おまえは可愛い女だな――
その言葉に、ひどい違和感を覚えた。
その言葉は、自分には似合わないと思った。
「私、可愛くないと思う。」
唐突にどうしたのかと思う一言に、土方は眉を寄せる。
「私‥‥全然可愛くないと思うんです。」
もしや拗ねているのか‥‥いや拗ねさせるような事はしていないけれど‥‥と思ったが、彼女は違った。
なんとも納得いかないという感じの表情で、何度もしきりに「私は可愛くないと思う」と呟くのだ。
「‥‥突然なんだ?」
藪から棒に、と問いかければ視線がこちらへと向けられる。
「前々から思ってたんですよ。」
彼が、自分の事を『可愛い』というたびに思っていたのだと彼女は言った。
「可愛い‥‥っていわれるのは不服か?」
貶しちゃいねえぞと土方が言うと彼女はそうだけどと唇を尖らせた。
「私に可愛いっていう言葉は似合わない気がするんです。」
自分でも、かわいげのない性格をしているというのは分かっている。
とはいっても自分を卑下したいわけではない。
ただ、
自分をそう表現するのは違和感があると思うのだ。
昔から「綺麗」だの「男前」だの「格好いい」とはよく言われたが‥‥
「可愛い」
は彼しか言わない。
加えて言えば、の言うところの「可愛い」は自分とはかけ離れた存在だった。
「ほら、お茶屋の秋ちゃんとか‥‥反物屋の小春ちゃんとかは可愛いと思うんですよ。」
自分の思う『可愛い子像』を挙げると土方はなんとも言えない顔になった。
「あと、可愛いっていえばやっぱり千鶴ちゃんとか!」
「おまえ‥‥そりゃ背丈の小さい女の事を指してねえか?」
指摘には一瞬きょとんとした顔になる。
彼女が挙げた女の容姿は、全て、小柄で、華奢だ。
「おまえの言う可愛いってのは小せえ奴を指すのか?」
確かには背が高い。
標準的な女性の身長からすれば、抜きんでている。
「いや、別に大きさだけの問題じゃないですよ?」
は違うと首を振った。
それだけじゃない。
彼女が先ほど挙げた女性たちは全て‥‥身長も可愛くて小柄なら、その性格も、行動も可愛いのだ。
強いて言うならば、
「そう、守りたくなるような感じ。」
だから、自分は可愛いという表現は当てはまらない。
少なくとも、喧嘩を吹っかけられて返り討ちにしてしまうような自分は‥‥可愛いに属さない。
「‥‥」
そう結論づけると土方は眉間の皺を解き、をじっと見下ろした。
「‥‥なに、文句でもあるんですか?」
自分の言っている事に文句でもあるのかと言いたげにはひょいと片眉を跳ね上げて男を睨み返す。
男は応えなかった。
ただじっと見つめ続ける。
「‥‥な、なんですか‥‥」
なんか言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃないか、と唇を尖らせて不満げに訴える。
彼女の言いたいことは分かった。
それが彼女の言う可愛いというのは認めよう。
だが、こちらを睨み付けるその姿は‥‥残念ながら、
「おまえ、やっぱり可愛いな。」
残念ながら――可愛い。
「っ!?」
至極真面目な顔でそんな事を言われ、は呆然としたように口を開けて、頬を染める。
「め、目ぇ悪いんじゃないですか!?」
照れ隠しなのか、そんなかわいげのない事を言って視線をぷいと背けてしまう。
いや、その動作がまず可愛いだろうが‥‥と男は内心で呟いたが、これはきっと所謂あれだ。
「惚れた欲目。」
だから何をしても彼女が可愛く見えてしまうのだろう。
かわいげのない態度を取られても、憎まれ口を叩かれても‥‥
しかし彼女はまだ納得がいかないようで、
「‥‥可愛くないもん‥‥」
横を向いてぽそっと呟かれた言葉に、男はぷっと噴き出してしまう。
「あ、ひどい!笑った!」
「ようはあれだろ、おまえ‥‥可愛いって言われて照れてる‥‥」
「わー!違う違う!!照れてなんかない!!」
「ああそうか。照れてんのか‥‥やっぱりおまえ、かわい‥‥」
「もういい!何も言わないで!!」
えいっと思い切り胸を押しのけて、は脱兎の如く逃げ出した。
その後ろ姿を苦笑で見送りながら男はやはり思うのだ。
「やっぱり誰よりも、可愛いって――」
そんな男の惚気は、春の空に吹かれて、消えた。
恋は盲目?それとも真実?
リクエスト『副長と甘いお話』
これが三剣の甘さの限界か!!
副長に「可愛い」って言わせたかったんです!!
臆面も無く可愛いって言わせたかったの!!
‥‥いやぁ本当、甘い話って難しいですね(苦笑)
なんだかんだって副長は恥ずかしい台詞を照れる事
なく言えちゃう人なんだと思うんですよね。
でも相手の反応によって逆に攻撃くらったりするの。
たまに反撃食らって悶えてるといいなぁ←
そんな感じで書かせていただきました♪
リクエストありがとうございました!
2011.3.5 三剣 蛍
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