「むにゃ!?」
  浅い眠りから突然引き戻したのは鳥肌が立つような冷たさだった。
  びっくりして目を開ければぼやけた視界に若草色が飛び込んできて、
  「‥‥総司、なにするんだよ‥‥」
  口からは思ったよりも鼻にかかった声が出た。
  あ、くそ、鼻の調子が悪くなってる。
  ず、と鼻をすすりながら眉を寄せると総司はにこりと満面の笑みを浮かべた。
  「うん?ちゃんと寝てるか確かめたんだよ」
  「おかげさまで目が覚めたよ」
  折角寝てたのに‥‥と不満げに言えば総司はごめんねと悪びれなく言って手にした包みを差し出した。
  薬だ。
  「‥‥薬、飲んでなかったでしょ?」
  「あ、うん」
  私は気怠い身体を起こしながら、手を伸ばした。それを総司がわざわざ背中を支えてくれる。
  そんなことしてくれなくても大丈夫なのに‥‥
  「ありがと‥‥」
  包みを受け取ろうとしたら何故か隠された。

  「なんで?」
  「いやそれは私の台詞です」

  持ってきてくれたくせに渡さないとはどういうことだよ?

  怪訝そうに眉を寄せて睨むと、総司は不機嫌そうな顔でこう言った。

  「嫌がるに口移ししたかったのに」

  誰が嫌がるか阿呆。

  「子供じゃあるまいし」
  呆れた顔を向けながら私ははぁとため息をこぼすと、総司は聞き捨てならないと言う風に口を尖らせて抗議した。
  「僕に対するあてつけ?」
  「どうだろね〜」
  「‥‥意地悪だね」
  「おまえにだけは言われたくない」
  いいから、と私は手を出して薬を求めた。
  「おまえが心配しなくても一人で飲めるから」

  と言った私は、
  だけど自分の思い通りに薬を飲むことはできず、



  「‥‥にが‥‥」
  長いながーい口づけの後、総司は苦い顔でそんな事を言った。
  だから、と私は荒くなった呼吸の合間に、
  「私自分で飲むって言ったのに」
  と呟く。
  総司はそんな私にどこか拗ねたような顔で言った。

  「だって‥‥僕が飲ませてあげたかったんだもん」
  「ありがと‥‥飲ませてくれて」
  「治りそう?」
  「総司が飲ませてくれたからね‥‥でもさ‥‥」
  「うん?」
  覗き込む若草色を見上げながら、覆い被さる大きな身体を押し返して言った。

  「‥‥このまま、おまえに暴走されたら治らないと思うんだけど?」

  そうかな‥‥と総司は艶っぽく笑いながらこう返した。

  「身体の中から暖まったら、良くなりそうだよ?」


  ――風邪が悪化するのは決定事項だ。


  
風邪〜日目〜



  良くなったらすぐに調子に乗りそうな総司。