熱は下がりました。
ようやく布団からあがる事を許されて、悪夢からも解放された。
食べ物も食べれるようになったし、身体は随分楽にもなった。
だけど、
「ひじかたさん」
口から出たあまりにぎこちない言葉に彼は眉間に皺を寄せた。
睨まれた。
「だから話すなっつってんだろ」
熱は下がったんだけど、私の喉はまだ病を引きずっていて、声があんまり出ない。
上にとんでもなく嗄れた声。
まるでお婆さんみたいだ。
私は睨まれて、だって、と音にはせずに唇だけを動かして彼を不満げに見た。
自由に起きていいけれど、喋るな‥‥というのはあんまりだ。
折角部屋に来てもらってもありがとうさえ言えないなんて。
「言いたいことなら紙に書けって言っただろ」
「‥‥でも‥‥」
「」
「‥‥‥‥」
低く名前を呼ばれて私はむぐぐと口ごもる。
そんな私を苦笑で見て‥‥湯飲みを差し出してきた。
それを受け取りひりついた喉に流しこむと私はまた苦い顔で彼を見た。
紙に書くまでもなく、彼は私の言いたい事を察してくれる。
長く一緒にいたおかげなのか、彼はよく私の事を理解してくれてる‥‥それがありがたくもありくすぐったくもあり、
何故か悔しくもある。
「‥‥‥‥」
じろっと睨み続けていると、彼はふっと笑いながら手を伸ばしてきた。
長い指が目元をくすぐるみたいに触れた。
「んな顔すんな。
治ったらいっくらでも我が儘聞いてやるからよ‥‥」
そんな事を優しい眼差しで言われると、不満なんてあっという間に消えてしまう。
悔しいなぁと思いながら同時に生まれる愛しさに、
「‥‥‥‥」
私は無言で彼の手を取った。
大きな掌に甘えるように頬擦りをして、そっと口づける。
こんなもので感謝の気持ちや愛しさを伝えられるか分からないけど‥‥
少しでも伝わればいいなぁと思って視線を向ければ、彼は色男に不似合いな間抜けな顔をしていて‥‥
「‥‥っ」
ひくと喉が震えた次の瞬間、彼の紫紺に艶が浮かんだ。
あ れ ?
おかしいと思ったその時には妖しげな笑みを浮かべた彼が迫り、
「っ!?」
どさりと折角起こした布団に寝かしつけられた‥‥というより、
「っ土方さん!?」
押し倒された。
「シッ」
覆い被さる彼は短く言いながら私に沈黙を促す。
「喋るなって言っただろ?」
そんなことできるかと慌てて彼を押し返しすけど病み上がりの身体では彼を制する事はできず、
「っゃ!?」
とんでもないところを触られて私は掠れた声を上げた。
戸惑い、微かに色づいた声に彼はにやりと笑いながら、いいか、と子供にでも言い聞かすみたいな口振りで囁いた。
「声、我慢しろよ」
それはあんた次第だと私はその背中に縋りながら心の中で呟いた。
風邪〜五日目〜
副長暴走バージョン(笑)
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