頭痛い。
  身体だるい。
  なんかどこもかしこも熱くて、気持ち悪い。

  私はぼんやりと天井を見上げていた。
  横になっているはずなのに、なんだか平衡感覚がなくなっていて、今自分が寝てるのか立ってるのかよく分からない。
  そればかりか見上げた天井がぐにゃっと歪んだ。
  じっと見ていると、気持ち悪くなる。
  うえ‥‥
  でも、吐けない。
  吐けないのってこんなに苦しいんだな‥‥

  「‥‥うー‥‥」


  す。
  と前触れもなく障子戸が開いた。
  あ、前触れはあったみたいだけど私は気付かなかった。
  気配を感じなくて、相当自分が熱に冒されてるってのが分かった。

  「?」

  左之さんの声だった。

  「おーい、大丈夫か?」

  ひょこっと、私の視界に赤い色が現れて、

  「大丈夫です。」

  反射って怖い。
  考えるよりも先に口を突いて言葉の方が出てきた。
  さっきまで死にそうになってたくせに?

  そう応えれば彼は眉間に皺を寄せて、それは、と難しい顔で言う。

  「嘘だな。」
  「嘘じゃないです。」

  だから反射って怖い。
  心配を掛けない為‥‥だと思うんだけど、その声は随分と尖っていて、まるで喧嘩を売ってるみたいだと私は思った。
  それは左之さんも感じたらしい。
  驚いたように目を丸め、だけど、すぐに何故か難し顔でいや、と頭を振る。

  「嘘だ。平気なんかじゃねえ。」
  「平気です。大丈夫。」
  「いや、大丈夫じゃねえ。」
  「大丈夫です。一日も寝れば治る。」
  「んな簡単な状態じゃねえだろ。」

  険しい顔でそう言われて、私はむっとした。
  自分でもなんでむっとするのかよく分からなかった。
  多分気持ち悪いからだと思う。あと、熱があるから。自分が何をしたいのかよく分からない。
  ただ、感情が高ぶって、仕方ない。むかつく必要なんか何もないのに。

  「大丈夫だって!」
  口からきつい声が出た。
  大声を出した瞬間、なんか胸の奥で詰まっていた何かがぼろっと落ちた気がする。
  気持ち悪いのがその瞬間すうっと抜けていって、でも、その代わりに、

  「だ、だいじょうぶだって‥‥言ってるのにぃ‥‥」

  さっきとは打って変わって、私の口から情けない泣き声が漏れた。
  それから、目からも。

  なにこれ、私どうなってるの?
  無性に情けなくて、無性に腹が立って。
  わめきたくて、暴れたくて‥‥ぐちゃぐちゃして‥‥

  「っ、だいじょ‥‥ぶって‥‥」

  ぐちゃぐちゃして今私がどうなってるのか分からない。
  何をしたいのかも分からなくて、ただ引きつった声で大丈夫なんだということを必死に主張した。
  そんな私を、左之さんはただ困ったように見つめて、

  「分かった‥‥分かったから、な?」

  優しく、私の目元を拭ってくれた。
  あやすように、何度も、撫でて、分かったからと、声を低めて彼は言った。

  「もう、いいから。
  今はゆっくり休め。」

  さっきまで感じていた苦しさは‥‥どこに行ったんだろう?
  私はその優しい声に流されるように、深い眠りに落ちていった。


  
風邪〜日目〜



  風邪が悪化すると泣きたくなるんだよ、無性に。