事も。
  それに彼女もよく土方をからかっては怒られていた。
  まあ、沖田ほど幼稚な悪戯はしないにせよ、怒鳴られている回数はきっと同じだ。
  ある種、副長の悩みの種の一つだろう。

  しかし、

  山崎はさらりと答えた。

  「副長助勤の事は、尊敬しています。」

  と。

  「どうして?」
  沖田は目を眇めて問いかけた。
  僕とは同じような事をしているのに?と言えば、彼は首を緩く振った。
  否、と答えたのだ。

  「副長助勤は、副長をからかいはしますが」
  そして、一番組組長その人を目の前にして、こう言い放つ。

  「仕事は真面目にこなされる、とても有能な方ですから。」

  「それ‥‥僕に喧嘩売ってるって事で合ってるかな?」

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  山崎君VS総司
  三剣の中では山崎はさらりとこういう事を言うイメージ。

  山崎君はのことを尊敬しているようです(笑)
  曰く。
  「助勤が副長をからかうのに、悪意は感じません」
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【斎藤一 甘】

  ふわふわと風に吹かれるたびに揺れるそれを、は横目で見た。
  ふわふわと、なんだかやけにのんびりと揺れるそれは、まるで綿のようだと思った。
  もしくは、雪。

  「なんだ?」
  視線を感じて男は訊ねる。
  短い問いに、はそれ、と指さした。

  彼の首元でふわふわ揺れるそれを指して、

  「寒さよけ?」

  と問う。

  そうなのだ、昔から気になっていた。
  斎藤の首に巻かれた白い襟巻き。
  それは細長い一枚の布だ。
  勿論、何の変哲もない。
  彼はそれを冬といえど、夏といえど構わず首に巻いている。

  寒さよけ‥‥というのはきっとはずれだろう。
  とりあえず思いついた言葉を口にしてみただけだ。

  「‥‥寒さをよける事もあるが‥‥」
  斎藤はきまじめに答える。
  「顔を隠すために使うこともある。」
  「ああ‥‥」
  なるほど、とは呟く。
  確かに目の前の男は間者として動くことがある。
  あまりおおっぴらに人に顔を覚えられるのは避けたい所だし、万が一自分の顔を覚えている人間とすれ違った際には
  困る。
  そんな時、顔の半分でも隠せば凌げるというものだ。
  なるほど。

  「てっきり、隠したいものは別にあるのかと思った。」
  「例えば?」
  悪戯っぽく呟くので斎藤は訊ねてみた。
  そうすれば、とん、と女は彼の白い布に隠された場所を突いて、
  「誰かの痕‥‥とか?」
  そう言って笑う。

  首筋に残る誰かの痕。
  それは即ち、情交の痕の事を言うのだろう。

  斎藤は目元を僅かに染めて、視線を逸らした。

  「からかうな。」
  そんなはずはないだろうと呟く彼に、は笑う。
  「わかってるよ。」
  勿論、と答えた彼女に男は半眼で睨み付けた。

  「ちょっと解いていい?」
  「‥‥ああ」
  断りを入れて、は手を伸ばす。
  解きやすいように少しだけ顔を下げれば、彼女のほっそりとした腕が首の後ろへと回った。
  まるで抱きつかれるようだと少し鼓動が跳ねる。
  そんな事に彼女は気付かず、はらりと白い布が彼女の手の中へと舞い落ちた。
  「ふぅん‥‥」
  それを広げて、翳してみる。
  思ったよりも薄いものだとは思った。
  なるほど、これでは寒さは凌げない。
  そして夏はそれほど暑くないのかもしれない。
  「こんな感じ?」
  顔半分を彼女は覆ってにやりと笑った。
  自分が常に身につけているものを、女‥‥それも好いた人間に身につけられるというのはなんとも気恥ずかしく
  もあり、変に緊張するものだと斎藤は笑う。
  「ああ、そう、もうすこし。」
  彼は言って、手を伸ばしの首の後ろへと回した。
  ふわりと、普段はあまり感じる事のない、男の温もりを感じた。

  ふいに、

  は身を乗り出す。

  そうっと、
  白い布越しに女の唇が触れた。
  「っ‥‥」
  白い布越しに交わされたのは口づけだ。
  それをどこか痺れて思考が動かなくなる頭で認識する。
  小さな手が頬を包んだ。
  触れた唇が、僅かに離れた。
  しかし完全に離れる前に、彼女は位置をずらして、
  「んむ‥‥」
  男の柔らかな下唇を食んだ。
  やわやわと、どこか強請るようなそれに、ぴりと甘い痺れが身体を駆け抜ける。
  男は堪らず目を瞑ると、
  「っ――」
  どさりと彼女を引きたおした。
  「あっ」
  小さな戸惑いの声が上がるのも気にせずに、唇から舌を差し込む。
  白い布ごと、女の口の中へと。
  「っん‥‥」
  普段とは違う感覚には呻いた。
  しかし、差し込まれた舌を、布越しに感じて必死に応えるように絡める。
  僅か一枚の布の隔たりとはいえ、彼らにとってはひどく邪魔な存在に感じると共に、その隔たりにひどく、興奮した。
  まるで許されない恋でもしているかのような背徳感に、背中が震えた。


  「‥‥」
  やがて男は白い布を銜えて唇を離す。
  互いの唾液で汚れたそこは、色が変わっていた。
  気恥ずかしくては誤魔化すように笑った。
  「汚れちゃったな‥‥」
  男はぺっとそれを吐き出すように放った。
  「かまわん。」
  濡れた瞳を向け、もう一度、との距離を縮める。
  男から感じる明らかな情欲には「だめだって」と小さく告げた。
  それを閉じこめるように唇を合わせると、少し離れて、
  「先ほどのものでは‥‥足りなかった。」
  拗ねたような響きを湛えて、男は強請るように柔らかな唇を舐め、舌先を滑り込ませた。

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  斎藤さんはナチュラルに暴走キャラだと思う。
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