「おまえ達は仲がいいよな。」

  誰かが僕とを見て言った。
  仲がいいと。
  そう言われて僕たちはいつも、顔を見合わせて笑う。

  僕たちは気がついた時から一緒に馬鹿ばかりやっていた。
  喧嘩も良くしたし、悪いことはいつもと一緒だった。

  いい喧嘩相手だと思ってる。
  口も、剣術も、とならいい勝負が出来る。

  気を遣わなくてもいいから、一緒にいて苦にならない。
  まるで空気みたいだと思う。
  だから気がつくと一緒にいた。

  「おまえも年頃なんだから、遊びの一つでも覚えたらどうだ?」

  と言われたとき、僕は面倒くさいと思った。
  見ず知らずの女と寝るくらいなら、と一緒に居る方がいいに決まってる。
  そう言った僕を、は苦笑で送り出した。


  酒と白粉のにおいが充満する部屋に、一人押し込まれた。
  やってきた遊女は僕よりも十ほど上の女の人。
  艶めいた黒髪と、濡れた瞳がやけに印象的だった。
  綺麗な人だと思った。

  だけど、
  の方がいいと思った――



  「‥‥お酒くさい。」
  迎えるなりが苦笑を漏らす。
  「随分飲んだ?」
  「うん‥‥多分。」
  お酒美味しかったよと答えると、は僕の顔を覗き込んで、
  「その割には面白くなさそうな顔。」
  と言った。
  遊郭に行ったというのは彼女も気付いたはずだ。
  酒よりも強い、
  白粉のにおいが僕の身体にまとわりついていたから。

  「‥‥不機嫌?」
  「気持ち悪い。」
  ごしごしと唇を袖で拭う。
  袖に、赤い紅がついた。
  あの女のだ。
  「気持ち悪いって‥‥そりゃ、相手に失礼だろ。」
  「だって、気持ち悪いんだよ。」
  僕は不満げに唇を尖らせた。

  何がいっとうの美人だ。

  顔は確かに綺麗かも知れないけど、
  あのにおいも、声も、体温も、
  ただただ気持ち悪いだけ。

  「知らない人の肌がこれほど気持ち悪いとは思わなかった。」
  と呟くと、は目を丸くした。
  「‥‥なに、じゃあおまえ何もしないで帰ってきたの?」
  「うん。」
  だって、あの女じゃたたなかったもの。
  と心の中で答えれば、彼女は呆れた顔で、一つため息を吐いた。
  「なに?立派な侍になるには女を抱いてないといけないとかそういうのあるの?」
  「いや、ないけどさ‥‥」
  じゃあ何さ?
  「‥‥少しは色んな事経験した方がいいってんで、左之さんたちも総司を連れ出してくれたんだろ?」
  「別にいいよ。
  女なんて抱かなくても。」
  死ぬわけじゃないし。
  と言うと、は心底呆れたって顔をした。
  「そういう問題じゃ‥‥」
  がしがしとは頭を掻く。
  「経験の一つとしてしておくのもって事だろ?」
  「いいよそんな経験。」
  しなくていい。
  と言うと、は困ったような顔をした。
  「そっか‥‥」
  だけど、それ以上言わなかった。

  そうしてまた、読みかけの書物へと目を落とした。
  ぺらぺらと頁をめくる音だけが響いた。
  僕はその背中に自分の背を寄せた。
  は‥‥逃げなかった。
  ふわりとまとわりつく白粉のにおいをかき消すように、甘い花の香りがした。
  の、香りだ。
  いい、においだと思った。


  「の方が、いい。」
  ふと、言葉を口にした。
  「なに?」
  が視線を上げる。
  僕はぼんやりと月を見上げたまま、もう一度口を開いた。
  「さっき‥‥思ったんだ。」
  さっき。
  見知らぬ女が僕の前で脚を開いたとき。
  思った。

  「綺麗な女の人だったけど‥‥」

  だけど、

  「の方がいい。」

  僕のために着飾ってくれなくても。
  刀ばかりを振り回して女の子らしくなくても。
  それでも、

  の方がいい。

  「‥‥どうして?」
  と聞かれて、僕は月から視線をそちらに向ける。
  がこちらを見つめていた。
  驚いた風ではなく、ただ純粋に答えを求めるように。

  「どうして私がいいと思った?」

  真意を探るそれは‥‥誰にも汚せない綺麗な色だった。
  そのとき初めて、僕はが綺麗だと思った。

  「は‥‥僕を許してくれるから。」

  いいや、綺麗だと、認めた。



  ぱさりと衣擦れの音が控えめに聞こえた。
  だけどそれよりも耳に届くのは、
  「ん‥‥」
  小さく漏れる彼女の声。
  唇を吸う合間に、時折漏れるの声だ。
  「、口開けて。」
  「‥‥はっ‥‥」
  言われるままに彼女の唇が開く。
  そこに舌を滑り込ませれば、僕の肩に添えられた手に力がこもった。
  舌を絡めて、強く吸う。
  「んんっ。」
  くぐもった、少し上擦った声が耳に届いた。
  じんと、
  脳天までしびれが走った。

  『は、僕を許してくれるから』

  答えになっていない答えを言って、僕は彼女の唇を奪った。
  きっと、は初めての。
  はり倒されたらどうしようかと思ったけど、はただ黙って、瞳を閉じた。

  ひどい人間だと。
  自分の事を思った。


  唇を合わせながら、腰帯を解く。

  緩められた袷から手を滑り込ませながらゆっくりと布団の上に横たえると、涙で濡れた瞳がこちらを見上げてきた。
  まるで水に濡れて輝く宝石みたいな瞳だった。

  「まさか、おまえに抱かれる時がくると思わなかった。」
  「うん、僕も思わなかった。」
  笑いながら答えて、肩から着物を滑らせる。
  だって、を女だと思った事、なかったから。
  「私実験台?」
  くすくすとこそ他人事みたいに笑う。
  「そんなひどい事言わないよ。」
  「じゃあなに?」
  多分、

  「この先、他の女は抱かないし――

  「‥‥」

  僕の言葉に、は一瞬だけ真剣な眼差しになった。

  嘘じゃない。
  これは、
  本当。

  他の女なんて知らなくていいと本気で思った。
  誰よりも、
  の方がいいって。

  「総司。」
  「だから、欲しくなったら頂戴ね。」

  冗談めいて言うと、は一瞬瞠目して、

  「‥‥ばぁか。」

  くしゃっと顔を歪めて、笑った。



  着物をはぎ取ると‥‥よく分かる。
  が女だったって事。
  日に焼けていない白い肌がやけに鮮やかで。
  まだ小振りで、未熟さを思わせるけれど、桃のような柔らかな胸が、自分と違う事を知らしめた。

  「‥‥まじまじと見るな。」
  じっと見つめる視線に気付き、は視線を逸らす。
  僅かに染まる頬に、彼女の女としての恥じらいを感じて、なんだかおかしかった。
  「笑うな。」
  「ごめんごめん‥‥って意外と可愛いんだなと思って。」
  「それは‥‥ンっ‥‥褒めてないだろ。」
  細い首筋に誘われるように唇を落とす。
  感触を味わうように軽く、吸い付いて、それから舌先でそっとなぞった。
  「ふっ‥‥ぅ‥‥」
  くすぐったいのか、それとも感じているのか、が小さく呻いた。

  細い鎖骨を通り、やがて胸の膨らみへ。
  胸の輪郭をなぞるように一度、ゆったりと舌を這わせた後、
  その中心で赤く色づいたそれに口づけた。

  「ぁっ‥‥」
  たまらず、の口から声が漏れる。
  「ここ、感じるの?」
  訊ねて、乳首を吸う。
  舌先で捏ねながらゆるく歯を当てると、たまらないという風には身を捩って、僕を押しのけようとする。
  でも所詮は女の力。
  強く押しつけ、ついでにもう片方の胸に手を這わせると、彼女は泣きそうな顔をした。
  「ゃ‥‥ぁっ‥‥」
  唇から聞いた事のない甘い声。

  それは先ほど聞いた女のよりも、ずっと、甘く感じたのに、

  「‥‥」

  ひどく、
  興奮した。

  もう一度聞きたくて、僕はまた、胸を吸った。
  ざらざらとした先端を舌で舐るとまた、

  「ぁっ‥‥んぅっ‥‥」

  は啼いた。


  どくりと、
  腹の底から何かがあふれ出してくる。
  それは男の、
  欲望というやつ。

  どくどくと後から後から溢れてきて、止まらない。

  衝動のままに僕は唇を滑らせる。
  片方の手で胸を弄ったまま、脇腹や臍に口づけを落とし、時には強く噛みついた。
  白い肌に赤い華が咲き、それは僕の視覚を狂わせた。

  やがて、足の付け根、
  彼女がもぞもぞと腿をすりあわせている事に気付いてそこへ手を這わせる。
  膝を立てて左右に開けば簡単だった。

  「そ、総司っ!?」

  慌ててが身体を起こした時には、もう遅かった。
  僕の目に、
  濡れたそこが飛び込んできた。

  を女だと思ったことは、なかった。
  でも、男についているものはそこになく、代わりに入り口があった。
  そこは、微かに濡れていた。

  僕の喉は鳴った。

  「っ‥‥」
  羞恥からか、が喉を震わせ、視線を逸らす。
  その瞬間にひくりと入り口がわななき、まるでそれは誘っているように見えた。

  どくん、
  血が逆流していくのが分かる。
  そしてその血は一点に集中していくのも。

  先ほど淫らに足を開いて誘ってきた女を見たときはなんとも思わなかった。
  僕のはまったく反応を見せなかったのに。

  今は、
  の痴態を見るだけで、
  僕のものは天を差すほどに反応を示している。

  ハヤク、
  ハヤク

  この熱を穿ちたいと思った。

  「‥‥」
  誘われるままに濡れた唇に。
  無骨な指で触れる。
  濃厚な花の蜜を思わせるそれを指で掬って、
  形を確かめるようになぞる。

  「ふ‥‥ぁあっ‥‥」
  ぶるっとは身体を震わせて声を上げた。
  やわやわと襞を指先で解しながら、中心へと指を滑らせ、やがて、
  ぬめりを利用して中に指を差し込む。
  「いっ!」
  痛みと言うより、違和感には顔を顰めた。
  僕はそれに構わず指をずるずると差し込む。
  柔らかい入り口から、ざらついた壁に。
  そこを通り過ぎればまた柔らかな肉が食らい付きいてくる。

  どくどくと脈打つ内部はまるで別の生き物のようだ。

  「あったかいね。」
  熱い中を指で感じながら呟いた。
  何度か出し入れを繰り返す度に、指に絡みつく蜜は増え、その度にぐちゅりと濡れた音が弾けた。
  の嬌声はくぐもったものへと変わり、なんだかつまらない。

  「ねえ、
  声‥‥出してよ。」
  きつく眉根を寄せたままの彼女に囁く。
  そうすると、彼女は片目だけをこちらに向け、
  「だ、出そうと思って‥‥出るもんじゃ、ないっ。」
  と答えた。
  「よくないの?」
  これ。
  「よくないっつか‥‥変な感じ‥‥」
  「ふぅん‥‥
  じゃあここは?」
  ぷっくりと腫れ上がった芽に親指を這わせる。
  花の芽を思わせるそれを腹で擦ると、はびくっと今までにないくらい身体を震わせた。
  「やぁ、っ!」
  ほとんど悲鳴みたいな声を上げ、僕の手を掴む。
  同時にきゅうっと内部が収縮するのが分かった。

  「や、そこ、さわらな‥‥っ‥‥」
  切なげに眉根を寄せる様がたまらなく、色っぽい。

  ぞくぞくと背中を震えが走った。

  「うわ‥‥、今の顔いい。」
  もっと見せて。
  囁きながらもう一度親指で捏ねるようにすれば、は甘く啼きながら首を振った。
  「や、だめっ‥‥」
  じわりと指に濡れた感触がした。
  同時にきゅうと指を締め付けてきた。
  「そ‥‥じっ!」
  「すごい‥‥」
  自分の声がいつの間にか掠れていた。
  どくどくと血が逆流して、疼きが走った。

  暴走しそうだった。
  はやく、
  中に‥‥
  突き入れて、ぐちゃぐちゃにしてやりたいと思った。
  凶暴な欲がぐるぐるとまわる。
  そんなことをしたら、彼女を傷つけるって分かってたのに。

  「総司‥‥っ‥‥」
  琥珀の瞳が、僕を見上げる。
  何かを強請るようなそんな瞳に、

  「いいよ。」

  ――あげる。

  告げた言葉はひどく、
  欲に濡れた音だと思った。



  いた。
  と小さく呻く声が聞こえた。
  ごめんと謝る事も出来ずに、中途半端に押し込んだ熱を、少しだけまた、ねじ込む。
  「っ!」
  びくっと身体の下で小さなその身体が跳ねる。
  開かれることをまだ知らない、幼い身体。
  まだ女になりきれていない身体を、強引に開く。
  は痛みから唇を噛みしめている。
  でも、やめてとは言わない。

  言わずに、
  は僕を受け入れようとしてくれる。

  「‥‥いいの?。」
  ほんとに。
  と問えば、は涙に濡れた瞳を向けた。
  「今更、聞く?」
  そういう事。
  僅かに笑みを浮かべられて、僕はだって、と口ごもった。
  「はじめて‥‥なんでしょ?」
  「そう、だよ。」
  「僕でいいの?」
  もう一度聞くと、はくしゃりと顔を歪めた。
  それから、

  「いいよ。大丈夫。」

  目元を細めて、優しい笑みを浮かべる。
  それは、今まで見た事がないくらい綺麗な笑顔だった。



  言葉はもうなかった。
  ただただ、お互いに快楽を貪った。

  熱を穿つたびに。
  彼女の中が締まるたびに。

  意味を成さない音を立て、ただただ二人は快楽に酔った。

  きつく五指を絡めて。
  脚を絡めて。
  舌を絡めて。

  僕たちは交わる。

  強請るようなの瞳が。
  獣みたいな僕の瞳が。
  絡む。

  ひどいことをしている自覚はあった。
  未熟な身体を強引に開くなんて。
  確かには拒絶しなかった。
  でも、拒絶しないと分かっていた。
  それが分かって、僕は彼女を抱いた。

  ひどいことをしていると‥‥思った。
  だけど、

  「せつ‥‥な‥‥」

  頼りなげに名を呼べば、まるで許すように笑ってくれるから。

  僕はただ。
  許されるままに、
  君を犯した。

  許されるままに、
  僕は熱を君の中に――



  「って‥‥大人?」

  あの時よりも随分大きくなった僕の背中に、のあの時と少しも変わらない背中が触れている。
  ふわりと舞い落ちた桜の花びらが手にした盃に一片、落ちる。
  「大人かどうか分かんないけど‥‥突然どうした?」
  苦笑混じりの問いに、僕は首を捻る。
  「いや、なんていうか‥‥変な所聞き分けがいいっていうか‥‥」
  寛大というか、
  「おおざっぱ?」
  「それは絶対褒めてないだろ。」
  別に怒った風ではなく、は言う。

  いやそうじゃない。

  僕は首を振った。
  でもなんと表現すれば正しいのか分からなくて、沈黙した。
  そうすると、今度はが口を開いた。

  「総司は‥‥ちょっと子供っぽいよな。」
  「はっきり言うね。」
  「ちょっと、って言ったじゃん。」
  「いい年した大人に言う言葉じゃないよ、それ。」
  「でも本当だろ。」
  くくと、彼女は喉を鳴らした。

  子供じゃないよ。

  と言いたいけど‥‥多分実際はよりも幼稚な気がした。

  身体は、
  僕の方が大きいけど。
  は中身が大きい。

  ちょっと、それは釈然としないけど‥‥

  「‥‥総司。」
  「うん?」
  「おまえがガキかどうかは別として‥‥さ。」
  「やっぱり喧嘩売ってる?」
  「実はちょっとね。」

  と笑って、でも、と小さく呟く。
  の声は穏やかだった。
  あの時。
  僕を受け入れてくれた時と同じように、穏やかな声。

  「私はそんな総司の事は嫌いじゃないよ。」

  ざあと、風が吹く。

  ああ。ほんと。
  君は‥‥

  「総司?」

  ころんと、寝転がって、彼女の膝の上を占領した。
  一瞬驚いて、だけど、

  「しようのないヤツだなぁ。」

  困った顔でただ笑ってくれる。


  君は、いつだって僕を許してくれる。
  どれほどひどい仕打ちでも、
  君は笑って、
  受け入れてくれるから。

  あの時確かに‥‥僕は君が好きだった。
  だけどそれを言葉にしなかった。
  それでも君は許してくれた。
  何も言わずに、受け止めてくれた。

  だから、

  だから僕は、

  君に――どこまでも甘えてしまうんだろう――



 が僕を許すから



メインで書いていたように、の初めての相手は総司‥‥
ということで、書いてみました。
は興味本位と思っておりますが、総司は好きで抱いたという。
じゃないと‥‥多分最後までやらないと思う、あの男は(苦笑)
昔のほろ苦い思い出というやつですね。

2009.3.23 蛍